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第15箱


 あがった息を整えもせず、ぜーぜーと言いながら、なにやら手に持っている手紙をラニカはモントーヤに差し出しました。


『お、王家の使者を名乗る方が持ってきました……ッ!』


 そして、ラニカのその言葉で、努めて冷静に聞こうとしていたモントーヤの片眉がピクリと動きます。


 恐らく《王家からの使者》という言葉を聞き、色々と考えているのでしょう。


 今日、お父様の帰りは夜遅く。

 そしてお父様は王城勤め。

 ……にも関わらず、わざわざ使者が家にやってくるという状況。


 王城内では他人の目や耳が気になってしまう内容――という予想は付きます。加えて、お父様に確実に届けたいという意図もあるのでしょう。


 モントーヤもそこまでは推測できるでしょうが――


『内容は分かっているのですか?』

『い、いえ……。ですが、お嬢様の名前が先にあり、続けて旦那様の名前が書いてありますから……わたしは……ッ!』

『まさか……ッ!』


 彼女が慌てていた理由に気づき、モントーヤも思わず声を上げます。

 お父様の不在時には、この手の手紙を開く権限をモントーヤは持っています。


 他の家の家宰の権限までは分かりませんが、ドリップス家から絶大な信用と信頼を得ているモントーヤだからこそ、許可されているものですね。


『……開けますよ』

『はい……ッ!』


 それを知っているラニカは、息を整える様子も(おびただ)しい量の汗を拭う素振りも見せないまま、息を飲みました。


 モントーヤはともかく、本来はラニカがいる前で開けるものではないと思いますけど、二人は些か冷静さを欠いているのでしょう。


 そして、中から出てきた手紙を読んだモントーヤは、大きく目を見開き、一度天井を仰ぎます。


『モントーヤさん……?』


 その不審な様子に、ラニカもどこかビクビクと怯えた様子で声を掛けます。


 モントーヤは大きく深呼吸をし、努めて冷静に顔を下ろすと、もう一度、改めて冷静に――いやもうほんと冷静になれ自分と言い聞かせるように、書面を読み直しています。


 そして、何度読んでもその文面から読みとれる情報は、ただ一つだったようで……。


『……奥様に先触れを……ッ! 大至急の案件で、私がお部屋に伺う、と……ッ!』

『わかりましたっ!』


 冷静を装いつつも少し上擦り、掠れ気味の声で、モントーヤが指示をだしました。


 そして部屋を飛び出していくラニカは、今以上に顔面に夥しい量の水分を垂れ流しながら、お母様の元へと行くことでしょう。


 モントーヤは扉を閉めていかなかったことに対して、咎める気は微塵もないようで、一度手紙を読み直してから、立ち上がりました。

 執務室から出て行く動きはどこかぎこちないので、冷静さを欠いているところはあるのでしょうね。


 どうにかこうにかといった様子でお母様の部屋の前まで行くと、モントーヤはノックをしました。


『誰かしら?』

『モントーヤです』

『どうぞ』

『失礼します』


 意を決するように部屋へと入るモントーヤ。

 その姿を見て、お母様は目を眇めました。


『ずいぶんと慌てているようね』

『実は、王家よりお手紙が届いておりまして……』

『わざわざ先触れを出して、あなた自らがやってくるというコトは、相応の重大な内容なのね?』

『はい』


 王家から――という言葉に、お母様は表情を引き締めて、モントーヤが差し出す手紙を手に取りました。


『先触れに来たラニカが、全身から夥しい量の汗を――なんていうか、水浴びでもしたのかってくらい垂れ流しでやってくる程度には、相応の内容なのよね……?』


 その手紙を読む前に、ふと思い出したように顔を上げたお母様はそんなことを訊ねます。

 ……ちょっとした現実逃避なのでしょう。


『なんと申しますか、失礼しました』

『かまわないわ。慌てると色々とすっ飛んじゃう子だと分かった上で仕えさせているのだもの。それに、普段の彼女は優秀なのもよく知っているから』

『恐れ入ります』

『彼女には次の仕事の前に水浴びをするよう言っておいたわ。

 次の仕事に遅れちゃうかもしれないけど、大目に見てあげてね』

『かしこまりました』


 モントーヤとラニカの様子から、尋常な内容ではないことを察したので、ちょっとした雑談で気を紛らわしたかったようですが、それもすぐに終わってしまいます。


 雑談が終わったお母様は改めて覚悟を決めて、その書面を読み――




 そのタイミングで、誰かが私の箱を叩く音がし、意識を映像箱から『箱』の外へと向けました。


「カチーナ?」

「お嬢様。そろそろお昼になりますが、お食事はいかがなさいますか?」

「もうそんな時間……」


 『箱』の機能で何かを作り出すか、家の料理人に作ってもらったものを持ってきて貰うか――


 私が悩んでいると、


「そんなッ、まさか……ッッッッ!!!!?」


 お母様――ラテ・オーレ・ドリップスの悲鳴じみた声が聞こえてきました。


「な、何事ですかッ!?」


 驚くカチーナに、私は努めて冷静に告げます。


「お昼は、少し……遅くなってしまいそう……ですね」


 だって、しばらくしたらお母様がこの部屋へと駆け込んでくるでしょうから――




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