表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/124

第93箱

コミカライズ3巻が昨日発売になりました!٩( 'ω' )وよしなに!


「それにしても、すごい方々が集まっておりますな」


 この場に集まっている私たちを見回しながら、ニコラス様が笑います。


 ニコラス様だってそのすごい人の一部に含まれると思いますが。

 それを口にしても、本人は自分はもう引退しておりますので――などと言うのでしょうけれど。


「ルチニーク閣下、先日のパーティ以来ですな」

「ああ、ダンディオッサ侯爵。君も元気そうでなによりだ。

 あと、閣下という肩書きは元だ。今はただの隠居ジジイなのは君も知っての通りだろう?」


 ダンディオッサ侯爵はどこか助けを求めるような挨拶でしたが、逆にニコラス様は、にべもなく躱した感じです。

 それでダンディオッサ侯爵も、察するものがあったのでしょう。僅かに顔をひきつらせます。


「ところで侯爵。今し方、モカ嬢の魔法で映し出された光景は本当かね?

 だとすれば、君との今後の付き合い方を考える必要があるのだがな」


 そのニコラス様は、どうやらこの場で梯子を外す宣言をしにきたようですね。

 ニコラス様の問いに言葉を窮するダンディオッサ侯爵を見、フラスコ王子が一歩前に出ました。


「ダンディオッサ侯爵。

 貴方には勉強やマナーなどを色々と教えてもらった恩がある。困った時などは相談にも乗ってもらった。そんな貴方を手荒にはしたくない」


 フラスコ王子の表情からは苦渋が見てとれます。

 恩師を罰さなければならない立場というのも、非常に辛いものがあるのでしょう。


「だが、それでも――オレは問わねばならない。問い、確認しなければならない。それが王侯貴族……上に立つ者であると、そう教えたのは貴方だ」


 渋面ながらも、視線だけは真っ直ぐに。

 これまでのような感情的なモノや乱暴なモノはなりを潜め、覚悟と責任を背負った様子で、フラスコ王子は問います。


「ターキッシュ伯爵にも問うた内容だ。

 弟の暗殺。それは誰が望み、誰が頼んだコトだ?

 少なくともオレはそんな思いを抱いたコトはないし、そんな指示を出した記憶もない」

「……フラスコ殿下は、モカ嬢の魔法を信じるので?」

「今の貴方よりは信用できそうだとは思う」


 フラスコ王子がそこまで意図したものではないと思いますが、王族から信用できないと言われてしまったことは、非常に大きな痛手でしょう。


「ダンディオッサ侯爵。申し訳ないのだけれど、捕らえさせていただくわ。

 別に娘の魔法を信じ切ってるワケではないのよ? でも、あのような内容を見せられて貴方を放置するワケにはいかないもの」


 お母様に言われ、ダンディオッサ侯爵は大きく息を吐いてから、私をみました。


「モカ嬢、一つ聞きたい」

「はい」

「貴女の目と耳はどこまで届いているのかね?」

「手の内……そう簡単に、明かすと……お思いで?」

「それもそうか」

「それでも……一つだけ言えるコトが、あるのなら……」

「あるのなら?」


 これは、言っておきたい言葉です。

 ダンディオッサ侯爵は、きっと理解していなかったことでしょう。


「大きな力を悪用すれば、より大きな力に潰される……。

 大きな力を善用すれば、より大きな力に救われる……。

 この結末は――それだけの話です」


 ルツーラ嬢は自分の魔法を無自覚に悪用していた。

 だからこそ、ダンディオッサ侯爵の手の者に唆され、結果として、より大きな力を持つ私やサイフォン様に潰されてしまいました。


 次はダンディオッサ侯爵の番だったというだけなのでしょう。


 私の言葉を受けて、ダンディオッサ侯爵は周囲を見回し、最後にサイフォン様と目を合わせました。

 その時、サイフォン様は意味ありげな笑みを浮かべます。

 サイフォン様のその顔を見て、ダンディオッサ侯爵は色々と悟ったようでした。 


「……根回しも終わっているのか。

 なるほど。これはもう私に勝ち目はなさそうだ。

 それなら――潔く下がろう。ターキッシュ伯爵たちのような悪足掻きは矜持に反するのでな」


 軽く両手を挙げ、ダンディオッサ侯爵は降参を示します。


権力(チカラ)を持つコトの責任。

 気づけばだいぶ薄らいでしまっていた。それが敗因なのだろうな。

 モカ嬢やサイフォン殿下も気を付けるといい」


 私たちがやりとりしている間に、誰かが騎士たちを呼んでいたのでしょう。

 騎士たちがやってきたのを確認したフラスコ王子が、静かに告げます。


「連れて行け」

「では、失礼します。フラスコ殿下。

 貴方は私にとって大変都合の良いコマでした」


 騎士に腕を引かれながら、こちらへと顔を向け、最後にそう言って悪役らしい笑みを浮かべました。

 でも、その目だけはどこか優しげだったのは、気のせいではないのでしょう。


 連れられて去っていくダンディオッサ侯爵の後ろ姿を見ながら、フラスコ王子は拳を握りしめていました。

 白くなり、爪が食い込むのではないかと思うほど握り固められた拳に、ティノさんが触れます。

 そこでようやく、フラスコ王子のチカラが抜けたようです。


 とりあえず、ダンディオッサ侯爵に関してはこれで決着ですね。

 でも、まだ終わっていない問題があります。


 私たちの様子を見ていた参加者たちがどよめく中、私の意識はニコラス様に向けました。

 ここまではある意味、前哨戦。


 私は気合いを入れてレッドドラゴンの被りモノをかぶります。


 それから一度、すーはーと深呼吸をし、意を決するように声を掛けます。


「ニコラス様」

「モカ嬢か、どうかしたのかね?」

「私の侍女が、音を漏らさぬ結界を張ります……。

 お話のお相手に、なってくれませんか? きっと、婚約を……認めたくなる、お話になるかと」

「ほう……」


 私の言葉を吟味するように、ニコラス様の目が眇まります。


「モカ!?」


 確かに結界内で一対一で話すなんて話をしてはいませんでしたからね。サイフォン様が驚くのも無理はないでしょう。


 でも、そのシチュエーションを作り出すことも大事なのです。

 サイフォン様も知らぬ話であると、ニコラス様にそう思わせることもまた認めて貰う為のピースになります。


 先日、二人で面白おかしくと言った手前、この手段を取るのは些か心苦しくはありますけれど。


 王に頼らず、王妃自らのチカラでもって情報を得て利用できるだけの能力を持っていることを見せる必要はあると思うのです。


「サイフォン殿下……すみません。

 これは、サイフォン殿下にも……聞かれない方が、良いかと思いまして」


 驚くサイフォン様にそう告げると、ますます彼は眉間に皺を寄せます。

 ただ事前に公にしたくないと私が言っていたことや、根回しが終わっているフリをして欲しいと頼んだことから、私の考えに気づいてくれると信じています。


 一方でニコラス様は、まだ食いついてきません。


 なら、餌となる言葉を追加するとしましょう。


「認めて、頂く為に……用意したお話です。

 ニコラス様は、面白いお話が好きで……いらっしゃるのでしょう?」


 そうして、私は一枚のメモを二つ折りにして、箱の天面に出します。

 カチーナがそれを手に取り、ニコラス様の従者に差し出しました。


「従者の方は、中をお読みには……なりませんよう」


 私の言葉を受けて、カチーナからメモを受け取った方は困ったように固まりますが、ニコラス様が構わないので寄越せと、それを受け取ります。


 そして中身を開き――


「……なるほど。これは面白そうだ。

 是非ともその結界の中で、話をさせてもらいたい」


 読み終わるなり、ニコラス様は凄みのある笑みを浮かべてそう告げました。

 でも、今はそれに怯むわけにはいきません。


 メモの中身は単純です。

《お家騒動の火種になりそうな、貴方のお孫さんについてお話しましょう》

 ――と、書いてあるのです。


 そしてその(メモ)に、ニコラス様は食いついてくれたのです。


「結界を張るカチーナだけは、共に中に居ますので……ご了承を。

 彼女も、メモの中身を……知っておりますので、そこは安心してください」

「いいだろう」


 ニコラス様を勝負の場に釣り上げることに成功しました。

 私史上最大の勇気を持って、私はカチーナの名前を呼びます。


 それに応じたカチーナは、お茶会の時にも使って貰った音の結界を展開しました。


 しかし、これだけでは足りません。

 一対一で挑むのです。こればかりは引きこもっていてはダメだと思いますから。


 木箱の中の冒険のジャバ君も、最後の冒険に挑む時はこんな気持ちだったのかもしれませんね。


 でも、その為に、レッドドラゴンの被りモノを準備していたのです。


 改めて、大きく深呼吸をしてから、私は――

 箱の上面から、上半身を出します。




『ド、ドラゴンが出てきた――……ッッッ!?!?』


 実は結界の外では、サイフォン様とお母様、ティノさんが思わず吹きだし、他の人たちが驚いて騒いでいたのですが、ニコラス様と向かい合うことに意識を向けていた私は、それに気づかないのでした。 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【引きこもり箱入令嬢の外箱】
公爵家のメイドは今すぐ職場に帰りたい
ラニカが主役のアクション系外伝です

巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~
本作、第一部の悪役令嬢ルツーラによる魔性式の日からやりなおし物語。
そして引きこもらなかった箱入令嬢の物語でもあります。


書籍版【箱入令嬢シリーズ】
講談社 Kラノベブックスf より発売中
【箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚】
2022/10/3発売です!٩( 'ω' )و
引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズ版【引きこもり箱入令嬢の結婚】コミックス
1~7巻発売中!٩( 'ω' )وこちらもよろしくお願いします!
コミカライズ引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズも連載中です!
毎週月曜日0時更新
講談社女性向けコミックアプリ palcy

毎週火曜日11時更新
ニコニコ漫画 水曜のシリウス

毎週水曜日12時更新
ピクシブコミック

毎週日曜日0時更新
マガジンポケット



他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~現代学園RPGのヒロインに転生しましたが主人公(HERO)とイチャラブしたくないのでルート回避したい。でも世界は滅んでほしくないので奮闘してたら未知のルートに突入しました~
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~
約束守りの図書館令嬢



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
[一言] 何かの比喩表現かと思ってた「レッドドラゴンの被り物」が、まさか文字通りのものだったとはw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ