第41箱
昨日も宣伝させてもらいましたが、また言わせて下さい
書籍化&コミカライズ します!٩( 'ω' )وよしなに
「君は王家宛の荷物を勝手に運び出した自覚はあるかい?」
「え?」
そうなんですよね。
たまたま私が中に入ってましたし、うっかり私も反応してしまったから、流れで色んなやりとりが発生しましたけど……。
あの瞬間の一番の正解は沈黙なんですよね。
私はただの荷物です――って態度が一番、正解でした。
「モカ嬢を助けたいと思うのであれば、まずは荷物の担当であるとか、警備の騎士だとかに声を掛けて、事情を説明するべきだった」
「そ、それは……」
結構ズル賢い立ち回りをしているようで、初手が迂闊すぎましたね。
「だが其方は勝手に部屋を覗き、箱を見定め、独断で持ち出した」
「え……いや、それは……」
「さらに言えば、モカ嬢の今回の登城に関して、書類の上では荷物の一つという扱いだ。
考えようによっては、中にモカ嬢がいるかどうかの確認をし、モカ嬢の存在が判明した時点で、君は、王家に届いた荷物を勝手に開けたというコトにもなる」
ルツーラ嬢が助けたと主張しようとも。
私が助けてもらったと口にしようとも。
王子――いえ、王家からすれば、自宅へ届いた荷物を勝手に漁られたことに他ならないのですよね。
「さらに付け加えよう。
君はモカ嬢が『箱』の中に入っているコト前提で動いていたようだが、そもそもソレがおかしい」
「それはどういう……?」
あー……そうです。それもありました。
何と言いますか、最初から詰んでいたって話ですね。
「君は情報収集が出来ていなかったという話だ。
ドリップス家の娘は、成人会のあと、ドリップス公爵夫人と共に領地へと帰っていたのだからな」
「ですが、彼女はここに……」
「そうだな。それに関しては私も驚いた。
モカ嬢とはマメに手紙のやりとりをしていてな、その中で実は王都にまだいるのだと教えてもらったくらいだ」
理屈としては、まだ反撃のしようがある発言なんですけど、サイフォン王子のように胸を張って断言すると、かなり強く感じますよね。
穏やかな調子で喋っているはずの王子なのですが、威圧感といいますか、迫力といいますか、そういうのを感じます。
それに圧倒されてしまうと、冷静な判断が出来なくなる。冷静な判断が出来なくなってしまえば、完全に王子のペースになってしまいます。
「それを踏まえて……君はどうして、彼女がここにいると確信したのかな?
よもや、私と彼女の手紙のやりとりを何らかの方法で覗き見したりしたのかい?」
「そ、それは……」
そういうのを見ると、言葉って内容だけでなく、発する時の態度ってとても大事なんだって、思います。
だって――ルツーラ嬢、完全に萎縮してますよ。あれ。
疑問の形を取ってますけど、やっていることは糾弾に他ならないですから、厳しいのも仕方はないのでしょうけれど。
などと、サイフォン王子とルツーラ嬢のやりとりを見ているうちに、カチーナとサバナスが人を連れて戻ってきました。
事前に二人が説明をしてくれていたのでしょう。
テキパキと準備が進められると、お二人は連れて来られた女性騎士に抱えられて、別のお部屋へと連れていかれました。
そこまで深刻な症状でもなかったので、涼しい場所で水分をとりながらしばらく安静にしていれば、良くなることでしょう。
「さて、モカ嬢」
お二人を抱き上げたのが女性騎士であるという配慮は、さすがカチーナとサバナスですね。
ぐったりとした人を持ち上げるって結構大変らしいですから。
侍女よりも騎士に頼むのが正しいとは思いますが、反面でお二人はご令嬢。いくら体調を崩したといえども、王城の中で男性に持ち上げられるというのは、はばかられるワケで。
その点、女性騎士であれば、騎士としては多少非力と言われようともやはり騎士。小柄な女性を抱き抱える程度のことは問題なさそうでした。
「モカ嬢」
あとの心配事があるとすれば、それぞれのご実家ですかね。
熱中症というのは、理解が足りないと、お茶会中に突然倒れた失礼な行為に思われてしまいます。
お二人は、私の箱に寄りかかりながら、王子とのやりとりは聞いていたと思うので、その説明くらいはできそうですけど……。
あー、でも頭ごなしに、言い訳するなとか怒るタイプのご家族だったりすると、それはそれで大変な――
「モカ嬢!」
トントンと、誰かが『箱』を叩いた音が聞こえて、私はハッと顔を上げます。
「はい?」
「君は考え事をする時、百面相をするのだな。
箱から顔を出しているせいで、普段は見えない君のそういう顔を見られたのは僥倖だ」
「え、あ……」
言われて、恥ずかしくなってきます。
そういえば、今は箱から身体を外に出したままでした。
「何を考えていたのかは聞かないが……。
ルツーラ嬢や、君を囲んでいた令嬢たちのコトはどうする?」
「え? 正直、どうでも、良い……です」
みんなが一斉に顔を上げて不思議そうに見てきますが、はて、どうしてでしょう?
私と王子からやりこめられて、それなりに反省した顔を皆さん見せてますし。
ルツーラ嬢はどうなのかは知りませんけど、恥やプライドを考えるなら、ここで変に暴れたりすることもないでしょう。
あとはもう、なんていうか……面倒くさくなってきました。
カチーナやサイフォン王子が来てくれましたし、あとのことは全面的に任せたい気分です。
ただまぁ、そうは言っても、ここで『箱』に戻って「あとは、よしなに」と黙り決め込んでしまうのも、ちょっと無責任ではありますから――うん、何とかそれっぽい理屈を付けて、投げましょう。
「取るに、足らない相手で……したし、だからといって、反省も出来ない……方々ではない、でしょう?
何より、サイフォン殿下が……仰った通りに、今日の私は、荷物です。
手違いで、ここに運ばれた……荷物を、サイフォン殿下が、取りに来ただけ。それで……いいではない、ですか」
あー……これだけだと、なんか調子に乗った酷い女っぽい気がしますね。何か他に付け加えるような言葉を……。
そうです。良いことを思いつきました。
「先ほど、倒れたお二人を、診ていた……時にも、言いました、けど。
今ここで……敵対していても……将来的には、わかりません。
未来永劫敵対しそうな、人であれば……ともかく、そうでもない、人たちを……むやみやたらに、追い込んだりは……良くないか、と」
うん。
これは、かなり器の大きい人っぽさが出たのではないでしょうか?