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第56箱


 城下を見下ろすことができるバルコニー。

 その手前には、参加する王族や貴族が待機する為の広い部屋――というよりも空間とでも呼ぶべき場所となっています。


 参加する者たちの護衛や従者たちも集まるので、必然的に広くなってしまったのでしょう。


 そんな空間の片隅に私は、鎮座しています。

 出来るだけ目立たないように、誰からも声をかけられないように、そんなことを祈りながら。


 ですが、祈り届かず――私へと近寄ってくる人物がいました。

 私の横にいるカチーナも少し緊張した様子を見せます。


 優男然とした騎士と小柄な従者を引き連れて近寄ってきた男性。

 銀色の髪と翡翠の瞳を持つその人物は――第一王子のフラスコ・ロート・ドールトール様。サイフォン王子のお兄様。


 サイフォン王子を文官よりの柔和な方と称するのであれば、フラスコ王子は武官よりの粗暴な方――でしょうか。

 私が時々覗き見した印象としては、よく言えばマイペース。悪く言えば傍若無人。不敬同然の判断を下すなら乱暴者の暴君。


 そんな人と会話するなんて、シンドいどころの話ではないのですけれど……!


 私が一人で戦々兢々(せんせんきょうきょう)としていると、スルりと自然な様子でサイフォン王子が私の横へとやってきました。


 す、救いの王子様がきました! これで勝てます!


「それがお前の婚約者か? 本当に箱なのだな。トチ狂ったのか、サイフォン?」

「箱ですが何か? 俺は至って正気ですし、箱のままでも構わないと言ったのも俺です。

 兄上こそ、コナ嬢はどうしたんです? 彼女は貴方の婚約者でしょう?」


 そういえば、婚約者のコナ様は一緒ではありませんね。

 発表は後日に回すと言えども、エスコートもされないのでしょうか?


「コナは関係ないだろう。

 オレはそこの箱と話がしたい。退け」

「お断りします。そのような態度では彼女が怖がりますので」


 何だかハラハラしてきます。

 実際、フラスコ王子と話をしたいかと言われればノーと叫びたいところです。


 サイフォン王子もサイフォン王子でやたらと強気に言い返すものですから、見ていて怖くなってきます。


 二人の王子がにらみ合っていると、フラスコ王子の後ろに控えている人たちが何やら小さく騒いでいます。


 従者の方が一歩前に出てこようとして、騎士の方がその口を塞ぎながら引き寄せました。

 馴れているのか、かなりさりげなく、不自然に思われないような早業です。


 何かを耳打ちすると、不満そうな顔をしながらも従者の方がおとなしくなりました。


 なんだったのでしょうか?

 従者の方が飛び出して来そうなところを、騎士の方が押さえている感じに見えましたが。


 ただ従者の方はそれに納得してないようです。

 従者のわりに、些か弁えが足りないといいますか……。


 それでも動きを止めたことに、騎士の方はこっそりと息を吐いています。あれは安堵ですかね?

 フラスコ王子はサイフォン王子と睨みあうのに意識が向いていて、後ろの二人の様子は気づいていないようです。


 周囲を見ると、どこか呆れたような諦めたような視線を二人に向けられている方が多く見えるような……。


 あ……横を見れば、カチーナとサバナスの目が怖いことになってます。

 優秀な従者の二人にとっては、護衛騎士に押さえられている従者の態度が目に余るのでしょうか。


 そんなカチーナとサバナスの視線に気づいたのか、フラスコ王子の従者も二人を睨んで――あ、いえ。睨んでるのは私ですか。


 まぁ睨まれるだけならどうでもいいです。

 適当に指摘しても、目つきが悪いだけとか、そんなつもりは無かったとのらりくらりと躱されるだけでしょうし。


 でも、ますます以て、カチーナとサバナスが不機嫌になってますね。

 態度にも表情にも出してないようですけど。


 …………。


 前を見れば、殿下同士で睨み合い……。

 横を見れば、従者同士で睨み合い……。


 そうだ、天井を見ましょう。

 私は天井と睨み合えば、役割分担はバッチリです。


 ……あ、はい。現実逃避してる場合ではないですね。


「弟の婚約者に挨拶もさせてくれないのか?」

「兄上の態度は弟の婚約者に挨拶する態度ではないでしょう?」


 露骨に不機嫌になったフラスコ王子の右手に、魔力が高まっていく様子が窺えます。


 フラスコ王子は機嫌が悪くなると、風属性魔法で突風を起こして何かを吹き飛ばす悪癖を持っているのですが……いくらなんでも、式典前の控え室でそれをするのですか……ッ!?


 その風がどこに向けられて放たれるか分かりませんが、いくらなんでも……ッ!


 私が内心で焦っていると、パンパンと注意を引くような手拍子が聞こえ、全員がそちらへと意識を向けます。


「お二人とも、そこまでになさってください」


 そこにいたのは、人相の悪い男性でした。


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