第4箱
本日も3話公開予定です。
こちらは本日の第1話目になります。
周囲の者たちは、サイフォンが手を引かれるがままに、箱の中へと吸い込まれていくのを見た。
直後――中から、ハイテンションな叫び声が響いた。
「こ、これはッ! すごいッ、すごいぞッ! 中は広いのだなッ!」
「はい……自室と同じくらいには」
それはもう楽しそうな王子の声だ。
様子を窺っていたギャラリーすら、興味が湧くほどのテンションの上がり具合。
そのあと、しばらくは反応が薄まり――ややして、王子の驚愕に満ちた声が聞こえる。
「そ、其方……その頭は……ッ!!」
一方で、モカの声はほとんど聞こえない。
その後のやりとりもボソボソとしか聞こえてこない為、どんな会話がなされたのかが不明だ。
だからこそ――
(頭……頭がどうしたのぉぉぉぉぉ~~……ッ!?!?)
と、ギャラリーたちは気になって仕方がない。
そのあとも話し声らしきものは聞こえるものの、どちらの声もボソボソとしか聞こえずに何の話をしているのかは分からなかった。
(くっ、一体――どんな話を……ッ!!)
興味が尽きない聞き耳勢の胸中とは裏腹に、サイフォンの護衛騎士と、モカの侍女が戻ってくる。
「ただいま戻りましたお嬢様」
「おや? サイフォン王子はどちらへ?」
リックは肩に担いでいた男を雑に放り投げながら、首を傾げる。
乱暴に縛り上げられ、キツい猿轡を噛まされた男は、床に落とされてうめき声をあげるが、リックもカチーナも気にしていないようだ。
周囲を見渡していると、箱の中からサイフォンの声が聞こえてくる。
「戻ったか。モカ嬢に招かれてな。箱の中を見せてもらっていた」
「なんと……! では、お嬢様」
「えっと、そのまだ……です」
「いえ、それでも充分にございます」
感極まった様子のカチーナに、リックは困惑したように訊ねる。
「詳しいコトは私の口からは……」
だがカチーナは答えず、申し訳なさそうに一礼するだけだ。
その様子を見、リックはそれ以上追求することはやめた。
ちょうどそのタイミングで、サバナスも戻ってくる。
「ただいま、戻りました。
おや? 殿下はどちらへ?」
「箱の中だ」
「なんと?」
理解できないという顔をするサバナスを気にする様子もなく、中にいるサイフォンは、同じく中にいるモカへと訊ねた。
「モカ、どうやって出れば良いのだ?」
「外へ……出たいと……念じな、がら、そこの……壁に触れて、ください……」
「こうか?」
箱の側面が波打ち、王子の手が出てくる。
「そのまま、前進して……くださ、い」
「ふむ」
やがて、王子が箱の中から姿を現す。
「なかなか得難い体験だった」
笑いながらそう口にした直後、サイフォンは足下に転がる男を踏みつけた。
「さて」
踏みつけた男を見下ろしながら――
「モカからは、様々な情報とそこからくる推察を色々と聞かせてもらったからな……」
それはもう面白いオモチャを見つけたかのような顔で、ニヤリと笑う。
「首謀者共々どうしてくれようか」
有能なはずだが面白いことを好むあまり奇行の多い王子。
兄王子とはまた違う意味での問題児。
影でそんな風に噂されているはずの第二王子は、けれどもこの場においてはそんな噂を吹き飛ばすだけの迫力があった。
本日も3話公開予定です。
次話は13時頃の公開予定です。