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【閑話】にゃんかそんにゃ日

 原口先生の描くコミカライズ

 その「おまけ34 鼻歌が聞こえる(ニコニコ版だと29)」のティノちゃんが可愛すぎたので勢いで書きはじめたものの、なかなか綺麗にまとまらずに、ようやく書き上がったらこんなタイミングになってしまったモノ。

 まだ見てない方は、是非ともパルシィやニコニコ漫画などでご確認ください٩( 'ω' )و可愛すぎるので。にゃんにゃん。


 その日、コンティーナが朝目覚めると、『箱』から妙なモノが出てきていた。


「……耳?」


 いわゆるカチューシャというやつなのだが、なぜか猫耳がついている。


「モカ様、これで何をしろと?」


 寝起きでスッキリとしない頭でそれを見ていると、とりあえず付けてみるか――などと思ってしまう。


 起きたばかりで整ってない頭にそれを乗せて、鏡を見る。


「……うーん、かわいい? かわいいかな? どうだろう?」


 自分で見ても似合っているかどうか分からない。

 ただ、頭に猫の耳がある姿というのは悪くない。


「サンディのお店にでも持ってくと、ウケが良さそうだけど……」


 命の恩人で今もお世話になることのある娼婦のお姉さんの顔と、彼女の勤めるお店を思いって苦笑する。


「……これを付けてると、猫と仲良くなりやすかったり?」


 ――さすがにそれはないか。

 そう思いつつも、こっそり持っておくとどこかで何かの役に立つかも知れない。


「でも、本当にモカ様は何の意図があってこれを?」


 説明を書いたメモくらいは欲しいところなのだが、今のところその類いのモノが届く気配はなさそうだ。


「とりえあず、朝の準備しましょうか」


 小さく息を吐いて猫耳を外すと、コンティーナはいつものようにその日の準備を始めるのだった。



  ・

  ・

  ・



「ん~♪」


 最近のコンティーナは機嫌が良かった。

 それこそ、ついつい歌を口ずさんでしまうくらいには。


 つい先日、お茶会にて有用な人の協力を取り付けられたのだ。


 王妃フレンはまだ完全に味方として――良い意味でというか貴族的な考え方を思えばというべきか――信用しきれていない面はある。


 だが、箱姫――モカは信用できる。

 モカは間違いなくコンティーナのことを理解していた。あるいは理解しようとしてくれている。

 友人としても、ビジネスライクの付き合いとしても、コンティーナのことをある程度分かっているからこその、あの時の言葉と『箱』の貸し出しだろう。


 とまれ。

 コンティーナは、王妃フレンと箱姫モカの二人の協力を取り付けたのだ。


 死なない為に死に物狂いであるのは今もそう変わらないのだが、あのお茶会以前の息を飲むような日常と、綱渡りをずっとし続けるような日々に比べたらずいぶんと気持ちがラクになっている。


 これまで根回しや情報収集、あるいは罠を張り巡らすために使っていた時間の一部を、のんびりとする為の自分の時間できるくらいには、ラクになっているのは間違いない。


 言い換えるのであれば、気を抜く時間は作れるようになったというべきか。


「ふんふ~ん♪」


 モカが城内に仕掛けている情報収集用の『箱』のうち、あまり設置していても情報収集に使えなさそうなのを拝借。

 それを別のもっと有効そうな場所に移動させる。


 実はその行為をモカが『箱攫(はこさら)い』と呼んでいたりするのだが、コンティーナは知らずに箱を攫っては移動させている。

 怒られてはいないのだから、良いだろう――くらいの感じやっているのだ。


 今日も箱を箱を攫っての移動中……。


「にゃあ」

「あら?」


 茂みの方から猫が出てきた。

 以前も見かけた猫だ。


 王城で飼われているというワケではなさそうだが、悪さをしないので可愛がられている猫――といったところだろうか。


 人懐っこいこの猫はトテトテとコンティーナへと近づいてくる。


「にゃ~?」

「にゃーん?」


 まるでコンティーナに話しかけるように顔を上げる猫に対して、彼女は身を屈めながら、返事をした。


「にゅぅぅ……」


 小さく鳴きながら、猫はすりすりと自分の顔をコンティーナにすりつけてくる。

 

「んー、ごめんなさいね。エサとか今は持って無くて」


 猫を撫でながら、コンティーナがそう口にする。

 それを分かっているのかいないのか、猫は顔だけじゃ無くて身体ごとすりつけるように、コンティーナの周りを回る。


「うーん、人懐っこいのはいいけど、何を求められてるのか……」


 単に構って欲しいのか、何か食べ物が欲しいのか、判断がつかない。


「あ、もしかして」


 ふと、脳裏に今朝届いた猫耳が過った。

 持っていたそれを頭に付ける。


 猫も猫で、それを不思議そうに見上げてくるのが面白い。


「実はこれ――猫とお話できる魔心具だったり……」

「にゃー?」

「……するワケないかー……」


 本当にこれは何の目的で届けられたものなのか。

 改めて首を傾げたところで、ふと気づいた。


「……もしかしなくても、いつだったかの似たようなシチュエーションを見られた……?」


 途端、なんだか恥ずかしくなってくる。

 そもそも箱を移動させようとしている時点で、モカがその箱を通じて見ている可能性があるのだ。

 分かってはいたのだが――完全に気を抜いていたのかもしれない。


「うわぁ」


 らしくないと自覚しつつも、顔が赤くなっているのが分かる。

 鼻歌とか、猫に猫語で話しかけている様子とか、誰もいないと思ったからやっていたワケで……。


「にゃにゃー?」


 コンティーナに身体を擦りつけていた猫が、急にどうした人間――とばかりに首を傾げている。


「お前は自由でいいわねー」


 首の辺りを撫でてやると、猫は気持ちよさそうに目を細める。


「はぁ」


 羞恥の気持ちを切り替える為に、息を吐いた。

 その時、コンティーナの手が止まったからか、猫はもっと撫でろと手に頭を当ててくる。


「人懐っこい上に甘え上手な子ねぇ~……」


 うりうり~……と、撫でる。

 しばらくそうやって猫と戯れていると、何やら気配がして手を止めた。


 猫も猫で新しい気配を感じたのか、コンティーナの脇から顔を出して気配の方角をうかがっている。


「何をやっているんだ?」

「え? あ。フラスコ殿下」


 誰が来たのか気づいて、コンティーナは慌てて立ち上がる。

 これほど接近するまで気づけなかったとは――と、内心で焦りつつも、その素振りを見せずに挨拶をした。


「いや、散歩をしていたらしゃがみ込んでいる人影があったのでな」

「そうでしたか。すみません心配をおかけしてしまった」

「気にするな。何も無かったのであればそれで――」

「殿下?」


 言葉の途中で急に固まってしまったフラスコにコンティーナは首を傾げる。


「いや、その、なんだ……ティノ。その……」

「???」


 本当に、急にどうしてしまったのだろうか。

 何やら顔も赤くなっているようだ。本当にどうかしたのだろうか。


「にゃー?」


 足下の猫も、なんだこの人間――という様子でフラスコを見ている。

 コンティーナの足下から動かないところを見ると、猫なりにフラスコを警戒しているようだ。


 完全に挙動不審なので、さもありなん――とも言える状況だが……。


「ティノの、耳が……」

「耳……?」


 言われるがままに耳に触れてみるが、特になんともない。

 一体、フラスコは何を言っているのだろうか。


「いや、そうではなく、その頭の……」

「あたま……」


 言われるがまま自分の頭に触れて、コンティーナはようやく気がついた。


(ね、猫耳つけたままだった……!?)


 それを見てフラスコは固まってしまったのだろう。

 いや、そもそもなんでそれで固まってしまうのだろうか。


(うわ、すっごい恥ずかしい……どうしよう。なんか、てきとうな言い訳をして誤魔化すしか……!)


 この時、コンティーナは羞恥心もあって普段の冷静さとかそういうのは完全に吹っ飛んでいた。本人に自覚はないが。


「えっと、その……猫と戯れてるうちに、わたしも猫になってしまったようです……。

 猫になったわたしは、お嫌いですかにゃ?」


 恥ずかしさで少し赤くなりながら、手もちょっと猫っぽくしてそう言うと――


「んんー!?」


 瞬間、フラスコは大きい声で呻いて完全に固まってしまった。


「え? え? あの、殿下!?」


 慌てて顔の前で手を振るも、フラスコは反応しない。

 どうしたものかと悩んでいると、フラスコの護衛であるピオーウェンがやってくる。


「あー……ストップだ。ティノ嬢。たぶん、アンタに対する気持ちが限界を突破したんだろう」

「限界突破?」

「おう。その猫耳……嬢ちゃんに気のないオレでも、なかなか刺激を感じるくらいだ。

 可愛い子やお気に入りの子が、そんな見慣れない可愛い姿になってたら、女に耐性のないこの王子様には覿面(てきめん)だ」

「……そんなに?」

「そんなに」

「自分では分からないけど」

「とりあえず女の子に猫耳をつけると可愛いというのは知れた。今度ナンパで使おう」

「どうやって?」


 わりと素で問い返してしまうが、ピオーウェンは意味深に笑うだけで答えなかった。


「とりあえずこいつは回収していくから、気にしなくていいぞ」


 置物のように固まったままのフラスコを担ぐ。

 抱え方が完全に石像とかを運ぶそれなのは、あとで不敬になったりしないのだろうか。


「あ、そうだ。猫と戯れてる時はともかく、移動するなら耳――ちゃんと隠すようにな」


 それから、コンティーナにそう言うだけ言って、片手を振りながら颯爽とその場を後にしていく。


 コンティーナは顔を真っ赤にしながら、慌てて猫耳を外す。

 異性から真っ直ぐに可愛いと言われたり、素直なリアクションをされたりするのは、案外初めてかもしれない――そう意識した途端、羞恥とは違う照れのような感情が湧いてきて、余計に赤くなっていく。


「……にゃー?」


 足下で、「……で、結局お前ら何したかったの?」と言いたげに、猫が呆れたような鳴き声を上げるのだった。

 


  ・

  ・

  ・



 なおこの様子は、たまたま弟王子や、自称隠居ジジイ、王妃などが目撃してたとかしてないとか。


 ある意味元凶の箱姫は、「私、良い仕事した気がします」とばかりにガッツポーズしてたとかしてないとか。


 にゃんにゃんにゃん。

 ティノちゃん作者の想定以上に人気のようでとても嬉しいにゃん。



 それはそれとして

 新たに、異世界恋愛モノの新作を書き始めました。

 実は、密かに本作と世界観を共有しております。

 同じ世界の別の国の物語。ご興味ありましたら、是非ともご確認していただけたら、と思います。


 約束守りの図書館令嬢

 https://ncode.syosetu.com/n5457ki/

 下の方にある作者の他作品へのリンク一覧にもタイトルがありますので、そちらをタップして飛んで頂くのが閲覧しやすいかと思います٩( 'ω' )و


 

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