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第43箱


「では、探していた『箱』も見つかったコトだし、我々は本来の場へと戻るとしようか」


 サイフォン王子がそう口にすると、カチーナを見ました。

 それにカチーナはうなずきます。


 何だか余計な出来事が挟まってしまいましたが、いよいよ本来の目的を果たしにいくことになりました。


 ……うん。

 やっぱり怖いですね。

 その、何というか、その、このサロンでは勢いで顔とか出しましたけど、その勢いが消えてしまいますとね、はい。胃の痛みとか吐き気だとかそういう諸々がどっとこみ上げてくると言いますか……。


「お嬢様」


 カチーナに声を掛けられて、私はハッと顔をあげます。


「リッツさんが持ち上げてくださるそうです」

「わかった……」


 どれだけ怖くても、だからといってどうこう出来るわけでもないので、必要なことはちゃんとしないといけませんね。


 私は『箱』へと意識を集中させて、少し操作を行います。


「重量軽減……しました」

「ほう。箱の重さを変えられるのか」

「はい。普段は、見た目通りの……重さですが、今なら……その半分以下に、なっています」


 そんなワケで、リッツが持ち上げて、サロンの外に用意してあった台車に乗せられました。


「……と、すまない。

 一つ、確認したいコトがあった。少し待っていてくれ」


 いざ出発――というタイミングで、サイフォン王子はそう告げると、なにやらルツーラ嬢の元へと行き、耳打ちしたようです。


 ……あまり大声で確認したくないことなのでしょうけど、サイフォン王子の顔が近づいた時に、何だかムッときました。


 それはそれとして、王子が訊ねた内容がなんであったかはわかりませんが、ルツーラ嬢は殊更に青ざめて首を横に振りました。


 どこか必死な様子なので、答えようによってはかなり危険な内容なのかもしれません。


 そのあと、二言三言やりとりをしたあとで、王子は戻ってきます。


「待たせた」

「何を……確認して、きたのか……聞いて、も?」


 私が思わず小さな声で問うと、同じように小さな声でサイフォン王子が答えてくれました。


「ん? ああ、モカヘの仕打ちが、ルツーラ嬢個人によるものなのか、誰かに唆されたのかの確認だよ」

「誰、か?」

「成人会の時の毒。あれの黒幕と思しき人物にとっては、きっとモカも邪魔だろうからね。可能性はあっただろう?」

「黒幕……もしかして、ヒ……」


 思い当たる人物の名前を口にしようとした時、サイフォン王子は『箱』を優しくトントンと叩きます。

 顔を見れば、口元に人差し指を当てていました。


 その意味が理解できないはずがありません。

 名前は口に出すな――ということでしょう。


「確証はないがな」


 あくまでも容疑者ということでしょうか。

 現ヒアッサ侯爵家の当主。


 サイフォン王子の兄であるフラスコ王子に王位をと暗躍するフラスコ派の――とりわけ過激派の筆頭でしたか。


「ところで、どうして……彼女は、私を狙った……の、でしょうか?」

「君が気にくわなかったそうだ」

「はぁ」


 そんなことを言われましても――というのが正直な感想で、何ともいえない吐息だけが口から漏れます。


「時に嫉妬や羨望は、理性を上回る。そうなると人は突飛な行動を取ることもある。

 そこに至ってしまえば、相手の格だの、自分の立ち位置だのというものがスッポ抜けてしまう」


 そう口にしてはいるものの、サイフォン王子もどこか納得していないところがある様子。


「何となくだが、彼女のその感情を焚きつけた者がいそうではある」

「彼女本人に、その自覚が……なくとも、これも……黒幕の手のうち。

 実は、彼女の近くに……黒幕の息の、掛かった者がいた……可能性、ですか?」

「私はそう考えている。こちらも証拠のたぐいは皆無だがね」


 ルツーラ嬢――というか、メンツァール家はフラスコ王子派閥。

 とはいえ、彼女が私を攻撃することにメリットは……思いつきません。まず無いといってもいいでしょう。


 それでも、踏み切ってくるのは、ルツーラ嬢の暴走であったと言えます。

 ただ、そこに、暴走するように唆したものがいるとなると、また話が変わってくるでしょう。


「それでも――そうだとしても、暴走に……踏み切ったのは、彼女自身……ですよね?」

「そうだな。それに、今回は不問としたが、君を囲んだ彼女たちが裁かれないワケではないだろう」

「そう、ですね……」


 ルツーラ嬢とともに仕掛けてきた彼女たち――今後大変でしょう。

 どういう形で噂が広まるかはわかりませんが、間違いなく噂は広まっていきますから。もしかしたら、サイフォン王子がその噂を後押しする可能性があります。


 私がそんなことを考えていると、サイフォン王子がサバナスへと視線を向けました。


「どうしたサバナス? 不問にするのは手緩いか?」

「いえ」


 何か不満でもあるのでしょうか?

 けれども、問われたサバナスは首を横に振りました。


「今回の一件で、殿下から不問にされたところで、噂が生まれて広まるでしょう。

 お城に保管されていた荷物に手を出しただけでなく、精神作用魔法まで使用した令嬢。

 それに協力して王子の婚約者に嫌がらせをした令嬢。

 そのあたりの話題に尾鰭背鰭がついて、参加者の体調不良を引き起こした元凶だとか、自分の気に入らない人物を参加者にいじめさせる人物などなどの話が付いて回るのは明白です。

 何より、目撃者も多いですから、噂の拡大を止めるコトは不可能でしょう」


 サバナスの話に、サイフォン王子も私もうなずきます。


「噂の内容によっては、彼女たち自身が引きこもってしまうかもしれないな」

「本人の、意志で……引きこもれるなら、まだマシですね」

「家の判断で外出禁止になる可能性は確かにあるな」


 私たちのやりとりに、サバナスはその辺りも理解できているという顔です。


「私が不満というか納得出来かねているのは、相手の仕掛け方です。

 確かに彼女の自業自得であるとはいえ、成功しても失敗しても、彼女の人生に与える影響は大きい。

 成人して間もない女性を使って仕掛ける姑息さというか、利用した他人への無関心感といいますか……そういうものが、どうにも……」


 そう口にしてから、サバナスは小さく嘆息して謝罪しました。


「申し訳ありません。少々、感情的になりました」

「構わん。お前のそういう部分は嫌いではないしな。

 他者を利用し、使い潰すのであれば、その業を背負う覚悟が必要だと言いたいのだろう?」

「はい」


 恐らく――ですが、黒幕からすると今回の嫌がらせは、成功すれば幸運。失敗しても仕方がない程度のものだったのかもしれません。

 ただその代償は黒幕そのものが支払う気なんてさらさらなく、ルツーラ嬢ら実行者のみが被るようになっていたのでしょう。


 サバナスはそこを敏感に感じ取ったのでしょうね。


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