表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/127

第33箱


「いくら人嫌いの箱入りとはいえ、お礼くらいは言えませんの?」


 このまま黙ってても良くないですよねぇ……。

 ルツーラ嬢は、口を開かずけれども意地悪そうな顔でニヤニヤしてますけど。


 そういえば、ここへ連れてきた経緯を説明して以降、ルツーラ嬢は喋っていませんね。

 私をドリップス公爵令嬢であると理解しているからこそ、あとで揚げ足を取られかねない迂闊な発言は控えている――と、いったところでしょうか。


 だとしたら、逆に好き勝手言ってくる方々は、相手の身分を気にせず体の良いサンドバッグがやってきたとでも思っているのでしょう。


 んー……まぁ録画はしておきましょう。

 サイフォン王子は好きそうですし、こういうの。


 それと、送り箱でメッセージですね。


《何故か、令嬢たちがお茶会をしている一般開放サロンへと運ばれてしまいました》


 ――と。

 サイフォン王子が気づいてくれれば良いのですが。


「極度の人見知りで、お話をするのが苦手だとは伺っております。

 ですが、せめてお顔を見せていただけませんこと?

 それとも、それすらできないほどに、人嫌いなのですか?」


 私が箱の中であれこれとやっているうちに、業を煮やしたのかルツーラ嬢がそんなことを言ってきます。


 気遣うような言い方ですが、明らかにこちらに瑕疵(キズ)を付ける気まんまんですよね?


 顔を出さず、名乗らなかった場合、そんな礼儀が出来ない奴が王子の婚約者なのか――と、その手の嫌味と噂が広がっていくことでしょう。


 まぁ顔を出したところで、ロクに喋れなければ結果は同じでしょうけれど……。


 さて、現実に向き合うとなると、対応が必要なんですけれど――


 困りました。

 何か反応するべきなんでしょうけど、反応しようとすると、心臓が嫌な感じにバクバクと言い始めます。


 サイフォン王子に素顔を見せようとした時とは全然違う――心臓が早鐘を打つことで、まるで私自身を追いつめていくようです。


 それでも何とかしないと――と、考えるのに、思考が全くまとまってくれません。

 どんどん悪化していくように、何も考えられなくなっていきます。


「……ぁ」


 それでも何とか声を出そうとして無理して喉を震わせてみたものの、出て来るのは掠れたような吐息だけ。


 嫌な汗が流れはじめます。


 反応しなければならないという強迫感にも似た感覚。

 反応しようとするものの声が出てくれない焦燥感。


「……ぁ……っ……」


 バン! と誰かが箱を叩きました。

 普段なら気にも止めないはずなのに、今のものにはビクンと身体が大きく反応してしまいます。


 どうにか……どうにかしないと……。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 無自覚に呼吸が荒くなっていて。

 無意識に両手の拳を握り込んでいて。


 怖い……辛い……吐きそう……泣きたい……。


 元々人と話をするのが苦手で、魔性式の時に本を取られたのが引き金となって引きこもるような生活を始めたのに。


 また、ルツーラ嬢の嫌がらせで、こんな気持ちになるなんて……。


 あの時は、身分を明かせない場で、彼女は調子に乗っていただけだけど。

 ここではそれも明かされている状態で嫌がらせを……。


 ……て、あれ?


 嫌な記憶を思い返していた時、ふと何かが引っかかりました。

 ……皆さん、私が誰か分かっているのでしょうか?


 そんなささやかな疑問が沸いた瞬間に、視界が開けた気がします。


 反応しなきゃ反応しなきゃという言葉ばかりで、どんな反応をすれば良いのか不明瞭で、だからこそ何も出来てなかったのかもしれませんね。


 声を出すのは勇気がいりますけど、だけど、それでも――


 思い出すのは大好きな物語。『木箱の中の冒険』の主人公であるジャバくんは、悪い国の兵士たちに囲まれてピンチの時も、一筋の光明を見つけた時、一歩踏み込む勇気を持ってそこへと飛び込んでいきました。


 ……私も、今この瞬間、その勇気を少しでも分けてもらうべき場面かもしれません。


 それに、お母様から「この程度を捌けないで、どうするの」なんて言われてしまう場面である以上、乗り越えなければなりませんしね。


 何より、サイフォン王子やカチーナが助けにくるのを待っているだけでは、王族の妻らしくないと言われるネタとなってしまいます。


 いつの間にか、きつく握り締めていた拳をゆっくりと開いていきます。

 その汗ばんだ手を片方、胸に当てて大きく深呼吸。


 カチーナは言っていました。絶やさぬ微笑は武器になると。

 どんな時でも、優雅な笑みを。例え相手が私の顔を見えずとも。


 この程度の嫌みや嫌がらせ、引きこもる前なら(かわ)せていましたから。

 今からそれを、思い出すだけです。当時よりも頭と知恵の巡りは良くなっているはずですしねッ!


 さぁこの()に、武器(ほほえみ)を携えたなら――

 主人公のような勇気を少し抱えて、一筋の光へと踏み出しましょうッ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【引きこもり箱入令嬢の外箱】
公爵家のメイドは今すぐ職場に帰りたい
ラニカが主役のアクション系外伝です

巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~
本作、第一部の悪役令嬢ルツーラによる魔性式の日からやりなおし物語。
そして引きこもらなかった箱入令嬢の物語でもあります。


書籍版【箱入令嬢シリーズ】
講談社 Kラノベブックスf より発売中
【箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚】
2022/10/3発売です!٩( 'ω' )و
引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズ版【引きこもり箱入令嬢の結婚】コミックス
1~7巻発売中!٩( 'ω' )وこちらもよろしくお願いします!
コミカライズ引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズも連載中です!
毎週月曜日0時更新
講談社女性向けコミックアプリ palcy

毎週火曜日11時更新
ニコニコ漫画 水曜のシリウス

毎週水曜日12時更新
ピクシブコミック

毎週日曜日0時更新
マガジンポケット



他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~現代学園RPGのヒロインに転生しましたが主人公(HERO)とイチャラブしたくないのでルート回避したい。でも世界は滅んでほしくないので奮闘してたら未知のルートに突入しました~
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~
約束守りの図書館令嬢



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
[良い点] 勝ったな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ