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第31箱

遅れてすみません

また予約設定ミスってました


予約投稿する時の日付、自分はどうにも間違えやすいようで……



 私の心の準備が出来ようが出来まいが、時間というのは流れるもので――


 あっという間に三日たち、私は今、王城の中にある空き部屋の一室にいます。一緒に運び込まれた箱とともに。


 あとはサイフォン王子が呼びに来るのを待つだけなのですが、お父様の出勤に併せてここに運ばれたのにも関わらず、お茶会は午後。


 そうして到着とお茶会の時間をズラすのも、少しでも私が王都にいないという誤魔化しを続けさせる為の策だそうで。


 なので、それまではここで『箱』のまま待機なのだそうです。


 ちなみに、今日はカチーナも『箱』の中にいます。

 なので待っている間は、カチーナと一緒にここで過ごすわけですが……。


「お嬢様、動かないでください」

「……うん」


 私は椅子に座らされ、カチーナにされるがままになっています。


 待機時間が長いので、最低限の準備は家でして、最後の仕上げは箱の中ということになったのです。


 ちなみにこの着せかえ状態――実は家を出てすぐから、こんな感じになっています。

 馬車の中であろうと、誰かが持ち上げて運んでいようと、箱の中には何一つ影響はありません。


 なので、カチーナは運ばれていることなど気にせずに、私を飾り付けていきました。


 到着してもなお、あーでもないこーでもないと言いながら、カチーナは色々と合わせてくるのです。


「……最低限で、いいって……言ってたけど……」

「はい。ですので、最低限ナメられない姿になるように着飾らせて頂いております」


 そもそも、完全な内輪のお茶会に近いものなので、そこまでナメられることはないでしょうけれど……。


 そんなことを思いつつカチーナの顔を見て、私は諦めました。

 一見、いつも通りのクールな顔のようで、明らかに楽しんでいる顔をしてますもの。


 カチーナは私が唯一、『箱』への自由な出入りを認めている人物です。

 加えて、私は『箱』の中に、カチーナの部屋も用意してあります。


 ……いずれは、サイフォン王子の部屋も……いえ、今はそれは置いておきましょう。


 ともあれ、用意した部屋はカチーナの自由に使って良いとしていたのですが、彼女はその部屋に、『箱』の中でも私の侍女として仕事ができるように、必要な道具をアレコレと――そして、本命として色んなアクセサリやドレスなどを置いていました。

 最初こそ、カチーナはそういうドレスや小物を集めるのが好きなのかと思っていましたが、実はそれは私の勘違いで……。


 カチーナ曰く、あの部屋に置いてあるモノの大半は、値段や作り手に貴賎なく――

 ただ純粋にカチーナから見て、私に似合うだろうと判断したものなのだそうです。


 タダ同然の安物であろうとも、私の魅力を引き立ててくれるだろうモノであれば購入し、どれほど高価であろうとも、私に似合わないと思ったのであれば気にしない。


 そうして購入したものを選別してこの『箱』の中の部屋に置いているようです。


 今回のお茶会はそれらコレクションが火を吹くに相応しいとでも思ったのか、何やら気合いも入っています。


 私は私で、椅子に座りながら世を儚んでいます……。

 このまま世間に対して不貞寝したい気分です。


 いや、もはや逃げられるものではないと分かっているんですけど、やっぱりまだ色々と心境的に覚悟が定まってないというか、勇気が足りてないというか……。


 この期に及んで、まだ逃げ出したくて仕方ないのです。


 ここまで来たら腹を据えろよと言われそうなんですが、無理です。

 本気で無理です。


 ……失敗しても良いからと言われても、失敗するのが怖いのです。

 いえ、むしろ失敗しかしない気がして……ならしなくても良いのでは? となってしまって……。


「お嬢様」

「……なに?」

「私も人のコトを言えませんが……それでも、もう少し明るい顔をなさってください」


 言われて、私は思わず自分の顔に触れます。


「……そんなに、暗い……顔を、してた……?」

「はい」


 真顔でうなずくカチーナ。

 まぁそうですよね。こんな不安感いっぱいなら、表情も暗くなるでしょう。


 でも――


「もともと、そんなに……明るく、は……ないよ?」

「何ともお答えを返しにくいお言葉ですが……。

 表情が大きく変わらずとも、視線や口角などの些細な部分で、印象が変わります。

 それになにより、先ほどからずっと普段よりもそれらが暗く見えるような動きをしておりましたので」


 そう言ってから、カチーナは自分の指で口の両端を軽く持ち上げます。


「このように――表情を上手く作れずとも、口角を僅かにあげるだけでも、印象が変わるものです」

「指が邪魔で、よく、わからない……かな?」


 思わず意地の悪い言葉が口から出ます。

 それに対して、カチーナは顔から指をどかしますが、その表情は微笑を保っていました。


 主従揃って普段の表情が冷たい感じという自覚はあるのですが、カチーナはそんな印象が吹き飛ぶくらい美人な笑みを浮かべているのは、ちょっとズルいのではないでしょうか。


 加えて、その微笑み顔のまま――


「そう言われると思っておりました。

 これで、どうですか?」


 ――なんて返してきたので、完全に私の負けです。

 

 別に勝負らしい勝負なんてしてなかったのですが、そう思ってしまうくらいの敗北感はあります。


 そして、カチーナは私のことを良く理解しています。

 なので、こちらから何も言わずとも、完全に私が負けを認めているのだと、分かっているのでしょう。


「お嬢様が此度のお茶会に対して大きく不安を抱いているのは理解しております。王妃様とは初対面となりますし。

 ですが、殿下や旦那様も仰っていたでしょう?

 最悪は『箱のままでも構わない』と――それでも、より良い印象をもって貰うなら、例え箱のままであったとしても、笑顔とまで言わずとも、微笑を浮かべ続けるコトは大きな武器になります。今日はその練習ができるのだと思えば良いのではないですか?」

「そ、そうは……言っても……」

「幼少の頃は出来ていたそうですから、きっと大丈夫です」


 普段あまり表情の変わらないカチーナが、ハッキリと表情を出し、純粋に私を信じてくれているかの笑みで告げました。


 きっと大丈夫、と。

 そう信じてくれていることの分かるカチーナのレアな笑顔。


 あ、あ、あ……。

 期待を、カチーナの期待を思うと、どんどん、息苦しくなっていくの、ですが……。


「お昼までまだ少し時間もありますし、背筋を伸ばす練習と、口角を上げる練習……少ししましょうか」


 いつもの表情に戻りながらも、心なしか嬉しそうなカチーナを見るに、本当に信じてくれているのでしょう。


 練習となればスパルタ気味になるカチーナですが、それは忠義からくるものであるのは、普段の彼女を見ていれば分かります。


 ……分かるからこそ、余計に辛いのですけれど……。


「きょ、今日のカチーナは、だいぶ……やる気いっぱい、だね」

「もちろんです」


 思わず口にした私の言葉に、カチーナは大きくうなずきました。


「お嬢様の性格上、今回の件は拒否したいと強く願っているコトは理解しております。

 ですが同時に――いえ、それ以上の強い思いが、殿下との婚約に対してあるのも理解しておりますので。

 今後のお嬢様のお立場や心境を思えば、どれだけお嬢様が強い拒絶を示したとしても、今回は成否問わず参加させるのが、お嬢様がもっとも望む結末に近づくと、そう考えておりますのでッ!」


 全てはお嬢様のためです――そう言い切るカチーナが眩しいです。


 私の性格を熟知して、私の望みを理解して、その上で私が目指す結末の為に先んじて動き、私を支え、時に咎め、最後には私が真に喜ぶだろうところを目指す。


 ……ああ、カチーナの厚くて熱い従者の鑑のような忠誠心に、心が吐血しそうです……。



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