第1箱
大変お待たせ致しました。
要望の多かった連載版をようやくお披露目です。
第一章の完結までは毎日更新の予定です。
そして連載初日ということで、本日は3話公開予定ですのでよろしくお願いします。
箱入令嬢モカと第二王子サイフォンの物語。
どうか皆様のひとときの暇つぶしとなれば幸いです。
よし٩( 'ω' )وなに
王城にあるパーティホールで、本日は成人会と呼ばれる催しが開催されていた。
前途ある、貴族の若者たちが集うこの催しは、四季に一度行われるものだ。
集まるのはこの夏に十七歳となる若き貴族たち。
貴族としての階級問わず、王宮のパーティホールに集っている。
王からは十七度目の生誕の日を祝福され、成人貴族として振る舞うことの許可を与えられた。
宰相や騎士団長などを筆頭とした、若者の憧れともいえる偉大なる先輩貴族たちからも、成人界への来訪を言祝がれた。
それらのありがたい言葉を受けたあとは、思い思いに過ごす自由時間。
誰も彼もが希望と緊張、少なからぬ野心を抱いて、表向きは和やかで華やかな談笑に包まれたこの会場。
誰も彼もが気づきながらも、見て見ぬフリをするモノがそこにはあった。
パーティホールの片隅に、華やかな場には不釣り合いの大きな木箱が置いてある。
(箱……?)
(箱だよな……)
(何なのかしらあの箱……?)
(一体なんの箱なのでしょう……?)
(しかし、みなは気にしておらぬようだしな……)
(もしかして、気にしたら負けなのか……?)
誰も彼もが疑問に思うこの箱に――
好奇心に満ちた顔で近づく者が一人いた。
「ダメだ。気になって仕方ない。なんだこれ?」
その金の髪に翡翠の双眸を持つ美男の名はサイフォン。
この成人会にて、成人を迎えたこの国の第二王子である。
1メートル四方ほどのその木箱をペシペシと王子は叩く。
すると――
「あ、あの……なにか、ご用でしょうか……?」
「おおう!?」
中から可憐な女性の声が聞こえてきて、思わずサイフォンは声をあげた。
(ひ、人の声ぇ――ッ!?)
周囲で様子を窺っていたものたちも思わず目を見開く。
「こ、このような……姿で、申し訳、ございません……」
「いや、こちらこそすまない。まさか人が入っているとは思わなくてな」
想定外の出来事ながら、サイフォンは努めて冷静に言葉を紡ぐ。
それに対して、箱の中の女性も、一生懸命といった様子で返答する。
「わた、わたしは極度の……対人恐怖症で……この箱に入って、いないと、家族以外とはまともに、会話するのも、怖くて……」
「そうか。しかし、であれば――なぜこのような場に?」
箱の中から聞こえる女性の声に、サイフォンが訊ねる。
「わ、わたしも……夏に、十七になり、ますので……。
ほん、本当は嫌だったのですが、父が箱のままで良いから、出席を……しろ……と」
(箱のままで良いって何だよ……ッ!)
聞き耳を立てていた者たちは胸中で一斉にツッコミをいれる。
だが、そこで騒ぐのは不作法であると心得ているので、あくまでも心の中で、だ。
「なるほど。しかし、其方の父君は随分と思い切った選択をした。だが、個人的な意見を言わせて貰えるのであれば、その選択は正しい。
どのような姿であれ、欠席という汚点に比べればマシであろう」
「……成人会の欠席……というのは、そ、それほどの……?」
「うむ。通常の成人会であれば、そこまででもなかったのだがな。今回の成人会はサイフォン王子が参加するゆえ、出席をしないというのは、王家に反意と捉えられてしまう危険性があるのだ」
「な、なるほど……」
(き、気づいて箱の中の人――ッ! 今、あなたと話をしている人が王子本人だからぁぁ――ッ!!)
箱の中から聞こえる声に対して、周囲が声無き声で叫ぶ。
極度の対人恐怖症を自称し、あのように気の弱そうなしゃべり方をしている女性が、その事実に気づいたらどうなるのだろうか。
(開く……絶対にッ! 彼女の目の前で神の御座への扉が開くって――ッ!)
この世界の人々は、死後――その魂は一度、神の御座へと招かれるとされている。
その扉が目の前で開くということは……まぁそういう意味である。
「ところで、せっかくこのような場に来たのだ。
人との会話はともかくとしても、食事やお酒に手をつけないのは勿体ないのではないか?」
「そ、それについては……も、問題あり、ません……」
「ほう? 問題ないというのは……」
サイフォンが首を傾げた時、その答えの方がこの場へとやってきた。
「談笑中失礼いたし……失礼いたします。お嬢様」
おそらくは箱の中の女性の侍女だろう。
一瞬、言葉が止まったのはそこにいる男が誰であるか気づいたからだ。
しかし、サイフォンはその赤髪の侍女に対して、口元に人差し指をあてて微笑んで見せた。
侍女としての僅かな葛藤はあっただろうが、相手がサイフォン王子ということもあり、彼の意を承諾したようだ。
「お嬢様。お料理をお持ちいたしました」
そう告げて、侍女は箱の上に料理とグラスを置く。
「あ、ありがとう……。食べるの、楽しみ……」
(どうやってぇぇ――……ッ!?)
お読み頂きありがとうございます。
本日は3話公開予定。
次話は、13時頃に公開予定です。