【閑話】カフェ・ホワイト・ドールトールの冒険(未満)その1
あけましておめでとうございます٩( 'ω' )و
コミカライズの最終9巻が年末に発売され、連載サイト各所でも最終回が順次公開されております。
それに伴い、せっかくなのでリクエストの多いカフェちゃんの話を一つ。
見切り発車のマイペース連載ですが、お付き合い頂けたらと思います٩( 'ω' )و
「王妃様ッ! こちらにカフェ様はお見えになられていませんかッ!?」
王妃モカの私室へと侍女のフランツィスカが駆け込んできた。
「こら、フラン。何かに慌ててるのは分かるけど、ノックくらいはしなさい」
「あわわわ、申し訳ありません!」
駆け込んできたフランツィスカに対して、モカの髪を整えていた侍女ラニカが嗜める。
「あまり怒らないであげてラニカ」
そんな侍女のやりとりをモカはやんわりと止めた。
「それに、ラニカもあまり人のコトは言えないでしょう?」
「ううっ……それを言われると……」
先輩の威厳たっぷりだったラニカは、痛い指摘をされて急に勢いが削がれていく。
ラニカのそんな様子にクスクスと笑ってから、モカはフランツィスカに訊ねた。
「フラン。それで、慌ててどうしたのかしら?」
「あ、はい。えっと――カフェ様の姿が見えなくなりまして。陛下と共に抜け出したのかと思ったのですが、陛下は執務室におりまして……もしや一人で抜け出したのかもしれないと、今探しているのですが……!」
「……! それは……!?」
さすがのラニカも、モカの髪を整える手を一瞬止めてフランツィスカの方を見る。
一方、母親であるモカは特に慌てた様子を見せなかった。
「まぁ、私とサイフォン様の子供だから仕方ないかなぁ。いつかすると思ってたし」
「仕方ないですませないでくださいッ!?」
血筋血筋――とモカが笑うと、侍従コンビは全くもって笑えてない顔で声を揃える。
「カフェ様ったら魔性式を経て『樽』魔法を使えるようになってから、隠れんぼが得意になってしまって探すの大変なんですよー……」
よよよよよー……とフランツィスカはわざとらしく泣き出すものの、口からでている言葉にはとても実感が籠もっている。涙はともかく、発言は本心なのだろう。
「そうねぇ……」
フランツィスカの様子にモカは下唇に指を当てて思案する。
「あ、そうだ。サバナスには相談した? サイフォン様は子供の頃から今に至っても、時々抜け出して下町で遊んでるから。そういうの馴れてると思うわ。アドバイスくらいは貰えるんじゃないかしら?」
「そういうのに馴れてるサバナスさんはカチーナさんに良く効く胃薬をちょいちょい処方してもらってますけど?」
ラニカのツッコミはスルーしてモカが微笑むと、光明を見つけたり――とばかりにフランツィスカの瞳にチカラが宿った。
「ありがとうございます! サバナスさんのところに行ってきます!」
「サバナスが見つからないなら、ブラーガやピオーウェンでも良いと思うわ。今はフラスコ様も帰ってきているから、二人ともいるし」
「はい!」
フランツィスカは勢いよく――でも丁寧に――にお辞儀をすると、大急ぎでも音を立てずに扉を閉めて、音も立てず廊下を駆けていく。
「ラニカと同じようで、要所要所は丁寧というか器用よねフランって」
「そうですね。転びませんし」
「えーっと、自虐?」
「客観的に自己評価しながらちょっと拗ねてるだけです」
何やら複雑なことを口にしながらも、モカの髪を整える手は止まらない。
そもそも、モカが首を動かしたりしても手は止めず、モカの動きに合わせて自分が動いて髪を整え続けていたくらいだ。
「相変わらず自己評価が低いままなんだね、ラニカ」
「……こればっかりはもう我ながら治らないだろうなって諦めてます」
そんなやりとりをしているうちに、モカの髪のセットは終わるのだった。
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王都の城下町。
商業区画の中でも、光と影の境目にあるようなもっとも混沌としていて雑多で、人によってはもっとも楽しい区画と言うようなエリア。
その一画の人目の死角に樽がある。
だが、その樽の様子がおかしい。
見た目はどこにでもありそうな樽だ。なのに、しまっているフタの天面が波打つと、まるで水面から出てくるかのように少女の顔がひょこっとでてきた。
まだ二桁にはなってなさそうな年頃の少女だ。
その少女は、爛漫な様子で首を動かす。
右見て左見て、周囲に怪しい人の気配はなし。
「よし!」
むふーっと、してやったりなドヤ顔をしながら、その少女――カフェ・ホワイト・ドールトール王女殿下は樽の中から飛び出した。
「何をやっているのかしら、このお子様は」
その直後、誰かに頭を掴まれてしまった。
自分を捕まえる聞き覚えのある声に、カフェは恐る恐るそちらへと視線を向ける。
そこには冒険者の格好をした、見慣れた伯母の姿があった。
「ご、ご機嫌よう……ティノ伯母様。戻って、こられていたのですねー……」
「ええ。ご機嫌よう、カフェちゃん。今朝戻ってきたところよ。ところで、こんなところで何をしているのかしら?」
「え、えーっとー……」
目を泳がせて言い訳を考えるカフェを横目に、ティノと呼ばれた女性は周囲を見回す。
「近くに道楽屋フォンの気配はナシ。こっそり家を抜け出して一人でお忍びってところかしら」
「ううっ……」
カフェとしては伯母のティノは好きな部類の人物だ。
伯父のフラスコと共に色んな国を旅している人だし、色んなお土産を買ってきてくれるし、お話もしてくれる。あと両親やお城の人たちからは教えてもらえないような色んなことも教えてくれる。
失敗したイタズラについて反省会では、お叱りの後で、イタズラを失敗させずに済んだ方法を一緒に考えたりもしてくれたりする。
そんな両親に負けず劣らず頭が良く、ヘタしたら両親よりも頭の回転が速い上に、色々と察しが良い女性だ。
そのせいで、両親を出し抜けたとしても、絶対にティノに捕まってしまうのである。
そういう意味では苦手な人物であるともいえるのだが――
「恐らくは『樽』魔法のチカラ。モカの『箱』魔法の送り箱系列の能力だと思うけど、この樽は使い手自身を遠方へと送れるってところか」
ほらこの通り。
まだ誰にも教えていない、見せてもいない樽魔法を分析して、解析して、正解へとあっという間に辿り着く。
母は魔法オタクとしての分析と解析で、魔法の正体という答えを出すのに対して、この伯母はあり合わせの情報から限りなく正解に近い答えを出してくるからタチが悪い。
「時々フォンと一緒にこの辺りに来てるって話だし……そのときにフォンの目を盗んで事前に魔法の樽を設置しておいたわね?」
どうしてこの伯母はそんなことまで見てきたかのように暴いてしまうのか。
「ちゃんと着替えている点については悪くないけど、まだ身なりが良いわね。身分の良さが隠しきれてないわ。そんな格好で無防備にこの辺りを歩いていたら誘拐どころじゃすまないわよ」
「……え?」
できるだけ地味な格好をしてきたはずなのに、これでもダメらしい。
父であるサイフォンとこっそり出歩く時の格好よりも地味なはずなのに。
「フォンと一緒にいるから手を出されないだけよ。
彼はああ見えて、下町の何でも屋としても有名なんだから。
逆に言えば、フォンに痛い目を見せたいような連中も多いの」
そこまで言われれば、さすがのカフェも気づく。
「お父さんがいない今が……わたしの狙い目?」
「ええ。私だったら即座に誘拐するわ。
そしてフォンに痛い目を見せるのを目的とするなら、音声を録音する魔心具を用意して、そのすぐ近くであなたの爪を一枚ずつ剥ぐか、手の指を一本ずつ折るかして、何度も悲鳴をあげさせて録音したものを、フォンに送りつけるわね」
「伯母様怖すぎるッ!?」
「そのくらいされても可笑しくないって話をしてるのよ」
わざと脅している様子はない。
だからこそ、余計に真実味があった。
「忍びに対する考え方が甘いわ。ちゃんとやり方を教えないと危なっかしくてダメね」
「教えてくれるの?」
「ええ。良いところ連れて行ってあげる」
そうして仲良し親子のように手を繋ぎながらやってきたのは――
「……しょう、かん? ……灰猫の庭……?」
――しょうかんというのが何のお店なのかカフェには分からなかったが、それでもなんか雰囲気的に子供が来て良いお店ではなさそうなことだけは分かった。
あと、どうみてもお店が開いていない。
今日は店を開けていないのか、この時間はやってない類いのように見える。
「伯母様、ここは……」
気後れするカフェに対して、ティノは告げる。
「安心して。ただの社会勉強よ、社会勉強」
「えー……」
全然安心できない妖艶な笑みを浮かべながら、ティノはカフェの手を引いてそのお店の裏口へと足を向けるのだった。






