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第100箱

本日は3話更新。こちら1話目です。


「フラ……ラスクさん」


 手の中で小さな冷温球を弄んでいたフラスコは、ブラーガに偽名を呼ばれて、その手を止めた。


「良かったんですか? 継承権を譲ってしまって……」

「しつこいぞブラーガ。オレは自分が王なんて器じゃなかったコトを思い知った。だから相応しい弟に譲った。それだけだ」


 サイフォンとモカの結婚による祝賀ムードが落ち着いてきた頃、王族らしからぬ冒険者然とした格好のフラスコと、それにあわせたような旅装を纏ったブラーガが、王都の城壁によりかかりながら、そんなやりとりをしている。


 ともにいる騎士ピオーウェンも二人に合わせた姿だった。

 以前のお忍びの時よりも、ずっと市井に溶け込める格好だ。


「ラスクが魔法をぶつけた相手もルチニーク閣下の仕込みだったから不問だっていうのに――ってのが、ブラーガの言いたいコトだろ?」

「そうです。それです!」

「……旗頭としての責任だ。例え何一つオレがやったコトでなかったとしても、担ぎ上げられていたのだ。だから、オレの一言で状況を変えられたコトは多々あったはずだ。

 全ては無知で考えなしで感情的だったオレの落ち度だ」


 ダンディオッサ侯爵やターキッシュ伯爵のやったことの全ては彼ら自身の責任ではあるだろう。

 それでも、自分の無知や我が儘が彼らを増長させていたことを知った。


 それに、根回しもなく、感情的に、婚約者であったコナへ一方的な破棄を突きつけたことに関しては言い逃れが出来ないほどの自分の落ち度。


 もちろん、改めてコナへの謝罪はした。

 婚約者としても、幼馴染みとしても、彼女を傷つけてしまったのは間違いないのだから。

 そしたらコナは、婚約者ではなく幼馴染みの顔をして笑ってくれた。


「ちゃんと色々反省してるみたいだから、それでいいわ。

 お互い、友達づきあい程度の関係がちょうど良かったってコトでしょうね。

 だからまた、お茶会したり模擬戦したり、卓上遊技で対戦したりしましょう?

 元婚約者とかそういうのどうでもいいから。幼馴染みの一人として、友達として、ちゃんと反省した貴方と仲良くしたいの」


 かなわないな――と、素直に思う。

 だからこそ、この幼馴染みの言葉に応えたいと思う自分もいた。


 故にフラスコは考えた。

 今のまま自分は王族としての地位に居続けるのは、余り良くないのではないかと。


「ニコラス翁やサイフォン……あのモカでさえも、市井を知っていた。

 オレは余りにも視野が狭すぎたんだ。貴族のコトすら良くわかっていなかったほどに。

 勉強などを見てくれたダンディオッサ侯爵が、そう成長するような仕込みをしていたとしても、変われるキッカケはいくらでもあったのに、な」


 フラスコは、己を省みて、父であるバイセイン王へと王位をサイフォンへ譲りたいと告げたのだ。そう思った理由も添えた。

 同時に、冒険者として世界を見て回りたいとも告げる。

 自分がいると、ダンディオッサ侯爵やターキッシュ伯爵がいなくなったところで暴走する者は居なくなったりしないだろうから、完全に潰す意味もあった。


 状況を思えば、王族籍の剥奪や、廃嫡の可能性もゼロではなかったのだが、父はゆっくりとうなずいた。

 表向きの理由として、身勝手な婚約破棄に対する罰として、王位継承権を下げ、同時に一年以上の留学を申しつけられた。


 まぁ実際のところは、海外留学などではなく諸外国の漫遊だ。

 フラスコは、一人の冒険者として、色々と見て回ろうと考えている。


 もちろんサイフォンやモカに何かあれば駆けつけるつもりでいるし、もしものことがあった時、玉座に着く覚悟もできている。


「ごめん、お待たせ!」


 最後にやってきたのはティノだ。

 彼女もまた、冒険者のような装いになっている。


「貴族籍を剥奪されたにしては元気だな」

「少なくとも危惧してたモノは解消されたからね」


 取り繕った淑女然としたものではなく、快活な女性らしい笑顔でティノは笑う。


「それに、一応あたし――両公爵家の後ろ盾あるんだよ?

 貴族に戻ろうと思えば、手段はいくらでもあるしねぇ~」


 ティノの言葉に、男性三人は首を傾げる。


「密かにモカの子飼いの情報収集員になる契約を結んだ話は聞いている。だからドリップス家は分かるが……ルチニーク家とはどうやって繋がったんだ?」

「それはフラ……ラスクからのお願いでもナイショかな~」


 羽を、全身を伸ばせる自由を楽しむように、ティノは(おど)けると、三人を手招きしながら歩き出す。


「そういえばピオこそいいの? 貴方は騎士でしょう?」

「長男じゃないから問題ないんだよな、これが。

 それに、ラスクとブラーガのコンビの手綱、お前さんだけで握るのシンドイだろ?」

「確かに。それはありがたいかも」

「まてピオーウェン、ティノ。どういう意味だ?」

「あれ? 今、馬鹿にされました? ボク、馬鹿にされました!?」


 そうして、彼らは賑やかに王都から離れていく。

 いずれ彼らも、箱姫と共に歴史や詩に残されるくらいの冒険をすることになるのだが、今はまだ未熟な冒険者である。


本日は3話更新。

もう2話ありますので、そちらもお楽しみください。

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