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第16箱


「お嬢様、呑気に構えていてよろしいのですか?」


 お母様の悲鳴に何事――とばかりに驚くカチーナに、私はとりたてて慌てることもなく告げます。


「大、丈夫……異常事態、とかじゃ……ない、から」


 そういえば、常に冷静な態度を崩さないカチーナにしては珍しく慌ててるかもしれませんね。


「そうなのですか?」


 落ち着かせるように口にした言葉に、カチーナは暗赤色の髪から覗く黒い瞳を揺らしながら、『箱』(わたし)を見つめてきました。

 それに、私はうなずいて――『箱』の外からだと分からないかもですが――から答えます。


「うん。王家から……正式な、婚約の……打診が来た――だけだから」

「充分異常事態ではありませんか」

「そう、かな?」


 異常事態――と口にするわりには、カチーナは冷静さを取り戻したのか落ち着いてますよね?


「そうですよ。

 わたしは成人会での出来事を知っておりましたので、多少は予想できていましたけど、ふつうは驚きます。

 そもそも――こう言ってはなんですが――お嬢様が見初められるような機会があるなど、お嬢様を知っている人ほど想像が出来ませんので」

「……まぁ、そう……かも?」


 実感がイマイチありませんが、カチーナが言うのだからそうなのでしょう。


 カチーナは私が一番信用し信頼している人物ですからね。

 私の箱魔法に関する多くのことを知っている唯一の相手でもあります。


 私が首を傾げている気配でも感じたのか、カチーナは小さく嘆息するように息を吐きました。


「ところで、奥様が悲鳴を上げられた後、ひたすらにドタバタする音だけが聞こえてきますが、何が起きているのでしょう?」

「お母様が、婚約の打診を……信じられ、なくて――みんなに、読ませて、これは夢ではない……と、確認してるみたい」

「気持ちは充分分かります」


 カチーナ、ちょっと酷くない? ――などと思いますが、そう思われるだけの引きこもりの自覚はありますので、渋々納得しておきます。


「ところでお嬢様」

「なに?」

「実際のところは、どうなのですか?

 サイフォン王子のコトは」

「うーん……」


 改めて問われると、少し悩んでしまいますね。


「前から、気にかけて……いた――殿方、ではあるけれど……」


 そこは間違いありません。

 魔性式の出来事以来、ずっと記憶に残り続けている人……。


「打算で、言えば……あの人、なら、受け入れて――貰える、かな……って」


 魔法で作った箱の中から出たくないなんて言う、私の在り方を……。


「それは例の噂から、そう思われたのですか?」

「うん、まぁ……それもある、かな」


 実際のところは噂以上の情報を仕入れているから、なんですが。


 面白いモノが好きな王子。

 婚約するなら自分を楽しませてくれる相手が良いと公言している。


 どちらも、事実です。

 実際に、その発言は私がこっそり覗き見していましたから。


「お嬢様は、最初からご自身の素顔を晒すおつもりで、箱の中へとお招きされたのですか?」

「その、質問は……《はい》が五割、《いいえ》が五割……」


 素顔を晒そうと思ったけど、勇気が足りなくて着ぐるみヘッドを取れなかったのは、事実ではあるのですけれど……。

 素顔を晒さずとも、サイフォン王子を招くことそのものが、目的でもあったわけで……。


 私も王子も、口うるさく言われる婚約者問題を解決するなら、そういう行動を取るのが手っ取り早かった――とも言えます。


 もちろん、それをお互いに口にしたワケじゃありませんけど、思惑は一致したんですよね。


 ただサイフォン王子は完全に打算かもしれませんが、私は……その、王子と会える、少しでも箱の中で王子と一緒にいたいと、そういう打算も、無かったとは、言いません。


「お嬢様は、婚約に前向き――なのですね?」

「うん、そう……だね。

 さっきも、言ったけど……前から、思っていた……ところは、あるし」

「そうですか」


 カチーナがそううなずいたところで、お母様のものと思われるドタバタした音が近づいてきます。


 恐らくはラニカと同じように、顔面から夥しい量の水分を垂れ流しながらおおよそ淑女らしからぬ様子で、勢いよく扉を開いてくるはず――


「モカちゃんッ!!」


 そして、その予想通り、勢い良く私の部屋の扉が開け放たれました。


 綺麗な銀の髪を珍しく振り乱し、今なお衰えない美貌を汗で濡らしながらも、その紫色の瞳だけはまっすぐに、こちらを見据えながら。


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― 新着の感想 ―
[良い点] > その紫色の瞳だけはまっすぐに、こちらを見据えながら。 まぁ見据えてるのは箱なんですけどねw シュール
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