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第5箱

本日3話公開予定。

こちらは本日公開2話目です。


ここから読み切りでは省略された結婚までのお話がはじまります。


 私ことモカ・フィルタ・ドリップスは、先の成人会での出来事を思い返すと、その度に興奮して身悶えをする――というのを繰り返しているうちに、気がつけば自室へと戻ってきていました。


 ……まぁ戻ってきたと言っても私自身が自分の足で歩いてきたワケもなく、みんなに『箱』を自室まで運んでもらっただけなのですが。


 それでもやっぱり、パーティ会場に置かれているよりも、王都の別邸とはいえ、自分の家の自分の部屋に置かれていた方が落ち着くものですね。


 一息つきながら、私は『箱』の中で、サイフォン王子が中に入ってきた様子を、宙に浮かぶ半透明な箱に映し出します。


 『箱』の中での出来事であればこうしてあとで確認する術があるのです。

 もっとも、普段は自分以外が中にいることはないので、基本的に無駄な機能だと思っていたんですが、ここへ来てある意味の大活躍を見せてくれました。


 実は、中へと招いていた際には、内心の興奮と恥ずかしさと、人との対面の苦手さも相まってロクに顔を見ることができなかったのです。

 ですが、誰もいない『箱』(ここ)で、改めてその時の光景を客観的に見ることができますからね。


 サラサラとした金の髪に、全てを見透かすようで同時に何も見てないような翡翠の双眸。

 まるで絵に描いたかのような王子様然とした見目――いや、実際に王子様なんですけどね――は、そこまで異性の容姿に対するこだわりを持たない私ですら、思わず見とれてしまいます。


 それはかつて出会ったことのある幼かった姿が、そのまま成長したかのような姿で。

 ずっと気にかけていた人なのだから、なおさらかもしれません。


 そんな素敵な容姿をした男性が浮かべる爽やかなキラキラとした笑顔。

 それは同時に、何を考えているか分からない顔でもあって。

 ですけど、そんな顔も、『箱』の中に入ってきた時は、純粋な好奇心や興味一色に染まっていました。


 こうやって改めてその顔を見て思いました。

 もしかして、王子の滅多にみられない顔を見れたのかもしれない――と。


 同時に、今度はちゃんと……映像越しではない、その顔をみたいな、とも。


 こころのままに映像記録を眺めていると、コンコンと『箱』の縁を叩く音が聞こえました。


 普段はちゃんと周囲に気を配っていますけど、ちょっと何かにのめり込んでる時は、それがなくなってしまうので――

 声をかけても反応がない時に、何か用があるときは、『箱』の縁を叩くようにお願いしているのです。


 映像から視線をはずした私は、映像の閲覧を止めて、意識を箱の外へと向けました。


「お嬢様、『箱』の上にお飲物を失礼します」


 どうやら、私付きの侍女のカチーナが飲み物を持ってきてくれたようです。


「ありがとう……カチーナ」


 私が返事をすると、失礼しますと口にして、彼女は『箱』の上に飲み物を置きました。

 それを確認して、私はその飲み物を箱の中へと引き込みます。


 引き込んだ飲み物は、この『箱』のメインルームの端にあるテーブルの上へとゆっくりと姿を表します。


 透明なグラスに注がれているのは、透き通るような琥珀色の飲み物。

 私の好きな銘柄のお茶を、アイスで入れてくれたようです。


 文句が付けようがないほどに完璧に淹れられたお茶で喉を湿すと、改めて気持ちが落ち着いてきました。


 人と関わるのが苦手で、社交の場なんて滅多に出ることのない私からすれば、箱のままでの出席とはいえ、やはり緊張と疲労がすごかったんでしょう。

 カチーナが淹れてくれたお茶を飲んだら、途端にほぅと息がでて、いろいろな実感が沸いてきました。


 だけどそれ以上に、大きな成果があったことへの安堵と実感も沸いたんだと思います。


 人付き合いが苦手で、そもそも人と話すのもあまり好きではない私が、それでも自分から関わってもいいかなと、昔から思っている相手。

 そんな人と、ちゃんと関わることができたのは、私にとってとても大きな出来事でした。


 そのことを思い返すとまた少し興奮してしまいそうになるけど、それを抑え込んで、『箱』の中にある本棚へと向かいます。


 そこに大切に納めてある一冊の本を手に取り、軽く開きました。


 正確にいつだったか覚えてはいないけれど、お父様からプレゼントされたこの本は、私にとってとてもとても大切な本となっています。


 本のタイトルは『木箱の中の冒険』。

 私が小さい頃、貴族――よりも、どちらかというと庶民たちの間で流行っていた、当時としては珍しい子供向けの物語。


 いたずら好きの少年である主人公ジャバが、父親にいたずらを叱られて、反省するまでその中にいろと木箱に閉じこめられたことから始まる冒険譚です。

 閉じこめられた木箱の中が不思議な世界に繋がっていて、その世界へと飛び出したジャバは様々な冒険をしながら、最後は最初のいたずらを反省し、父親に謝る為に木箱に戻ってくる――そんな内容です。


 実はシリーズ化していて、二巻以降は任意に木箱から旅にでたりしています。その木箱も、撤去されそうになったり、誰かに盗まれたりと色々あるのですが、それは置いておきましょう。


 木箱から繋がる不思議な世界でのドキドキワクワクする冒険ももちろん好きなのですが、私がこの物語で好きなのは、別の世界側に存在する木箱です。


 最初は木箱から外にでると不思議な世界へと直通だったのですが、不思議な世界側から木箱に入ってくると、中がジャバの家と同じような間取りとなっているんです!

 玄関から箱の外と中を行き来し、本来の家で裏口となっている場所は、現実の木箱と行き来できる場所となっていました。


 箱の中に存在する家ッ!

 しかも二巻以降からは不思議な世界側の箱は手のひらサイズとなって持ち運びもできるッ!


 私は思いました。

 こんな箱があったら、絶対に入り浸る……と。

 必要な時以外に外に出ない。そんな生活ができるのでは? と。


 ジャバが様々な活用法を見つけるたびに、憧れが強くなっていくくらいですッ! 


 ……ちょっと熱くなりすぎました。


 でもこの本は、きっと私の原点だと思うんです。


 七歳の頃――魔性式に出席した時も、小脇に抱えていたほど大好きで大切な物語で、大切な思い出の傍らには、いつもこのシリーズがいた気がするくらいに……。




本日は3話公開予定。

次話は20時頃に公開予定です。

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[一言] 極度の対人恐怖症なのによく初対面の王子を箱の中に入れたなと思っていたが、なにか政治的な思惑がある訳でもなくただ普通に王子に恋する令嬢だった訳だ。
[一言] 私も好きでした、押し入れの冒険。
[一言] モチーフはナルニア国かな?
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