第14箱
本日も2話公開しております。
こちらは本日の2話目です。
成人会も無事に終わったその翌日。
王都にあるドリップス家の別邸。
その自室に安置された『箱』の中で、私は今日を過ごします。
『箱』の中は相変わらずなので、別邸の自室であろうが本邸の自室であろうが、私的にはあまり代わり映えはしないのですが。
私は成人会に出るために別邸へとやってきていたのです。ことが終われば後は帰るだけ。
とはいえ帰るにも準備はいります。
それが終わるまでは、基本的に私はここで大人しくしているつもりです。
まぁ、ただ大人しくしているのも暇なので、ここから別邸の中の様子や、王都の様子なんかを窺っていくとしましょう。
見聞箱は、私が魔力を与えることで空を飛べるようになりますが、基本的には設置して使うのが主となります。
サイズもいくつか存在し、一番小さいものだと手で握って隠せてしまうサイズも存在するのです。
そういう意味では便利な面は多々ありますが、空を飛ばさず利用するには、誰かに運んでもらったり、どこかに設置してもらったりしないといけないのが難点、でしょうか。
ただ一度設置してしまえば、いつでも設置してある見聞箱の見ている光景や音が聞けるので大変便利です。
飛行させる場合は、指示を出すにしろ自分で操るにしろ、見たい場所まで移動させる必要がありますからね。
事前に設置しておけば、いつでも見聞きできるようになるという点では、設置しておく方が便利です。
ちなみに、カチーナに頼んで本邸にも別邸にも、あちこちに仕込んでもらっています。
王都や領都の街の中などにも設置してたりしますね。
でもまぁ今回は、この別邸の中の様子を窺いましょうか。
昨日のサイフォン王子の様子を思うと、今日辺りには向こうから何か動きがありそうですが――さて……。
とりあえずは、家宰モントーヤの様子を見てみましょうか。
私は映像箱の一つを自分の前へと持ってきて、そこに映し出されている執務室の様子を見はじめました。
宰相であるお父様は王都で過ごすことが多いので、領主の仕事は家宰であるモントーヤ・シナン・ハインゼルに任せています。
古くから我が家に仕えている人ですので、お父様だけでなくお母様はもちろん、私も信用している優秀な方です。
モントーヤはある程度お父様から裁量を与えられており、加えてお父様からの指示が手紙で届くので、判断に困ることは少ないようです。
時折、カチーナを通じて私に相談してくることもありますが、今のところは私が答えられる範囲の相談が多いので、なんとかなっています。
そのモントーヤですが、彼も必要があれば王都へとやってきます。
今回は、お父様から呼び出しがあった為、成人会に出席する私と共に、王都へとやってきていました。
帰りもまた私と帰る予定の為、今はこの王都の別邸にて、可能な業務を行っているようです。
モントーヤは元々濃い灰色だっただろう髪と口髭に白髪がだいぶ混ざっていることから、それなりに年を重ねていることがわかる老紳士です。それでも、背筋は伸び、執事服をピシッと着こなした姿からは、衰えを感じません。
白手袋をした左手の中指で、メガネのブリッジを押し上げながら、書類を確認し、問題ないことを確認してから、お父様より預かっている印を押す。
一連の作業を繰り返しながら、独りごちていました。
『ふむ。去年は作物がやや不作でしたが、今年は問題なさそうですね』
去年の不作も、事前に不作の可能性を私が箱で予測して教えたりしていたので、お父様とモントーヤがうまく対応してくれたんですよね。
今年は特にそういうのもなかったので、比較的穏やかだったようです。
このまま穏やかに一年が過ぎれば、モントーヤとしても気が楽かもしれませんね。
そんな感じで仕事をしているモントーヤの様子を窺うのに飽きてきたころ、ドタバタと慌てた足音が、執務室へと近づいてきます。
間違いなく、この足音は執務室が目的地のようですね。
もちろん、モントーヤもそれに気づいているようで――
モントーヤは扉が開く前に嘆息を済ませておこうというように息を吐きました。
直後に、執務室の扉が勢いよく開きます。
『モ、モントーヤ……さんッ!!』
ノックも無く開いた扉から姿を見せたのは、王都の邸宅に勤めるまだ若い侍女です。優秀で、将来有望なんですけど、慌てると細かいマナーをすっ飛ばしてしまうはしたない面があるのがたまに瑕なんですよね。
名前は確か――ラニカでしたか。
慌てて走ってきたせいか、本来は綺麗に整えられているでしょう濃い青髪は乱れてしまっています。
『どのお部屋へと入室するにしても、ノックは基本でしょう?』
一応、モントーヤが咎めるようなことを口にしますけど、それどころの内容ではなさそうですよね。
モントーヤもそれを理解しているのか、ちょっと覚悟を決めた様子が見えます。
恐らくラニカは、玄関から二階にあるこの部屋まで一気に駆けてきたのでしょう。
途中に階段はあれど、僅かな距離。今が夏であることを考慮しても、このように顔面から夥しい量の水分を垂れ流しながら、拭いもせず駆けてくるというのは尋常な様子ではないと思います。
……いやまぁ、何となく、慌てている理由は予想できるのですけど。
あがった息を整えもせず、ぜーぜーと言いながら、なにやら手に持っている手紙をラニカはモントーヤに差し出しました。
『お、王家の使者を名乗る方が持ってきました……ッ!』
明日からは毎日1話、20時更新でやっていきたいと思います。