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第13箱

本日も2話公開です。

こちらは本日の1話目となります。


『結局、焦ってたのではありませんか?』


 サバナスの疑問に、だけどサイフォン王子は飄々(ひょうひょう)とした様子で答えます。


『婚約には焦ってないさ。

 断られたならまだ諦めがつくが、その前に誰かに手を出されるのは我慢ならない』

『婚約ではなく、彼女が誰かに手をつけられるコトを焦っていたのですか』

『そういうコトにしておけ』


 嘯くように答えるサイフォン王子の本心は見えません。

 でも、そこに思惑があれど、私のことを思ってくれているという点ではとても嬉しいことです。


 サイフォン王子の様子に、まったく――と、どこか呆れた調子でサバナスは息を吐きました。


『しかし、ドリップス嬢が王子を中へお招きするとは思いませんでした』

『腐っても――いやこの場合は引きこもっても、というべきか?――何でもいいが、彼女がドリップス宰相の娘であり、その頭脳の使い方を継承しているのは間違いない。

 俺を中へと引き込むコトに、彼女なりの思惑があったんだろう』


 サバナスの言葉にサイフォン王子がうなずきます。


 まぁそうでなければ、自身の魔法とはいえ、『箱』の中へと異性を招くなど、なかなかできるものではないですしね。


 二人から褒めてもらえているようで悪い気はしません。


『もっとも、だからこそ俺としても助かったがな。

 中に入れてもらうコトには、俺なりの思惑もあったんだ』

『お互いの思惑の結果がアレですか。周囲からすれば頭が痛い話です。

 明らかに、中で婚約の話がされただろうと、噂されますよ?』

『そこは、俺もモカ嬢も構わないと思っている』

『左様ですか』


 左様なのですよ。

 思惑に対する辺りは、箱の中でやりとりに含まれてない部分ですが、お互いの利益の為に――という点において、言葉の裏で一致したところです。


 とはいえ、サバナスの言うとおり周囲が大変なのは間違いないので、そこは申し訳なくありますけどね。

 そうしてサバナスが何度目かの嘆息をすることで、話が一区切りとなりました。


 そこを境にサバナスが話題を変えます。


『さて、話は変わりますが』


 言葉とともにサバナスの雰囲気が変わりました。

 お説教や助言のようなものとは異なるピリリとしたモノです。


 その意味を即座に理解したサイフォン王子は、サバナスが待っているであろう言葉を投げかけます。


『ああ。会場で捕まえた男はどうした?』

『騎士団に引き渡された後、騎士団から尋問を受けました』

『それで?』

『過激派一派の息が掛かっていたようですが、所詮はトカゲの尻尾のようです。誰からも助けの手などは伸ばされないコトでしょう』

『ふむ』


 毒を盛った男の末路というのは、想像もしたくありませんが……まぁ処刑は確実ではないでしょうか……。

 たとえ自分の意志であろうと、唆されただけであろうと、王族を害してしまった時点で、結末は決まってしまいます。

 あるいは、処刑より先に、誰かに口封じされる可能性も考えられなくはないですが……。


 どちらであれ、命はないでしょう。


 サイフォン王子としては男のその後に興味が全くないようです。

 王子にとってこの問題は、そういう手段を取る者がいたということなのでしょう。


『それ以上の情報は、何か手には入りそうか?』

『準備が出来次第、薬と幻術を使った尋問も行うようです』

『それで依頼人の名前でも出てくれば、そこから黒幕までいけるのだが』


 そればかりは結果が出てみないと分かりませんよね。

 しかし、現状の次期王位争いの天秤は何とも言えない傾きをしているのが、こんな騒ぎを起こすとは思いませんでした。


 兄王子であるフラスコ王子の性格は荒っぽく、機嫌が悪くなると魔法を放って我を通そうとする危険な一面があります。

 彼に付き従う者は少数派ながら、御輿としては多くの貴族から好まれている問題児なんですよね。


 そして時々、覗き見している私はそれが事実であると知っています。


 弟王子であるサイフォン王子は、一見すると穏やかで優秀な人物で……何でもソツなくこなすその能力は、文官仕事でも武官仕事でも発揮される人です。

 一方で、次男故の奔放さで、面白いコトが好きだと公言するように、厄介事などに好んで首を突っ込む一面があります。

 それにつき合える者くらいしか付き従わないところがあり、フラスコ王子とは別の意味で問題児だと思われているようです。


 フラスコ王子の方が、生まれの順番的には王に一番近いものの、能力的にはサイフォン王子の方が高いことから、意見が割れて派閥が分かれてしまっていて、ややこしいことになってるのが今の王侯貴族の状況です。


 だからこそ、その天秤を傾けたく、フラスコ閥の過激派たちは、サイフォン王子に対して時々露骨な攻勢を仕掛けているという頭が痛くなる出来事が度々発生しているのです。


『とはいえ、流石に雑な一手としか言えないだろう、今回のは』

『それだけ焦っているのではありませんか?

 サイフォン殿下本人がどう考えているかではなく、サイフォン殿下がフラスコ殿下の地位を脅かしかねないという存在感そのものに対して』

『あるいは少し刺激しすぎたのかもしれないか』

『今後はもっと増えるかもしれませんよ?

 ドリップス嬢とのやりとりは、少しばかり刺激的でしたし』


 あー……そうですね。

 私にそんな意図はなくても、フラスコ閥の方々にはちょっと刺激的すぎたかもしれません。


 サイフォン王子が宰相の娘である私と婚約するというのは、かなり大事ですし、天秤が一気にサイフォン王子に傾く出来事なワケで……。


 そうなると、多少は私も気をつけておくべきかもしれませんね。

 さすがに屋敷に暗殺者を放ってくるようなことは、まだ無いでしょうけれど……。


 とはいえ――


『まったく……あちらの陣営は裏工作以外の面をもっとがんばるべきだと思うがな』


 私もサイフォン王子のその言葉に、全面的に同意です。


 そして理由がなんであれ、さすがのサイフォン王子も、ここ最近の過激派のちょっかいは鬱陶しいと思っているようで……。


 だからこそ――


『ふむ。やはり、良いタイミングで彼女と出会えたのかもしれんな』


 サイフォン王子はそう独りごちました。


 そこにサイフォン王子の思惑が多分に含まれていると分かっていても、そう言われるとちょっとドキっとしてしまいますね……。


『何を考えているのか分かりかねますが、ロクなコトではなさそうですね』

『そうでもないぞ。いくつかの問題をまとめて片づけられる妙案だ』

『やはりロクでもないモノではないですか』


 わざとらしく嘆息するサバナス。

 何となく気持ちは分かります。


『自衛だよ自衛。そこまで王位に興味がないと口にしてても無駄なら、自衛するしかないだろう?』

『はぁ……仕方がありませんね』


 ……これ、王子は向こうの派閥をもっと刺激して、我慢できない方々をまとめて一網打尽にするつもりではないでしょうか?


 そうなると、私の帰領前に、屋敷に訪問してきそうですね。

 その時はサイフォン王子のお仕事のお手伝いを兼ねて、快く迎えいれるとしましょう。


 王子が訪ねて来てくれるかも――って思うと、心が躍りますしね。


 内心で勝手にドキドキしていると、サイフォン王子は話題を変えるように、サバナスに声をかけました。


『さておき、だ――サバナス。父上と話がしたい』

『それでしたら、元々陛下より成人会のコトについて話がしたいので都合の良い時に来て欲しいとの言付けを受けております』

『ならば、これから時間があれば伺いたいと、先触れを頼む』

『かしこまりました』


 サバナスが了解すると、ややして扉の開く音が聞こえたので、退室していったのでしょう。


 部屋に残されたサイフォン王子は、ややしてから大仰に独りごちました。


『恋心というのは制御が難しいモノだと聞いていたが、その通りのようだ。モカ嬢と会ってから心が不思議な動きをする』


 とてもわざとらしい口調なのに、嬉しいやら恥ずかしいやらの感情がこみ上げて来てしまいます。


 それに対し、部屋の中にいたらしい王子の護衛騎士のリッツが、真面目な様子で口を開きました。


『どうでしょう……。

 殿下の場合、懸想(けそう)と好奇心の区別が付いていない可能性がありますが?』

『時々やたら辛辣になるよな、お前(リッツ)

『少なくとも今の殿下がモカ嬢に対して抱いているのは懸想でも何でもなく、ただの興味だと思いますが』

『そこは否定しない』


 ……否定しないのですか……。


『そこを否定しない以上、現状は懸想と興味の区別がちゃんと付いているのではありませんか』

『リッツはサバナスとは別方向で強い時あるよな、ほんと』


 わざとらしい独り言に対して鋭すぎる言葉のナイフを投げ返されたにも関わらず、それを受け止めたサイフォン王子は楽しそうに笑います。


 従者と仲良さそうな雰囲気はとても良いですが、"懸想はない"という言葉に、自分でも想像以上のショックを受けた私は、見聞箱を動かし、王子の部屋から遠ざけるのでした。




本日も2話公開です。

次話は20時頃公開予定です。

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