第27箱
すいません。今日の更新分、予約設定ミスってました。
最初、送られてきた紙の裏側に妙な数字の羅列があったことがありました。
その数字に心当たりがあったのでそれに関する情報をメモしてあった紙を裏紙に使って手紙を送ったのがキッカケだったとは思います。
そのやりとりをした翌日に、その人物が予算の使い込みが判明。捕まったようですが、まぁ特に関係はないはずです。
別の日、自分の罪を否定し、証拠がないのを良いことに言い逃れを続けていた犯罪者の証拠が見つかり、関わっていた貴族が罰せられたのに関係ありません。
前日の夜に、彼の関係者に関する情報が書かれた裏紙など、見てもいませんし、私が集めていた似たような情報の書かれたメモを返信に使ったりもしていません。
そんなワケで時々、その紙片の裏側にさらりと変な情報が混じってたりするのは、たまたまそういう紙片を使っただけなので問題ありません。
指摘しなければ、そういう事実はないんです。
……思ってた以上の速度で、政治等には使わないっていう部分がなぁなぁになってしまったところに驚いています。
まぁ、私自身もそれに返信してしまったので、仕方ないのですが。
……仕方ないとかではなく、ちょっとしたやりとり用の箱が政治的な利用がされているようにも見えますがそんなことありません。そう別にそんなことはないのです。そういうことにしときましょう。
現状、特定の情報を主題にしたやりとりはしてませんし、そっちが主目的で使っているワケではないですし。ええ。そうです。
たまたま混ざり込んでいた情報に対しての解答になりうる情報が書かれた紙を裏紙にして、紙片としてサイフォン王子へと送っただけで、他意はありません。ええ、ありませんとも。
だけど、それでも……時々、裏面のやりとりが本来の目的で、雑談に関してはついでなのではないか――と、そう思ってしまう日もあります。
我ながら、ちょっと疑心暗鬼になりすぎているような気もしますが。
さておき、送り箱を渡した私自身もこんな頻度でのやりとりをするとは思っていませんでしたが、使い方としては悪くないのかもしれませんよね。
そんな送り箱での会話を、今日も今日とてやっています。
《そう言えば、聞いておきたいことがあったんだ》
《何でしょう?》
《モカ。君は秋の第一月にある建国祭のパーティはどうするんだい?》
建国祭。
毎年、秋の第一月の、水の曜日・風の曜日・地の曜日の三日間で行われるお祭りです。
王都や、大きい領都などでは、街中で盛り上がるそうです。
加えて、貴族の場合は三日間のパーティを行っています。
基本的に参加は任意なのですが、三日目には王様が必ず出席しますので、そういう意味では参加可能な貴族の参加は必須のようになっているそうです。
これまでずっと引きこもっていた私としては、あまり縁のない催しなのですが――
《出席、必須ですか?》
これも、分かってはいることではありますが、敢えて訊ねます。
ひょっとしたら出なくて良いよって言ってもらえるのでは――という淡い期待がないわけではないです。
《これまでは欠席でも問題はなかったかもしれないが、俺の婚約者様だからね。父上としては、建国祭の初日あるいは最終日の挨拶の時に、我々の婚約を国民に公表したいそうだ》
《フラスコ殿下が先にするべきなのでは?》
思わずそう認めて送り箱へと紙片を入れると、まもなくこちらにサイフォン王子からの紙片が届きました。
《兄上は今回のタイミングでの発表は見送るそうだ。
兄上が何を考えているかは分からないが、だからこそ父上は我々に声を掛けてきた。
つまるところ、建国祭の時に婚約発表をする必要があるということだ》
おぅふ……。
思わず口から変な声が出てしまいます。
私が頭を抱えていると、サイフォン王子から続けて紙片が届きました。
《そのあたりを踏まえて相談がしたい。
相談だけなら、送り箱でのやりとりで問題ないが、それだと表向きの相談している姿が存在しなくなってしまうからな。
後日、正式な手紙が届くと思うが、夏の第三月の第一週くらいには、王都へと来てくれると助かる。
婚約発表は拒否できても、建国祭の三日目にあるパーティに関しては、婚約者である以上は欠席できないよ》
……おや?
サイフォン王子は、私が帰領せず王都にいることを知らないのでしょうか……?
……そういえば、言ってなかった気もしますけど。
サイフォン王子すら気づいていないなら、過激な方々からすれば私が王都にいるというのは夢のまた夢みたいな状況なのかもしれませんね。
それはそれとして、今は夏の第二月の第一週です。
第四週が終われば、夏の第三月。第三月の第四週が終われば、秋の第一月がはじまります。
そう考えると、帰領してた場合、本当にドタバタしていたかもしれませんね。
帰領していた場合、今から王都へ向かう準備が必要でした。
以前、母国の祭事のスケジュールくらい、王族の妻としては知っていて当然だとお母様が言っていたことを思い出します。
《とりあえず、モカにお願いしたいのは》
こちらが何の返信もしないのをどう思っているのか、サイフォン王子からの紙片が連続して届きます。
《大変かもしれないが、出席する為の準備をしておいて欲しいってコトかな。
もちろん、俺が協力できるコトなら協力するから、気軽に言って欲しい》
そうは言われても、ここ一ヶ月ちょっとで何かできるのでしょうか……。
色々と不安はありますが、だからといって、拒絶できるものではありません。
サイフォン王子との婚約者になった以上は、いずれやってくるだろう出来事ではありますしね。
なので私は紙片を手に取り、ペンを走らせます。
《わかりました。
現状では何も浮かびませんが、夏の終わりまでに何か考えておきます》
《よろしく頼む。楽しみにしているよ》
……楽しみにされているのですか……。
ああ、文面というか文字というか……にじみ出てますね。
ニッコニコの王子の顔が。どれだけ楽しみなんでしょう。
私に会いたいというよりも、私がどんな策を講じるかを、楽しみにしているようにも見えます……。
たぶん、気のせいではないのでしょうね。
私の魔法や行動だけではなく、私自身にもっと興味を持ってもらいたいのですけれど……。
うーん、私から行動と魔法を無くしたら……。
あ、ちょっと本気で家柄以外の価値のない女っぽくなりますね。
自覚するとすごい凹みます。これ以上考えるのは危険そうです……。
なにはともあれ――
「明日からは色々と考えなければなりませんね」
はぁ――と嘆息混じりに独りごちながら、私は『箱』の天井を見上げるのでした。
……さすがに、箱のままで良いワケではないでしょうから……どうしましょうかねぇ……。