【閑話】ドリップス公爵家の縁の下の話 - マキア -
昨日に続き、コミカライズ開始記念٩( 'ω' )و遅刻気味!!
……って感じでアップしようと思ってたんですが、
コミカライズが、ピクシブコミックの9月月間ランキングで1位だったそうです!
何ソレすごい!!ってことで、やったぜ記念も兼ねるってコトで!
昨日に続き、ドリップス公爵家でお仕事している人達のお話です。
視点となってるのは本編には名前が出てきてない子ですがよろしく。
あたしこと、マキア・メル・キャラートには気になっている人がいる。
……と、言っても別に気になる男がいるとかそういう色っぽい話じゃない。
いや、可能なら色っぽい話を報告したいという欲求はあれど縁と機会がないものだから……ごにょごにょ。
こほん。
さておき、です。
その気になっている人というのが、ラニカ・ラグア・パニカージャ。
あたしの職場。
ドリップス公爵家の王都邸宅の期待の新人。
新人でありながら、あたし同様にどの仕事を割り振られても問題なくこなすことができるすごい子だ。
「ラニカッ、そこ滑るから気をつけ――」
「え? わッ、きゃぁぁっぁ~~ッ!!」
どどどどん! すだらばだらだばら……ごん!
がっしゃ~~~~ん!!
……できる、すごい、子……の、はずだ。
急に曖昧になったのは、あのドジっぷりのせいだ。
雑談しながらベッドメイクしたり、掃除したりしてる時は、テキパキと動くし、あたしが気づいてないことを教えてくれたり、気になったことを率先してササっと解決するくらいには優秀なんだ。
それなのに、どういうワケか、やたらと盛大な失敗をやらかす。
大体は笑って済むような失敗だし、旦那様たちもドジという言葉で済むような失敗なら、笑って流してくれるから問題はないんだけど。
実際、入ってすぐに家政婦に分類される雑務全般がこなせる人は少ない。そういう意味では間違いなくすごいのだけれど……。
しかも、ラニカの場合はハウスキーパー業だけでなく、メイド業にすら期待を寄せられているのだから、ちょっと嫉妬しそうだ。
そのぐらい、優秀なはずなんだけど……。
ううむ……。
素直にスゴいと言い切れないんだよね……。
あ。そうそう。
ドリップス公爵家が特殊なのは重々承知なんだけどさ。
この家って、メイドとハウスキーパーの間の壁みたいなものが薄いし低いんだよね。
もちろん、立場的に上位なのはメイドなんだけど。
別に向こうが見下したりしてくることもないし、それどころかふつうにこっちの仕事を手伝ってくれることもあるし。
こっちから近寄りがたい……って感じも特にないかな。
その辺り、カチーナさんなんかわかりやすいよね。
あの人はお嬢様付きの侍女としての仕事もハウスキーパーの仕事もそつなくこなせる。
お嬢様がお嬢様なので、手が空いた時は結構こっちに来て手伝ってくれるんだよね。
それにしてもカチーナさん……わかりやすい侍女やハウスキーパーの仕事以外にも、家庭教師もできるし、貴族教育もできるし、戦闘もできるし、護衛もできるし、噂によれば諜報や暗殺だってできるらしい。
あの人にできない仕事はないんじゃないかな。
さすがは先輩! あたしの憧れの人!
……こほん。
まあハウスキーパーからメイドの仕事で手伝えることがないから、ちょっともどかしさはあるけれど。
とにもかくにも、優秀で人格者な人が多い職場ってイメージを、あたしは持っているかな。
実際、そういう人材を集めてるんだろうなって思う時はあるしね。
何せドリップス公爵家は、領地にある本邸も、王都にある別邸も、その屋敷の規模のわりには、勤めている人の数は、同規模の別の家と比べると少な目だ。
だけど、休憩時間や休暇はしっかり取らせてもらえるし、人数の少なさを感じさせないくらいサラっと仕事が終わっていく。
要求される仕事の質は高いものの、相応の給金が高いのだから文句もない。
これ以上ないくらい最高の職場だと思う。
こういう状況になっているのも、優秀な侍従やハウスキーパーの育成にチカラを入れているロジャーマン家――カチーナさんのご実家だ――とドリップス家が懇意にしているっていうのもあるんだろうね。
ロジャーマン家は人を預かって教育をするということをしているから。
主の為に何でもできるようになれ――というレベルでみっちりしごかれる。というかしごかれた。
なので、メイド業もハウスキーパー業もどっちもできる人材になりやすい。
少なくともドリップス家において、ロジャーマン家に鍛えられた人材は、ハウスキーパーを経てメイドにしてもらえることもあるくらいだ。
だからこそ、双方の垣根がほかの家に比べてかなり低い。
あたしも、メイド業やりたいんだけどなー……。
一応、ロジャーマン家で人材教育受けてきたんだけどなー……。
まぁどちらかというと、ハウスキーパー関連が楽しくてそっち優先して勉強してたんだけどさ。
……って、なんか思い切り話がズレはじめたので、ラニカの話に戻そう。
ともあれ、そういう優秀な人材が集まるお屋敷に、即戦力として加入した新人ラニカが、優秀でないわけがない。
実際、彼女もまたロジャーマン家の人材教育を受けた子だ。
それは断言できる。
ラニカは掃除をメインに担当しつつも、侍女見習いのような仕事を頼まれていることがあるほどだ。
相当、見込みがあるんだろうと思う。
なんてつらつらと考えていると、件の新人ラニカが顔を出した。
「お、遅く……なりました……」
何でそんなにボロボロなの?
「とりあえず、遅刻じゃないから大丈夫。
っていうか、濡れた床に足を取られたくらいでやたらボロボロになってない?」
「何で転んだって知ってるんですかッ!?」
「声と悲鳴と転がる音が聞こえたし」
とはいえ、あの悲鳴と音から考えると、こんなにボロボロにならないと思うんだけど。
「カチーナさんに頼られたのが嬉しくて廊下を走ったのは反省してます」
「反省してもまた走るんだよね?」
そこで目を逸らすの――どう考えても肯定の意味にしか取れないんだけど?
ハデな音を出しながら盛大に転ける最大の要因がそれだと思うんだけどなー……。
「と、とにかく! 転んだ場所が階段の踊り場で……。
花瓶が飾ってあった台にぶつかっちゃったんですよ」
そういえば、転んだあとわずかな間が空いて、何かが壊れた音が聞こえたけど、それか。
「落ちた花瓶にでもぶつかったの?」
「幸い私にも周囲にも怪我は無かったんですが……あ、花瓶は落ちました」
「落ちたんだ」
「でも、落ちる前にキャッチできました。
……キャッチしたところまでは良かったんですが……」
キャッチできたことはすごいと思うけど……。
「キャッチすると同時にその重みでバランス崩しちゃいまして……。
必死にバランスとってたら、よろめいたまま階段を踏み外して……。
滑り落ちながらも必死に花瓶だけは死守しようとしてたんですが、気が付くと手の中から抜けてしまって……。
わたしが床に投げ出されるコト僅か遅れて、近くに花瓶が落ちてきて……何とか背中で受け止めました」
あたしは頭を抱えながら嘆息する。
とはいえ、花瓶を割らなかったのは正直すごい。
「それはまた芸術的なドジをしたわね」
「芸術的なドジって……」
何やら不服そうに口を尖らせるラニカを、とりあえず着替えてこいと追い出すのだった。
さて、改めてお仕事お仕事。
あたしとラニカがこれからするのは料理だ。
本来の料理担当というか料理人は二人いるんだけど、今日はどちらも休暇を取ってしまっているので、あたしとラニカにお鉢が回ってきた。
ほかの家じゃ、そもそも担当場所の仕事を手伝うレベルではなく、一日がっつりメインでやらされるなんてあり得ないことだろうけど、ここだとそれがあり得るんだから、ほんと特殊な職場だよね。
まぁ、あたしもラニカも、ロジャーマン家でみっちり仕込まれてきたので、問題ない。
――問題ないって言ってるそばから、ラニカが手に持っていたジャガイモを宙に放るという問題行動をしていた。
「てい」
直後、宙を舞うジャガイモに包丁一閃。
ジャガイモが四等分になって、まな板の上に落ちた。
「どうしてカチーナさんはこれで、千切りとかできるんでしょう?」
「四等分にできる時点で貴女も相当よ、ラニカ?」
一振りしかしてないのに、どうして四等分になるのかが分からない。
カチーナさんの場合、四等分どころか千切りだからますます意味が分からない。
そもそもカチーナさんを基準にしちゃダメだとは思うんだけど……。
「ともかく、遊んでないでやるわよ」
「はい」
一応、先輩なので偉そうにしているあたしだけど、たぶん技術的にはラニカの方が色々と上なんだよねぇ……。
(さて、そろそろタマネギでも切って……)
「マキアさん、タマネギ切り終わってますよ~」
「あら、ありがとう」
ボールにどっさりのタマネギを受け取るあたし。
(そろそろお塩の準備を……)
「マキアさん、お塩ここに置いておきますね」
「うん、ありがとう」
ささっと、ベストなタイミングでお塩が用意された。
(しまった……次の料理のお魚、臭み消しの下拵えをして無かった……)
「マキアさん。この魚、次に使いますよね?」
「……ありがとう」
完璧な下拵えをされたお魚が用意されている。
終始、そんなやりとりをしながら料理が完成したので、あたしは思わず天を仰いだ。
「今日の厨房、あたし……いる?」
なんて言うか、ラニカの仕事が速すぎて、何もしてない感がある。
「え? 味付けとか焼き方とか、そういうのはマキアさんの方がわたしよりも上手じゃないですか。必要ですよ、必要。
実際、マキアさんが調理してくれるから、わたしが下拵えとか、調味料やお皿を用意するサポートをメインに動けたワケですし」
本気でそう思っていそうな瞳で告げるラニカ。
そう言われると悪い気分ではないけれど……。
「わたし一人だったら、もしかしたら空回っちゃってドジばっかして、料理が完成しなかったかもしれませんから」
そう言われると、そうかもしれない。
でも、ドジに関わる仕事の多くはメイド業の仕事をしている時な気がする。
「こういう雑務でもドジしちゃうの?」
「んー……業務内容がどうこうっていうより、なんというか……とにかくがんばらなきゃって強く意識すると、失敗しちゃうといいますか……。
慌ててたり、焦ったりすると、自分でもよく分からないくらいドタバタしたりしちゃうんです」
根が真面目すぎるのか、責任感が強いのか。
「頼られると張り切っちゃう感じ?」
「あー……それもあるかもしれません。
みんなから期待されてるって、そう感じちゃうコトも多いですし」
もしかしたら、その期待に応えようとして空回ってるのかな?
「あ、元々ドジだったっていうのは、ありますよ?
だから……ってワケじゃないですけど、いつも通りの些細なドジを、仕事中にしちゃうと、慌てちゃって失敗に繋がるコトもありますね……」
そして、一人でやるからこそ、失敗できないと気負いすぎる、と。
「ラニカはその必要以上にがんばろうとしちゃうところ、直してかないといけないのかもね」
「え?」
「がんばりすぎないようにがんばる。
それが出来たら――もしかしたら、カチーナさんに一番近いのはラニカかもよ?」
お嬢様がサイフォン殿下とご結婚されて、王城住まいとなった時に連れて行く侍女は、カチーナさんだけでなく、ラニカも選ばれるかもしれない。
何よりカチーナさんはロジャーマン家がある。
ロジャーマン家を継ぐ為に、侍女を辞める可能性だってあるのだから、あの人の仕事を引き継ぐ人材が必要だろう。
そう考えると、ラニカの能力は、カチーナさんに近いんじゃないかと思ってしまう。
「……ところでラニカ、戦闘や護衛ってできる?」
「マキアさんと同じで護身術程度ならできますけど……それ、わたしたちの仕事ですか?」
「諜報や暗殺は?」
「できませんって!」
まぁラニカには向かなそうだもんね、どれも。
「やっぱりカチーナさんは遠いよね」
「え? カチーナさん出来るのッ!?」
「見たことないけど、出来るって噂だよ?」
「……わたし、がんばります!」
「何をッ!?」
そうして気合いを入れたラニカが、調理器具の後片づけを始めようとして――
「あ」
「ちょ……ッ!?」
盛大にすっころぶのだった。
……あ、作った料理は死守しました。大丈夫です。
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