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第28箱


 暦の上では夏の盛り。

 外を見れば、強い陽光が降り注ぎ、庭の緑を色鮮やかに萌えさせて、爽やかな風がそよいでいるようです。


 見た目だけなら良い風景と口にできてしまいますが、その実、気温は低くありません。

 送風の魔心具を屋敷のあちこちで稼働させていても、暑さを完全に防ぐことはできないくらいには暑いようです。


 窓を全開にしても暑いものは暑いわけで――


 まぁそうは言っても、私の場合は『箱』の中が常に快適な気温と室温に保たれているので、何も問題はありません。

 とはいえ、私自身に問題がなくても、屋敷の中で働いてくれている人の中には暑さにやられてしまう人もいたりします。


 そこで、私は自室を閉め切ってもらい、『箱』を中心に快適冷風をお裾分けして、部屋を冷やすことにしています。

 消費する魔力量が増えてしまいますが、部屋の一つくらいなら問題はありません。


 体調が崩れた者はこの部屋へと連れてきて、水分補給をさせるようにと言ってあります。

 最初こそ、両親も使用人も、みんなこぞって『お嬢様が自分の部屋を開放するのはよろしくない』と言っていたのですが、そこはカチーナに協力してもらってみんなを説得しました。


 私がそれを強引に進めたのにも理由はありまして――


 この『箱』の中にある『知識箱』より得た情報によれば、夏などで発生する暑さが原因の熱中症なる病気があります。

 夏の暑さが体内に溜まってしまい発症するというこの病気は、最悪の場合、神の御座への扉が開かれることまであるそうです。

 それを知ってから、体調を崩す使用人たちの中で、熱中症の症状に心当たりがあるか確認しました。

 結果として、放置しておくのは危険だと判断し、知識を得てからすぐに始めたのが、この自室を冷やすことだったんです。


 使用人だけでなく、騎士や庭師なども目眩や軽い頭痛に心当たりがあったようなので、両親やカチーナを通じて、病気について通達しました。


 私がいないと出来ないことではありますけど、私がいる間くらいはこういうことはしてあげたいなと、そういう風に思ってるんですよね。

 もちろん、私が屋敷にいない場合の応急処置についても、共有してあります。


 ちなみに、王子とのお茶会でこの冷風機能を使わなかったのは、まだ手札としては伏せておきたかったからです。

 王子だけならともかく、お付きの方々もいましたしね。


 ともあれ。

 そんなワケで、『箱』の中に限らず、私の自室もそれなりの快適空間となっているんです。


 それが無くなってしまったからでしょう。

 領地にいるお母様から届いた雑談メインの手紙には――


『モカちゃんがいないから、涼しくない』


 ――という、どこかヨレた筆跡の弱音が書かれていました。


 とりあえず、部屋を冷やす魔心具の研究が順調そうであるという情報を手紙に書いて送り返しておきましょう。

 数年以内に部屋を暖める魔心具ともども実用されはじめるかもしれないと補足しておけば、お母様には充分でしょう。


 一応、まだ噂のうの字も出回ってない話なので取り扱い注意とだけは書いておきます。


 お母様への返信を綴り終わったら、私は箱から顔だけ出しました。


「カチーナ、これ……」

「はい。承ります」


 封をした手紙をカチーナに手渡せば、あとは彼女が無事に送り届ける方法を選んでくれます。


「では、少し失礼しますね」

「うん。お願い……」


 手紙を持って部屋を出ていくカチーナを見送りながら、私はぼんやりと考えます。


 お披露目となると、箱のままではダメでしょう。

 そうなった場合、がんばって外を歩く必要がでてくるのですよね。


 ……王子に顔を見せるだけで動けなくなった私に、顔も知らない方々の前に出られるのでしょうか……。

 王城の式典用のバルコニーから国民の皆様へのお披露目ですよ?


 ……うん。無理です。

 そんな大勢の人たちに注目されるだなんて、死んでしまいます。


 はぁ――ぁ……。

 今のところすぐに乗り切る手段は思いつきませんので、少し現実逃避がてらに、見聞箱でも起動しましょうか。


 出していた上半身を『箱』の中に戻し、私は机に向かいます。


 宙を漂う知識小箱(ハココ)を手に取り、見聞箱を利用する準備をします。


 サイフォン王子の着替えをうっかり見てしまった時のような、空を飛ばして操る使い方をする時は、事前にこの『箱』の中で見聞箱に魔力を与える必要があります。

 その上で、『箱』から発進させないといけないという制約があります。


 ……この不便さを解消する為の方法を現在検討中だったりするんですけどね。

 実際、サイフォン王子と結婚して王城で暮らすようになると、今以上にその制約が煩わしくなりそうですから。


 そんな想像の域をでない未来の話はさておいて――


 見聞箱を好き勝手操作する方法はとれませんが、一応その目と耳が捉えた情報を知る手段はあるのです。


 移動などをさせることが出来なくなりますが、事前に見聞箱をあちらこちらに設置しておくことで、設置してあるそれらが見聞きしている内容は窺うことが可能でして。


 今回はその方法で、遠い場所の様子を窺います。


 王城とか良いかもしれませんね。

 お城の中庭とか、どんな感じなのでしょう?


 どうやって、そんな場所に設置したのかって?

 それは、秘密です。

 ……というかカチーナに設置をお願いしているのですが、どうやって設置してるのか、私にもよく分かりません……。


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[一言] 今ごろになって、~話ではなくて、~箱な事に気づいてしまった(笑) 素敵です。
[良い点] カチーナも只者じゃなかったw
[一言] カチーナは…忍?(笑)
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