第63箱
婚約編のときにも触れましたが――
ワンディ・イクス・ヒアッサ侯爵は、書籍版ではランディ・サブス・ダンディオッサ侯爵へと名前が変更されております。
結婚編においては、WEB版でもそちらに合わせて、以降をダンディオッサ侯爵で表記していこうと思っております。
ややこしくて申し訳ないですが、よしなにお願いします。
さて、パーティの途中ではありますが、サイフォン王子が持っている見聞箱以外の箱を見てみることにしましょう。
パーティはまだ終わっていません。
それならコンティーナ嬢もまだ帰ってはいないと思うのです。
私はいくつかの見聞箱を使って、周辺を覗いてみました。
「……いました」
小さく独りごちて、私は彼女の姿を映す見聞箱の視覚を映像箱の方へ大写しにします。
パーティ用のホールの近くにある小部屋のようですね。
疲れた方などが一息入れるように、いくつか用意されている部屋の一つです。
そこにいるのはコンティーナ嬢とフラスコ王子――それから、ダンディオッサ侯爵。
フラスコ王子派閥の過激派筆頭であり、同時に過激派の抑え役。
成人会でのサイフォン王子毒殺の黒幕容疑者であり、未遂に終わったとはいえ、建国祭で、私とサイフォン王子に何かを仕掛けようとしていた方でもあります。
私たちにとっては要警戒の人物です。
とはいえ、三人で朗らかに談笑している様子だけみると、ダンディオッサ侯爵も悪い人には見えません。
悪巧みのような会話もしている様子はありませんね。
まぁそう簡単に何か掴めるわけでもないとは思ってますけど。
コンティーナ嬢がダンディオッサ侯爵に向ける顔は、親戚の叔父様に甘えたがる姪っ子――でしょうか?
実際のところ、コンティーナ嬢はダンディオッサ侯爵と血の繋がりはないはずなので、単純に会うと良くしてくれる人――程度の認識だとは思いますが。
私はそうやって様子を伺っていたのですが、話題が変わるタイミングでコンティーナ嬢が取り出したモノを見て、私は目を見開きます。
『あ、そうです。ランディ様。少々お見せしたいモノが』
彼女が手にしているモノ。
『この魔心具に見覚えはありませんか?』
『手にとっても?』
『はい。問題ないと思います』
それは、見聞箱でした。
『小さな箱のようだが……開かないな』
色々と試しているダンディオッサ侯爵を見ながら、フラスコ王子が訊ねます。
『ティノ。これをどこで?』
『パーティ会場にありましたので。ただ城のモノではなそうですので、少々不思議に思いまして、持ってきてしまいました』
三人の会話に耳を傾けつつ、私は知識小箱を操作して、会場内の見聞箱を確認します。
ですが、パーティ会場に設置しておいたものが動かされた形跡がありません。
訝しみつつも、私はパーティホール周辺から、王城全域に確認範囲を広げました。
どうやらダンディオッサ侯爵の手元にあるものは、本物のようです。
パーティ会場からではなく、地味で目立たない場所にあったものを持ち出されたようですが……。
だとしたら……どうして会場にあったなんて嘘を付いたのでしょう?
訝しみながら、さらにほかの見聞箱の様子を見て回ると――
《あとで回収させて頂きます》
とある見聞箱のうちの一つ。それの前にそんなメモが置かれている場所がありました。
これは……。
どうやらコンティーナ嬢は、かなりの数の見聞箱に気が付いているようです。
そして、それがどういうモノであるのかも。
ますますコンティーナ嬢について分からなくなっていく中、映像箱から、フラスコ王子たちのやりとりが聞こえてきます。
『よく分からぬが、盗聴の類ができる魔心具だったりするのか?』
フラスコ王子が不思議そうに訊ね、それにコンティーナ嬢が首を横にふりました。
『私にも何に使うのか見当が付かないので……なので、ランディ様に見てもらおうかと』
『そう言われてもな。期待しているところ悪いが、私もそれほど魔心具に詳しいわけではない。
……だが、これは預からせてもらっても?』
『はい』
そうして、ダンディオッサ侯爵は見聞箱を自分の従者に預けます。
……これは。
……期せずして、良い情報収集先が作られたのでは?
でも、先ほどのメモを見る限り、コンティーナ嬢は見聞箱がどういうものであるのか理解している様子。
だというのに、知らないフリをしてダンディオッサ侯爵に手渡した理由は何なのでしょうか……?
目的は分かりません。
ただ――少なくとも、コンティーナ嬢は小柄で愛らしい、甘えっぽい感じだけの人物などではないのは間違いありません。
そのまま様子を見ていましたが、見聞箱に関する話題はダンディオッサ侯爵が片づけるまでだったようで――あとは、また雑談へと移行していきました。
そうして再びパーティ会場へと戻ることとなり、三人は部屋を出ていきます。
私も見聞箱の視覚を閉じようと、そう思った時――誰かが部屋の中へと入ってきました。
……コンティーナ嬢です。
扉を小さく開け、ひょこっと顔を出したあと、部屋の中の様子を伺って、ささっと入ってきます。
それから扉を閉めてから、見聞箱へと視線を向けました。
「――……ッ!?」
思わず息を飲みます。
彼女は――私が様子を見ていたことに気づいていたッ!?
唇の端に指を当てて笑う彼女の姿は、可愛らしさやあざとさとは違う、挑発的で蠱惑的で、だけど力強く自信に満ちたもの。
それは明らかに私へ向けたものでしょう。
私に対する、何らかの宣戦布告。
『ティノ。忘れ物は見つかったか?』
見聞箱越しの睨み合いのようになっていた私たち。
そこへ聞こえてきたのは、ノックの音と、それに続くフラスコ王子の声でした。
すると、彼女はすぐさま、愛らしい雰囲気に変わると、飴のように甘い――いえ、飴を舐め溶かすような声で答えます。
『ありました。ご迷惑をおけしてすみません』
『この程度、迷惑なものか。忘れ物など、誰にでもあるコトだ』
『ありがとうございます、殿下』
扉越しにやりとりをし、コンティーナ嬢はこちらに視線を向けて、意味ありげにニヤリと笑ってから、部屋を出ていくのでした。
コンティーナ嬢……。
コンティーナ・カーネ・ターキッシュ……。
一体、何者で、何が目的なのでしょうか?
父君であるターキッシュ伯爵にも、一瞬だけ敵意に近い視線を向けていましたし……。
ともあれ、ここでの出来事はまとめてサイフォン王子に報告することにしましょう。
とはいっても、今はパーティの最中。
集まった情報は夜にまとめて送ります――という内容のメモだけでいいでしょう。
それにしても……。
婚約発表を乗り越えたばかりだっていうのに、なんともまぁ、前途多難な感じですね……。
書籍版の第二巻がでます٩( 'ω' )وよろしくお願いします!
『箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚』
発売日は10/3となっております!
早いところは明日(29日)に店頭に並ぶところもあるようです!
書影などの情報は活動報告にありますので、是非ご覧下さい。
綺麗な純白ドレスのモカちゃんが素敵眩しい表紙となっておりますよー٩( 'ω' )و