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第57箱

活動報告にも書きましたが


本話で大活躍のヒアッサ侯爵なのですが

オトナの事情により、名前が変更となり

書籍版ではランディ・サブス・ダンディオッサになります


WEB版においては、本章中はそのままで行く予定です。



「お二人とも、そこまでになさってください」


 そこにいたのは、悪役顔と噂の男性でした。


 黒い衣装に身を包み、赤や紫色の宝石の首飾りや指輪を見せびらかすように身につけたその人物――お茶会の席でも、話題にあがった怖い顔の侯爵ことワンディ・イクス・ヒアッサ侯爵です。


「相変わらず人相が悪いな、ワンディ」

「フラスコ殿下、私自身が気にしているコトを言わないで頂きたい」


 フラスコ王子の言葉に、口ほど気にした様子もなくヒアッサ侯爵はそう告げました。


 彼の登場で、フラスコ王子は気が逸れたのか魔力を霧散させます。

 侯爵が乱入してきた事情などは判断しづらいところですが、それでもフラスコ王子が魔法を使う前で助かりました。


「ご無沙汰しております、サイフォン殿下」

「ああ、久しいなヒアッサ侯爵」


 サイフォン王子も警戒はしていますが、フラスコ王子との間にあった一触即発といった感じはなくなりましたね。

 ちょっとひと安心です。


「もしよろしければ、そちらの婚約者様にご挨拶をさせて頂けませんかな?」


 チラりと、サイフォン王子が私を見てきます。

 フラスコ王子と異なり、高圧的な様子はなく、純粋に挨拶をしたいだけといった態度です。


 少しだけ悩んで、内側からコンコンと音を出しました。


「彼女は、人前に出るコトそのものが負担となっている。本当に挨拶だけにしてくれ」

「ええ。かしこまりました」


 ヒアッサ侯爵がうなずくのを確認してから、サイフォン王子が半歩横にズレました。

 その時、フラスコ王子の小柄な従者が何やら喚こうとして、横にいた護衛騎士がその口を押さえます。


 ……あの騎士さん、大変ですね……。


「お初にお目にかかります。侯爵家のワンディ・イクス・ヒアッサです。

 噂通りのお姿であったコト、驚いております」


 少しばかりの皮肉のつもりなのでしょう。挨拶に添えられた言葉を口にする時、あくどい笑みが浮かびました。

 ……もしかしたら、純粋な微笑みだったのかもしれませんが、そう見えないのですから、損なお顔をされています。


 まぁ皮肉であれ、純粋な感想であれ、実際に『箱』なのは事実です。


「お、お初に……お目に、かかります。

 ドリップス宰相が、娘……モカ・フィルタ・ドリップスと、申し……ます。

 ヒアッサ侯爵……の、お噂は、かねがね……」

「もしよければ、どのような噂かお伺いしても?」


 自分から言っておいてなんですが、悪いことの黒幕をしているという噂ですよ――と、ハッキリ言う勇気はないので、誤魔化しましょう。


「物語の、黒幕の……ような、見た目の……方……と」

「わははははは。貴女のようなご令嬢にまで届いてしまっているとは、我が顔ながら困ったものだ」


 そんな私の言葉を笑って流す様子は、さすがです。

 この程度で怒るような方ではないのですね。


「なかなか面白い方を婚約者に選ばれましたな、サイフォン殿下?」

「以前から言っていただろう? 面白い相手が欲しい、と」


 笑顔で穏やかなやりとり。

 ただ、そのやりとりの裏で、皮肉が高速で飛び交っているのですから、本当に貴族というのは面倒です。


「聡明そうでもあり、サイフォン殿下が望んでいた方でもある、と」

「聡明そうではなく、実際に聡明だぞ?

 彼女の幅広い知識の中には毒や病気についても多くある。

 実際、それで命が助かった者もいるからな」


 サイフォン王子はそこに触れるのですね。

 ヒアッサ侯爵はどうでるでしょうか?


 命が助かった者――という言い方をすると、毒殺されかけたサイフォン王子だと思うかも知れません。

 ですがサイフォン王子は、毒や病気という言い方をしました。

 毒なら王子ですが、病気であればお茶会での令嬢たちのことでしょう。


 今の言い方をすることで、ヒアッサ侯爵から何か情報を取ろうとしているのだとは思いますが――


「ほう。毒や病気の知識ですか。

 それは確かにすばらしい。実際に人を救っているのでしたら、本当に有能なご令嬢なのでしょう」


 ――素直に賞賛してきました。

 まぁそう簡単にボロは出しませんよね。


「だがサイフォン。

 毒や病気の知識があろうと『箱』だぞ。本当に妻とするのか?」

「ええ、そのつもりですが?

 何か問題でも、兄上?」


 ヒアッサ侯爵とのやりとりに割って入ってきたフラスコ王子に、サイフォン王子は真っ直ぐ返しました。


「モカは、箱の中に引きこもっている面だけ見れば確かにマイナスだ。だがそれを補って余りあるものを持った、大変優秀な女性でな。

 建国祭開会の挨拶とともに、婚約の発表が行われるが――その場で私はその優秀さを示すつもりでいる」


 ……え? そうなんですか?


 などと思っていると、フラスコ王子やヒアッサ侯爵の死角から、箱の中へと腕を入れて紙を投げてきました。


 広げて見れば、今日の予定と計画が書かれています。

 こういうモノはもっと早く貰いたかったのですけれど。


 ただ、これを見る限り、私はほぼ喋ることはなく、しかも箱のままで良さそうなので、安心です。


「それは楽しみです」

「フン」


 はっはっはと楽しそうに笑うヒアッサ侯爵とは反対に、つまらなそうに鼻を鳴らすフラスコ王子。

 そのタイミングに、ヒアッサ侯爵付きの従者が彼に何か耳打ちしました。


「殿下方、どうやらそろそろ時間のようです。

 それぞれに、バルコニーへと出る準備をする必要があるでしょう?

 私もこれで失礼させて頂きます。

 モカ様のお披露目、上手く行くコトをお祈りしておきます」


 一礼して去っていくヒアッサ侯爵。

 何というか……あの方のお祈りは「上手く行けば良いですね」という嫌味に聞こえてきます。

 あるいは「邪魔をするのでよろしく」という宣戦布告――でしょうか。


 どちらにしろ、あまり良い印象はありません。


「行くぞ、ピオーウェン、ブラーガ」


 そしてフラスコ王子はこちらに挨拶することなく、騎士と従者の名前を呼んで去っていきました。

 去り際に従者のブラーガがこちらを睨んできて、騎士ピオーウェンに叱られています。

 ブラーガを叱りながら、一瞬だけピオーウェンはこちらへと、本当に申し訳なさそうな眼差しを向けてきました。


 その様子を見送りながら、私は思わず呟きが漏れました。


「あのブラーガ……という従者、良いのですか……ね?」

「良くはないのだが、ブラーガ以外兄上に仕える気のある従者がいなくてな……。兄上もブラーガを甘やかすものだから、最近じゃすっかり『またブラーガか』という扱いだよ」

「あちらの騎士の方は?」

「ピオーウェンは言葉遣いや態度はお世辞にも良いとはいえないが、去り際の視線の通り、根が真面目なのは間違いない。

 従者同様に、兄上の護衛をしたがる者は少なくてな……兄上は彼も信用し心許しているようだ。

 何よりピオーウェンは護衛だけでなく、兄上とブラーガのお目付役という面倒ごとを引き受けてくれている。その為、周囲からは同情込みで多少の態度の悪さは大目に見られている」


 思わず口にしてしまった疑問に、サイフォン王子も疲れたように答えてくれました。

 感情的になりやすいフラスコ王子と従者の心得が足りなさそうなブラーガを止める為のお目付役ですか……。

 今日の様子を見ただけでも、とても大変そうに見えます。


 それに、騎士ピオーウェンに関しては、常日頃の言動や態度は分かりませんが、今日の様子を見るにそう悪いものでもなかったと思います。


「すまないな、モカ。怖がらせてしまったか?」

「いえ、えっと……サイフォン殿下が、守って……ください、ましたから」

「守ってくれた――と、思ってもらえて良かったよ」


 そう言って、とろけるような笑顔を浮かべるサイフォン王子。

 その笑顔を真正面から見れるのは私の特権かもしれませんが、真正面から見てしまったあまり言葉を失います。


 周囲の人たちがそんな王子の笑顔を横から見たのでしょう。特に女性たちは、クラクラした様子を見せています。


 わかります。

 普段の爽やかな笑顔や、作り笑いのようなものではなく、自然に浮かんだサイフォン王子の笑顔は、本当に心臓に悪いです。


「きょ、今日は……改めて、よろしく……お願い、しますね」

「ああ。しっかりエスコートさせてもらうよ」


 優しく『箱』を撫でる王子に、私は思わず『箱』を羨ましいと思ってしまうのでした。



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― 新着の感想 ―
[一言] ヒアッサ侯爵が、その名を使えない理由が気になって夜しか眠れない。
[良い点] 箱が羨ましいって、初めて聞いたかもw
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