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第32箱


「それにしても、少し遅いですね」


 予定の昼過ぎ頃になっても誰の迎えも来ないので、カチーナが首を傾げます。


 確かに、遅いですよね。

 そろそろ誰か迎えに来ても良いような気がしますが……。


「お嬢様」

「なに?」

「何か手違いがあったのかもしれませんね。少々、様子を窺う為に外へ出させて頂きます。

 城内の構造は把握してますので、旦那様か殿下はすぐに見つけられると思いますので」


 見知らぬ部屋で一人にされてしまうのは少し心細くはありますけど。

 まぁ普段から基本的に一人で『箱』の中にいるだろと言われてしまうと、その通りではあるのですが……。


「誰かに、見つかったら……大変、じゃない?」

「誤魔化す手段はいくらでもありますので」


 うーん……。


 でも、このまま迎えが一向に来ないというのも問題ですしね。

 私自身は『箱』から出る気もありませんから、大丈夫――でしょう。きっと。


「わかった。よろし、く……ね」

「はい。

 大丈夫かと思いますが、お嬢様は『箱』から外に出たりはしませんよう、お願いします」


 この『箱』は頑丈でもあるから、中にいる限りは危害を加えられることもないですから。

 何せ、騎士団長を務めたこともあるお爺様の本気の一撃を受けても、『箱』には傷が一つもつかなかったくらいですので。


 そうして『箱』から出ていくカチーナを見送って、空いた時間をどうするか考えます。


 『箱』(わたし)が置いてある場所は、どこかの空き部屋のようです。

 そこに、『箱』(わたし)と一緒に運ばれてきた箱たちも置いてありますが、全てではなく半分くらいですね。


 恐らく残り半分は別の場所に置いてあるのでしょう。

 むしろ、その残り半分が置いてある場所こそが本来、私がいるべき場所だったのかもしれません。


 だとすると、それに気づいたお父様やサイフォン王子などが慌ててしまっているうような気がするので、カチーナに確認してもらうというのは正解だったのかもしれないですね。


 とはいえ、結果が分かるまではイマイチやることがないのも事実。

 だからといって、『箱』の中のベッドなどに横になるには、既にあれこれセットされてしまっている身としては難しいわけで……


 とりあえず、本でも読みましょうか。


 私はメインルームに設置してある本棚から、木箱の中の冒険を手にとります。


 箱の機能でお茶を入れて、座り心地の良い椅子に座りながらのんびりと待つとしましょうね。


 そうして、本へと意識を沈めてしばらくした時――


「これでよろしかったですか?」

「ええ、そうです。このサロンへと運んでもらったつもりだったのですけど、何故かここへ置かれてしまったようで」

「それは大変失礼しました。

 あの部屋は何かの荷物置き場になっているようですからね。運んだ者が勘違いしてしまったのかもしれません」


 何やらそんな会話が聞こえて、ハッとしました。


 どうやら、本に集中しているうちに、運び出しが始まってしまっていたようです。

 もしかしたら何度か声が掛けられていたかもしれません。


 その罪悪感と、申し訳なさから、少しだけ冷静さを欠いていたのでしょう。

 さらに言えば、箱のままとはいえ王妃様とのお茶会です。緊張感もあったのでしょう。


 本来の私であれば、もっと冷静に周囲の確認をしていただろうに、それを怠って思わず声を出してしまいました。


「反応を、せず申し……訳ありま、せん。お部屋に……到着したので、しょうか?」


 声を出して、しまった……と思いました。


 お茶会はお茶会でも、ここは王妃様とのお茶会の場ではありません。

 どういうワケか、私はまったく無関係のお茶会の場へと運び込まれてしまっていたようです。


「あら? やはり中におりましたのね?」

「え?」


 こちらを見下すような目をする女性に、見覚えがあります。

 この『箱』にもっとも近い位置から下目使いで『箱』を見下ろしているのは――


「どうしてお城に運び込まれていたのかは分かりませんが、荷物に紛れておりましたのよ。そのままどこか遠くへ運ばれてしまっては大変でしょう?」


 ルツーラ・キシカ・メンツァール嬢。

 魔性式の場で、私の本を奪った人。


 恐らく、空き部屋に運び込まれるところを目撃されていたのでしょう。

 ルツーラ嬢は同じ成人会の会場にいたようですし、箱の見た目を知っていても不思議ではありません。


「成人会の会場で遠巻きとはいえ見ておりましたからね。

 ほかの箱と共にどこかへと持ち運ばれてしまう前にと、この場所へと運ばせて頂きましたの」


 ほかの荷物に紛れていたことが裏目に出てしまいましたか。

 恩を着せるような言い方をしていますが、完全に私がこっそりお城へと登城したのだろうことを疑ってないようです。


 しかし、ここでお礼を返すのは悪手ですよね。

 文字通り恩を着せられかねません。


 お父様がメンツァール家をどう思っているのかは分かりませんが、私個人としては仲良くなんてしたくないですからね。


 特に、この、ルツーラ嬢とは。


「どうなさいました?」

「何か仰られてはどうです?」

「何が起きたのか分からず混乱されているのではなくて?」

「もしかしたらお昼寝でもされていたのでは?」

「箱の中でお昼寝だなんて、優雅なことですね」


 そして、こっちが黙っているのを良いことに、この会場に集まった令嬢たちは好き勝手言ってきます。

 中にはこちらを見て、ハラハラした様子や、心配した素振りを見せている方がいるのは、多少の安心材料でしょうか。


 全員が全員、ルツーラ嬢やそれに便乗するような方々でないことは、とても良いことだと思います。


 それはそれとして、この場をどう乗り切りましょうか。


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