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第10箱

本日二話公開。

こちらは本日の二話目です。


 魔性式から帰ってきた後、お父様による魔法使い方指南を受け、木箱を召喚できるようになってから、私の世界は一変しました。


 召喚した木箱の中には不思議な空間が広がっていて、しかも快適な空間で――


 自分の魔法について研究を続けているうちに、気が付けば魔法で作り出した『箱』の中で常に生活しているのが当たり前になっていて――


 この『箱』は使い方次第で、中から外の様子を見れるどころか、遠方の様子も伺うことが可能なもので――


 これはまるで、魔性式の時に願った私の願望そのもの。

 中にいる限り、誰にも何も邪魔をされません。


 『箱』の外に出なければ本は穢されません。

 『箱』の外に出なければ魔性式の時のような嫌な目には遭いません。

 『箱』の中にいる限り、両親の社交に付き合う必要もありません。

 『箱』の中にいる限り、人との付き合いは最低限ですむのです。


 私が許可した人しか『箱』の中には入ってこれないから、両親が無理矢理連れ出すことも適いません。


 『箱』の中にいる限り、私は自由なんです。

 だから、私は魔法の使い方を理解してからずっと、『箱』の中に居続けました。


 とはいえ、最初は『箱』を維持できるのは一時間程度でした。

 ですが使い続けているうちに、二時間、三時間、一日、一週間、一ヶ月と、連続稼働時間が延びていき、やがて意識することなく、ほぼ永続的に『箱』を維持し続けるようになりました。


 もはや『箱』を維持することを意識することなく、どれだけ使い続けてもなくならなくなったのは、十歳の時。

 ……もっとも、『箱』の中をメインに生活するようになったのは、もうちょっと前の八歳くらいから……。

 その辺りの頃にカチーナと出会った記憶があるので、八歳頃で間違いないはずです。


 そして『箱』を維持できるようになった十歳の時点から、ほぼほぼ『箱』の中で生活するようになりました。


 『箱』の中ならば人と関わる必要がありませんから――


 まぁ人と関わらなすぎて、喋るのが苦手になっていくという問題がありましたが、わりと些細です。

 それに関しては元々得意ではなかったので問題はありません。

 ……問題がないと思っているのは、私だけかもしれませんが。


 最高の快適空間である『箱』ですが、それだけで満足できない私は、常に研究を続けています。

 研究すればするほど、新しい機能が増えたり、見つかったりするので、大変面白いのです。


 読書、食事、研究。

 ただひたすらそれを繰り返せる生活というのは最高以外のなにものでもありません。


 両親が何度も外に出てきて欲しいと言ってきましたが、私は中が快適すぎて、『箱』の研究が楽しすぎて、わりと無視してました。


 研究や読書に集中しすぎて、意図せず無視してしまったこともかなりの数あります。


 そして、箱魔法について研究しているうちに食事すらも、『箱』の中で賄えるようになってきた辺りで、お母様に泣かれました。

 私の『箱』に抱きつきながら、本気で泣かれました。


「お願いモカちゃん! 箱から出てきて! ずっと出ろだなんて言わないから、顔を見せて! 箱越しじゃない声を聞かせて!」


 あまりにも切実で、あまりにも悲痛なお母様の声。

 ある意味で、私は現実に引き戻されたような気がします。


 今まではご飯を『箱』の上に載せて貰うことで、それを中へと取り込んでいましたが、『箱』の中で食事を用意できるようになると、それすら不要となります。

 そうなると、食事を持ってきてくれる侍女との会話が皆無になります。


 時々、侍女の代わりにお母様が食事を持ってきていたのは、その些細な会話でもいいからしたかったのかもしれません。


 それすらも無くなることは、お母様にとって私との繋がりが切れてしまうような気がして怖かったそうです。


 ……いや、うん、さすがにちょっと申し訳なくなりました。


 私自身も両親との繋がりが切れてしまうのには想うことがあります。想うことがありながら、引きこもりがやめられなかったのです。

 やめることすらできません。


 だけど、それでも――さすがにちょっとバツが悪いので、少しだけ外に出ることにしました。


 その日は、奇しくも十三歳の誕生日の前日だったのです。




 翌日、私の誕生日を祝いたいので、家族揃って食事がしたいということで、私は素直にそれに参加しました。


 その場で、週一回くらいは食事を共にするようにと約束させられました。でも、お母様のあの様子を想うと、確かに多少は顔を出した方が良いですよね。


 どことなくお父様は申し訳ない様子で、一週間に一度の食事の約束だけ交わしてきて……


 お母様は前日の一件が落ち着いて以降はどこか厳しい様子を見せるようになり……

 引きこもってても、作法等の勉強と練習だけは欠かさぬようにと約束させられました。


 厳しく当たられてしまうようなことをしてしまっている自覚があるので、そこは仕方がないですよね……。

 現状、決定的な関係の亀裂にはなっていないですし、良しとしておきましょう。


 そうしてそこから今に至るまで、まぁ何とかうまくやってこれているような気がします。


 


 一悶着はあったものの、私は相も変わらずの『箱』の中での魔法の研究と、読書中心の生活をしています。

 もちろん週一回の家族との食事はちゃんと参加していますし、その後にお母様より追加された礼儀作法などの勉強も週一回ほど――唯一、『箱』への出入りを許可している侍女のカチーナが先生をしてくれています――をしつつの毎日といった感じです。


 ……まぁ習得した礼儀作法などは、カチーナや両親の前ではある程度は出来るものの、実践しようとすると全くといって良いほど出来ないので、勉強する必要があるかどうか――などと思うことがありますが。

 もちろん、不要かどうかと問われたら、必要と答える程度には、やっておくべきだとは思ってもいます。


 そんな日々の中で、時々考えてしまうのは、サイフォン王子のことでした。

 魔性式の一件からずっと、サイフォン王子の横顔が記憶に焼き付いているのです。


 憧れなのか恋心なのか、自分の感情の正体は分かりませんが、だけどそれでも……やはり、お近づきにはなりたいと、ずっと思っているのです。


 立場上、王子とは何度も社交することになるだろうことは分かっているのですが、こうやって引きこもってしまうと、もう社交など出たくなくなってしまって……。


 だから、魔法の機能の一部を使って、サイフォン王子に関する情報は常に収集しているワケですが……。


 次に王子と確実に会える機会があるのは、成人会でしょう。

 サイフォン王子は、婚約の話をのらりくらりと躱しているようですから、業を煮やした国王陛下は、宰相であるお父様に私の出席を確認するはず。


 うまく交渉して『箱』のまま出席する許可を貰えば、面白いことが好きなサイフォン王子は、パーティ会場の片隅にある木箱に近づいてきてくれると思います。


 そうしたらがんばって言葉を交わし、私に興味を持って貰う為に、『箱』の中の見学の誘いをしてみましょう。


 それから……それから……。


 思考を段々と妄想へ妄想へと移行させながら、私は成人会へと思いを馳せる……それを繰り返しながら、私は今回の成人会を迎えたのでした。





次話は明日の13時頃公開予定です。

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