表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/124

第23箱


「こちらからばかり質問をして何なのだが……。

 知識の収集だけで毒の種類まで分かるのか?」

「えっと……その、これは……周囲で、聞いている……皆さんにも、胸に……秘めておいて、欲しい……話、なのですが」


 そう前置くと、なぜか皆さんに緊張が走ります。

 これからするのは、ある意味で、王子付きの人たちの気苦労を減らす話なのですけど。


「箱の中に、いる限り……私は、毒で……死ぬコトは、ありません……ので」

「それはどういう意味だい?」

「そのままの、意味です。

 毒の味は、分かり、ますけど……毒は、その効果を、発揮しないまま……無毒化、され、ます……」

「なるほど。

 先日の『箱は毒に強い』というのはそういう意味か」


 王子付きの方々は何とも言えない表情を浮かべていますが、当の王子は何やら難しそうな、でも楽しそうな、そんな顔をしています。

 そして、王子は質問のていで、半ば確信しているような話を訊いてきました。


「しかし毒が効かないコトと、知識があるコトは別問題だ。

 となると――君は毒が効かないと気づいた時に、色々試したのではないかと思うのだが?」

「はい……その、興味が、とても湧いて……しまって」


 そうしっかりと指摘されると何だか恥ずかしいのですけれど。


「どこまでの、毒が……無効化できる、のか、色々試したくて……」

「味見を含めて?」

「できそう、な……モノは……色々……」

「好奇心でか?」

「はい……」


 答えた瞬間、王子のお連れの方々に衝撃が走ったようです。

 まぁ、ふつうの令嬢は毒が効かないからといって、毒の味を覚えたりはしないでしょうしね。


「本当に君とは気が合いそうだ。

 とはいえ……いくら効かないとはいえ、よくもまぁ宰相夫妻がそれを許可したな」

「…………」


 その質問には、ノーコメントとしておきましょう。


「箱の外からながら、今の一瞬だけ君の姿が見えた。思い切り目を逸らしただろう?」


 ……などと思って黙っていたら、あっさりと見抜かれてしまいました。


 実際、許可が貰えなかったので、カチーナに無理矢理頼み込んで調達してもらいましたから。

 最終的にはバレて、両親から大目玉を食らったのはナイショです。


 カチーナの口添えで叱ったところで止まらないだろうと判断されたので、実験するときは事前に言うようにと、ルールが設けられました。


 守ったり守らなかったりしているルールですけど……。


「あまり両親に心配を掛けるものではないぞ」

「殿下は……ブーメラン、という……投擲、武器を……ご存じ、ですか?」

「知っている」


 苦笑しているので、自覚はあるのでしょう。その辺りはお互い様ということで。


 サイフォン王子とそんなやりとりをしながら、ふと周囲を見回せば、王子付きの方々が、何やら衝撃を受けている様子。


 そんなに衝撃を受けるような話でしたかね……?


「ともあれ、だ」


 その空気の中、王子は気にした様子もなく、私へと質問を投げてきます。


「君に運ばれる食事に毒が含まれていた場合、敢えて無視しても問題ないというコトかな」

「毒の入って、いないお料理……であるコトに、越したコトは……ありませんが……殿下の『面白いコト』に、必要な……のでしたら……」


 入っていると、料理の味が悪くなるので、あんまりやって欲しくないのですけどね。

 それでも、王子の趣味や生き甲斐を考えると、こういう答えが一番好みなのではないでしょうか?


 実際、王子は嬉しそうです。


「毒が入っているで、思い出した。

 成人会の時、君はワインの毒を『箱』に取り込む前に気づいたな?

 毒の内容そのものは口にしてからのようだが、どうして事前に気づいたんだ?」


 そこは、目の前でやってしまっているので、当然の疑問でしょう。

 全てを答えるつもりはありませんが、一端だけは口にしておいた方が、無理矢理聞き出される心配が減りそうですね。


「毒を、口にしている……うちに、使えるように、なった『箱』のチカラです」


 これもある意味では、王子付きの皆様の心配事を減らす能力だとは思うのですけれど。


「やはりか。毒の内容までは分からずとも、その有無だけは、上面に乗せた時点で分かるのだな?」

「完全、では……ないです、から……漏れは、あると……思いますが――その、通りです」


 やはり――ということは、漠然と推測はされていたようです。


 ちなみにこのチカラなのですが……判断がどうにも私の知識が基準になっているようです。なので私の知識にある毒であれば、その有無が分かるようなのですよね。

 ただあくまで上面に乗った時点では、私の知識にある毒が使われているかどうかだけが判明します。

 実際に何が使われているかどうかまでは、口にしないと分かりません。


 もっとも、その辺りの詳細をここで語るつもりはありませんが。


「それでも充分すぎるほどだ」


 そういってうなずく王子は本当に楽しそうです。

 とはいえ、王子の喜色とは裏腹に、ほかの方々の顔色は悪くなっていっているようですが。


 そんなやりとりをしながらも、私たちのお喋りは弾んでいきました。


 徐々に話題は毒から離れていき――

 そのまましばらく談笑をしていると、サイフォン王子が突然何かを思い出したように目を瞬きました。


「そうだ。君の話が興味深く、そして会話が楽しくて、すっかり口にするのを忘れていた」

「なん……でしょう、か?」


 急に改めた態度となった王子に、私は首を傾げます。


「本当は一番最初に言っておくべきだった言葉だ」


 少しだけ真面目な顔をして、サイフォン王子は告げます。


「突然の婚約の申し入れだったにも関わらず、快く受け入れてくれて、ありがとう。これからよろしくお願いする」

「…………」


 その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかりました。

 じわじわと理解しはじめると、なんてことのない言葉のはずなのに、なぜだかとても嬉しくて――


「こちらこそ……よろしく、お願いいたします」


 自分でも無自覚に言葉を弾ませながら、誰も見ていない箱の中で、笑顔でうなずきました。


「これだけ話をしていて今更だとは思ったのだが、大事なコトだと思ってな」

「はい。大事な、コトです」


 笑いながら告げるサイフォン王子に、私も笑いながら応じました。


 互いにしばらく笑いあったあと、私は少しだけ覚悟を決めることにします。


 相手と思いの繋がりを感じた時、一歩踏み出す。

 そうやって、ジャバも信頼を得ていましたからね。ここは、私も勇気を持って踏み出す場面です。


「殿下……ッ!

 ……その、あの……もし、よろしければ……箱の中へと、来て……頂けませんか?」

「良いのか?」

「はい……。

 殿下が、触れば……入れるように、してあり、ます……ので。

 入ったら……真っ直ぐに、以前来て頂いた……客間に、お願い、できます……か?」


 やや声を上擦りさせながら、何とかそこまで言い切ると、王子は少しだけ考える素振りを見せました。


 ちらりと側近たちに目線をやり、ややして王子は力強くうなずいてくれます。


「では、失礼する」


 そう口にしたサイフォン王子は、席から立ち上がり(わたし)へと近づくと、ゆっくりと手を伸ばして触れてくるのでした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【引きこもり箱入令嬢の外箱】
公爵家のメイドは今すぐ職場に帰りたい
ラニカが主役のアクション系外伝です

巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~
本作、第一部の悪役令嬢ルツーラによる魔性式の日からやりなおし物語。
そして引きこもらなかった箱入令嬢の物語でもあります。


書籍版【箱入令嬢シリーズ】
講談社 Kラノベブックスf より発売中
【箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚】
2022/10/3発売です!٩( 'ω' )و
引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズ版【引きこもり箱入令嬢の結婚】コミックス
1~7巻発売中!٩( 'ω' )وこちらもよろしくお願いします!
コミカライズ引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズも連載中です!
毎週月曜日0時更新
講談社女性向けコミックアプリ palcy

毎週火曜日11時更新
ニコニコ漫画 水曜のシリウス

毎週水曜日12時更新
ピクシブコミック

毎週日曜日0時更新
マガジンポケット



他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~現代学園RPGのヒロインに転生しましたが主人公(HERO)とイチャラブしたくないのでルート回避したい。でも世界は滅んでほしくないので奮闘してたら未知のルートに突入しました~
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~
約束守りの図書館令嬢



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ