【閑話】モカちゃんが箱魔法について語ったあと背徳に負ける話
タイトル通りのお話
空白だった箱空間を自分の好みに変えていく。
その作業は、魔力を大量に使ってしまう一方で、とても楽しい作業でした。
また、魔力は使えば使うほど、その保有許容量が増えていくことに気づいたのもこの時です。
毎日箱を呼び出し、箱の中で魔力を使ってあれこれコーディネートしていく。それは当然のように大量の魔力を消費するわけで……。
寝たりご飯を食べたりすると回復する魔力の量も、その保有最大量と比例しているようです。
つまり、十歳になった頃には、基本となる箱を常時維持する魔力の消費量よりも、一日で回復する魔力量の方が多くなってしまっていたのでしょう。
でも今回は、そんな魔力のお話ではありません。
紹介したい『箱』があるので、そちらを紹介させてください。
その箱の名前は知識箱。
ある意味で、私の扱う箱魔法の核とも言える箱です。
最初の白紙状態の時には気づかなかったのですが、自分好みにコーディネートしている最中に、これの存在に気づきました。
恐らくは私が白紙の空間に目を輝かせている時点から存在していたと思われる箱です。
この知識箱、引きこもりたいけど外の情報は常に仕入れたい――という私の無茶な願いが形になったものなのでしょう。
知識箱のおかげで、外の様子を窺うのも、情報を映像箱に映し出したりできるのです。
あちこちに設置して盗撮・盗聴に使っている見聞箱も、知識箱を基点に作られているものです。
なので、見聞箱たちが得た情報は、知識箱に保存されます。
ちなみに、ハココこと知識小箱たちは、この知識箱の機能の一部を搭載し持ち運べるようにしたものと言えます。
また色々な機能を持つ知識箱を正確に操作するのにも利用してますね。
本体である知識箱は動かすことができないので、箱の中のベッドで横になって情報を集めたり、外を眺めたりするのには向きません。
また箱の外にも持ち出すことができないので、機能の一部が使える上に箱の外へと連れ出すことの出来るハココは大変重宝します。
ベッドで横になりながら使えるのもポイント高いですね。
そして、知識箱に関していえば、私が両親から引きこもりを大目に見て貰えていた最大の要因ともいえます。
この知識箱――不可思議な『情報の海』なるところから、様々な情報を呼び出すことができるのが、最大の能力です。
最初は両親の悩みを解決する簡単な情報収集が主でした。
知識箱から美容に関する情報を引き出してお母様に渡したり。
知識箱から制度に関する情報を引き出してお父様に渡したり。
どう利用するかは二人次第なものの、二人がそれを迂闊な方法で広めたりはしないという信頼はありました。
見聞箱が使えるようになると、カチーナに協力してもらい、様々な場所に設置して情報を集める。
その情報は、主にお父様に提供しました。
情報を提供した時、お父様に褒められたのがとても嬉しくて。
だから、情報収集は褒めてもらう為にがんばりました。がんばっているうちにライフワーク化していった面は認めます。
カチーナや人形箱を利用して、情報屋ルアクなんていう架空の人物を作り上げてしまったりしてますが、これはこれで楽しいです。
ともあれ――
本格的に引きこもったあとも、情報提供だけは欠かさずにやっていたことこそが、二人から許して貰えていた理由の一つかもしれません。
ただ褒められることにも馴れてきて、本格的に引きこもって研究が楽しくなってきて――その辺りから、情報収集への熱はかなり薄くなっていたのは確かです。
もちろん欠かさずにやっていましたよ。
社交しない分の埋め合わせという感じでしたので、ここだけはどれだけ引きこもろうとサボっちゃダメだと思ってましたから。
必要だろう情報は紙にまとめて常に箱の上面に置いておきましたし。
とはいえ、両親とのやりとりは希薄化していたのも確かです。
最終的には、両親とのやりとりは読書と研究の邪魔とまで考えはじめていたのですから、我ながら何とも酷いことをしたもんだと、反省しています。
それはそれとして、本格的に情報収集をしたり情報を整理したりするとなると、ハココでは少々もの足りません。
そういう時は、知識箱の近くまで移動して作業となります。
ただ、長時間向き合っていると疲れてしまうのですよね。
だからこそ、今の環境が生まれました。
疲れない作業環境というものを、知識箱に訊ねたのです。
そして教えてもらったのが、今私が座っているゲーミングチェアなる椅子です。
魔力を使って久々に物質作成しました。
ただこのゲーミングチェア。呼び出す時に消費した魔力が、他の椅子などの家具と比べると重かったのですよね。
恐らくは知識箱が教えてくれる、現代の技術では作成の難しそうなモノを呼び出すのは負担が大きいのでしょう。
まぁ私の魔力量からすると、誤差と言えば誤差ですので気にしないことにします。
これすごいんですよ!
座り心地が良いのはもちろん、首や腰のあたりに可動式のクッションがあるんです!
しかも、背もたれが可動式なんで、倒せば横になれるすぐれもの!
可動式背もたれなんて、今まで考えたことありませんでしたから、これは非常に画期的です。
ただクッション部分以外に使われている硬いモノの材質が未知の物質でして、なんとも不思議な感触なのです。
同様の材質のモノをお父様とお母様に見て貰ったことがありますが、お二人とも見たことがないそうで……。
摩訶不思議な特殊物質。
一応知識箱で調べはしたのですよ?
カーボンやプラスチックという名称は判明しましたが、やっぱり良く分かりません。
詳しく調べようとすると、炭素繊維とか合成樹脂など見慣れない単語や記号がいっぱい並んでいて、さすがに難しくて断念しました。
きっと、これらを読み解くのに必要な基礎知識がそもそも私に足りてないのでしょう。
まぁ椅子やその素材だけでもこれだけ色んな情報が引き出せる知識箱です。当然、もっと色んな情報を引き出すことができます。
ただ、こちらから気になる情報を投げかけることで、情報が返ってくるワケですから、そもそも調べたい情報のヒントが手元にあること前提です。
また、調べられるのはあくまで知識のみ。
生き物の思考などをのぞき込んだりはできません。
行動や作戦などは見聞箱で盗み見ることが大前提となります。
とはいえ、色々と調べられるというだけで大変楽しいのです。正直、知識箱を使って調べ物をしているだけで一日潰せます。
以前、何か良さげなクッションはあるかと調べた時のことです。『人をダメにするクッション』なるすごいクッションが出てきました。
名前から感じる背徳の予感。
本当にダメな引きこもりから脱却したばかりの私がそれを見つけた時、とても葛藤したのです。
作るか否か。
その大きめなクッションにもたれ掛かって至福の表情を浮かべている女性の画像を見ながら必死に考えました。
そして、あの時は、作成するのをやめたのです。
両親を泣かせたばかり。ダメになるクッションなんて使ってダメになってしまったら、人間としてダメすぎると。
ですが今――サイフォン王子との婚約がなった今なら、もしかしたら作り出して良いのではないでしょうか?
ドキドキとしながら、魔力を高めて呼び出します。
大きなクッションが現れ――私は背徳感に胸を高鳴らせながら、その柔らかな愛に包み込まれるのでした。
□
「カ、カチーナ!」
「ダメです。これは没収です。このような危険なクッションは封印するべきです」
「で、でも! わかる、よね? その抱きしめているだけ……で、ダメになる感じい……素敵でしょう?」
「抱きしめているだけで私もダメになってしまいそうなので、やっぱり没収です」
「そんなぁ……」
閑話が2話続けてモカちゃんの設定語りだったので、
なんかもうちょっとふつうの閑話もやりたいところ。
本編はモカちゃんサイフォンくんの結婚までとその過程にまつわる事件を主眼に、
そこに大きく関わらない設定は基本触れない方向でやってるんですよね。
だから、語りたいコトは一杯あって、ついついこういうのを書いてしまいます。
それはそれとして
2/28にコミカライズの1巻が発売されます٩( 'ω' )و
こちらもよろしくお願いします。