第54箱
情報解禁されましたので改めて
講談社Kラノベブックスf より
本作の書籍版【引きこもり箱入令嬢の婚約】が発売されます٩( 'ω' )وよしなに
《ところで倒れたと聞いていたが、身体の方は大丈夫か?》
《はい。おかげさまで、良くなりました》
《それなら良かった。
しかし目覚めて最初の手紙が『箱のままでいいか』というのは、中々に衝撃的だったぞ》
《なんというか申し訳ありません》
いや、本当に申し訳ないですね。
こうやって指摘されると、本当に何やってるんだ感があります。
《ご心配おかけしました》
《そうだな。心配したぞ》
……ッ!
この一言だけで、かなり嬉しいです。
思わず口元に手を当てて、固まってしまうくらいには。
サイフォン王子に心配して貰えた。
なんだか、それがとても嬉しいのです。
《倒れた原因は何だったのだ?
宰相は特に教えてくれなくてな》
喜びに浸っていると、王子からの手紙が届きます。
これに関してはちゃんと説明しておくべきでしょうね。
《箱から外に出たコトによるストレスでしょうか。
身内以外に対して顔を出すと、かなり疲弊してしまいまして》
《そんなにか?》
《体感として、ちょっとした死と隣り合わせくらいには》
《そんなにか!?》
《なので、様々な行事に対して、箱のまま出席できるかどうかというのは切実な問題なのです》
最後に返信した内容に思うことがあるのでしょう。
王子からの手紙が止まります。
分かっています。
これが現実的に難しく、私のわがままに近いことは。
それでも、無理なものは無理なのです。
将来的に克服は可能かもしれません。ですが、来月までに克服するとなると、さすがに不可能です。
《一応、こちらでも父上と母上に確認はしておくが……期待はしないで欲しい》
《わかりました》
そうして、この晩は――このまま雑談へと移行していきました。
翌日の夜。
《朝、送っておいた手紙は読んでくれたかな?》
《はい。さすがに厳しそうですね》
今日の朝届いていた手紙には、やはり難しいということと、それでもギリギリまで陛下とフレン様を説得してみるという内容でした。
《それに加えて、仮に許可できた場合でも台車は使えないそうだ。何らかの運搬手段が必要になる》
《壁が……多すぎますね……》
しかし、やはり運搬方法も問題になってきますか。
許可が貰えていない今、それを考えるのは皮算用のような気もしますが、考えておいて損はなさそうです。
《一礼したあとで『箱』に入っても良いから、何とかならないか?》
《無理です……。顔を出すだけでも倒れそうなのに、箱から出て歩くだなんて……》
家の中なら大丈夫でしょうけど。
でも、婚約の発表の場ですよ。城下を見渡せるバルコニーに出るんですよ?
そんなの、死んでしまいます……。
《そもそも、箱のままであっても、あのバルコニーに立つだなんて、ちょっと身体が震えてしまうくらいなんですから……》
《そうか。出来る限り君に考慮した方法が何かあればいいのだが》
こうして、この日から数日おきにアイデアを出し合う夜がはじまりました。
ですが、どれだけ夜を重ねても、期日は迫るのに一向に良いアイデアは出てきませんでした。
そんな焦燥が募り続ける中のある日。
私は、『箱』の中から、見聞箱を通じて屋敷の中を見ていました。
外ばかり見ててもアイデアが出てこないなら中を――程度の、単純な理由です。
家の中に特に目新しいものはなく。
いつものように、うちに勤めてる使用人の皆が、真面目に働いています。
『ラニカ~!』
『は~い!』
特に何も思いつかないな――と思い始めた時、ラニカが誰かに呼ばれました。
『侍女頭が呼んでたわ』
『わかりましたっ!』
『あ』
『行ってきますッ!』
『待って。そんなに慌てなくても……って、行っちゃったか。
急ぎじゃないから、今日中ならって言いたかったんだけど』
相変わらず、慌てん坊といいますか……やる気に満ちているといいますか。
最後まで話を聞いていれば、あんなにドタバタしないのですけどね。
そのまま廊下を走るラニカは階段を下りて一階へ向かいます。
そして、使用人たちの仕事用の部屋が多く配置されている廊下へ足を踏み入れ――
『ストップ、ラニカ!
さっき、そこでバケツひっくり返しちゃって……』
濡れた廊下を拭いていたのでしょう。
モップを手にしていた侍女がラニカに声を掛けますが――
『え?』
ラニカは急に止まれない。
……っていうか、なんであんな勢いよく走っちゃうんですかね、あの子。
『うわわわわ……ッ!』
途中で無理矢理止まろうとしたものの、止まることは出来ず、濡れた床に足を滑らせたラニカは、勢いのまますっこーんと綺麗に宙を飛びました。
まるで宙を滑るように飛んでいく姿に、私の脳裏に閃くものがありました。
私はラニカの無事を祈りつつ、見聞箱からの映像を見るのを止めにします。
「宙を滑るように移動する……。よし」
小さく口に出して気合いを入れると、ハココを手にイメージを膨らませていきます。
見聞箱を飛ばすように、この『箱』そのものを飛ばす。
いえ、飛ばす――というよりも浮かす、が近いですね。
空を自由に飛ぶのではなく、地面スレスレに浮かび上がって、移動する。
「あ、あの……お嬢様……」
ハココを通じて、『箱』にイメージと魔力を通すことに集中していると、側で控えていたカチーナが恐る恐るといった様子で声を掛けてきました。
「『箱』が浮いているのですが」
「うん。浮かせて……いる、から」
底面がカチーナのくるぶしくらいまでの高さだとちょっと低すぎるでしょうか。
もうちょっと高度を上げて、カチーナの膝くらいが……いいですかね?
「このくらい……かな?」
「急に浮き上がって、何をなさっているのですか?」
「台車、なしで……動けない、かな……って」
浮かび上がったら、宙を滑るように移動する。
これも、やってることは見聞箱を飛ばすのに近いですね。
高度を自分で調整するよりも、地面からこのくらいの高さ――という形で固定してしまった方が操作はラクそうです。
操作方法を確立したあとで実際に挑戦――してみたものの……。
「うーん……うまく、動けない、ですね……」
「お嬢様、その状態で動く実験をするのであれば、室内よりもお庭でされた方が良いかと。思わぬ速度が出たり、急に飛び上がったりした場合、室内だと危険です」
「お庭……」
「ただし、宙を滑って動き回る『箱』の噂が外に広まらないよう、気を付けてください」
カチーナが半眼になって、そう付け加えてきました。
これ以上の実験などは、領地に戻ってからの方がいいかもしれませんね。
一応、出来る範囲の実験だけはしておきましょう。
まぁ、最悪――底面から足を出して歩けばいいですよね?
そうして部屋の中で出来る範囲の実験の末、誰かに押したり引いたりしてもらえばスムーズに動けると分かりました。
台車なしで運びやすくなったのはありがたい――と、思うべきでしょうか?
前書きでも書かせて頂きましたが 改めて
講談社Kラノベブックスf より
本作の書籍版【引きこもり箱入令嬢の婚約】が発売されます
発売日は9月末日(予定)
書店の入荷状況によって前後しますのでご了承をば
みなさま、よしなに٩( 'ω' )وおねがいします