表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/125

第1箱

 大変お待たせ致しました。

 要望の多かった連載版をようやくお披露目です。

 第一章の完結までは毎日更新の予定です。


 そして連載初日ということで、本日は3話公開予定ですのでよろしくお願いします。


 箱入令嬢モカと第二王子サイフォンの物語。

 どうか皆様のひとときの暇つぶしとなれば幸いです。


 よし٩( 'ω' )وなに


 王城にあるパーティホールで、本日は成人会と呼ばれる催しが開催されていた。


 前途ある、貴族の若者たちが集うこの催しは、四季に一度行われるものだ。


 集まるのはこの夏に十七歳となる若き貴族たち。

 貴族としての階級問わず、王宮のパーティホールに集っている。


 王からは十七度目の生誕の日を祝福され、成人貴族として振る舞うことの許可を与えられた。

 宰相や騎士団長などを筆頭とした、若者の憧れともいえる偉大なる先輩貴族たちからも、成人界への来訪を言祝(ことほ)がれた。


 それらのありがたい言葉を受けたあとは、思い思いに過ごす自由時間。


 誰も彼もが希望と緊張、少なからぬ野心を抱いて、表向きは和やかで華やかな談笑に包まれたこの会場。

 誰も彼もが気づきながらも、見て見ぬフリをするモノがそこにはあった。


 パーティホールの片隅に、華やかな場には不釣り合いの大きな木箱が置いてある。


(箱……?)

(箱だよな……)

(何なのかしらあの箱……?)

(一体なんの箱なのでしょう……?)

(しかし、みなは気にしておらぬようだしな……)

(もしかして、気にしたら負けなのか……?)


 誰も彼もが疑問に思うこの箱に――

 好奇心に満ちた顔で近づく者が一人いた。


「ダメだ。気になって仕方ない。なんだこれ?」


 その金の髪に翡翠の双眸を持つ美男の名はサイフォン。

 この成人会にて、成人を迎えたこの国の第二王子である。


 1メートル四方ほどのその木箱をペシペシと王子は叩く。

 すると――


「あ、あの……なにか、ご用でしょうか……?」

「おおう!?」


 中から可憐な女性の声が聞こえてきて、思わずサイフォンは声をあげた。


(ひ、人の声ぇ――ッ!?)


 周囲で様子を窺っていたものたちも思わず目を見開く。


「こ、このような……姿で、申し訳、ございません……」

「いや、こちらこそすまない。まさか人が入っているとは思わなくてな」


 想定外の出来事ながら、サイフォンは努めて冷静に言葉を紡ぐ。

 それに対して、箱の中の女性も、一生懸命といった様子で返答する。


「わた、わたしは極度の……対人恐怖症で……この箱に入って、いないと、家族以外とはまともに、会話するのも、怖くて……」

「そうか。しかし、であれば――なぜこのような場に?」


 箱の中から聞こえる女性の声に、サイフォンが訊ねる。


「わ、わたしも……夏に、十七になり、ますので……。

 ほん、本当は嫌だったのですが、父が箱のままで良いから、出席を……しろ……と」


(箱のままで良いって何だよ……ッ!)


 聞き耳を立てていた者たちは胸中で一斉にツッコミをいれる。

 だが、そこで騒ぐのは不作法であると心得ているので、あくまでも心の中で、だ。


「なるほど。しかし、其方(そなた)の父君は随分と思い切った選択をした。だが、個人的な意見を言わせて貰えるのであれば、その選択は正しい。

 どのような姿であれ、欠席という汚点に比べればマシであろう」

「……成人会の欠席……というのは、そ、それほどの……?」

「うむ。通常の成人会であれば、そこまででもなかったのだがな。今回の成人会はサイフォン王子が参加するゆえ、出席をしないというのは、王家に反意と捉えられてしまう危険性があるのだ」

「な、なるほど……」


(き、気づいて箱の中の人――ッ! 今、あなたと話をしている人が王子本人だからぁぁ――ッ!!)


 箱の中から聞こえる声に対して、周囲が声無き声で叫ぶ。


 極度の対人恐怖症を自称し、あのように気の弱そうなしゃべり方をしている女性が、その事実に気づいたらどうなるのだろうか。


(開く……絶対にッ! 彼女の目の前で神の御座(みざ)への扉が開くって――ッ!)


 この世界の人々は、死後――その魂は一度、神の御座へと招かれるとされている。

 その扉が目の前で開くということは……まぁそういう意味である。


「ところで、せっかくこのような場に来たのだ。

 人との会話はともかくとしても、食事やお酒に手をつけないのは勿体ないのではないか?」

「そ、それについては……も、問題あり、ません……」

「ほう? 問題ないというのは……」


 サイフォンが首を傾げた時、その答えの方がこの場へとやってきた。


「談笑中失礼いたし……失礼いたします。お嬢様」


 おそらくは箱の中の女性の侍女だろう。

 一瞬、言葉が止まったのはそこにいる男が誰であるか気づいたからだ。

 しかし、サイフォンはその赤髪の侍女に対して、口元に人差し指をあてて微笑んで見せた。


 侍女としての僅かな葛藤はあっただろうが、相手がサイフォン王子ということもあり、彼の意を承諾したようだ。


「お嬢様。お料理をお持ちいたしました」


 そう告げて、侍女は箱の上に料理とグラスを置く。


「あ、ありがとう……。食べるの、楽しみ……」


(どうやってぇぇ――……ッ!?)



お読み頂きありがとうございます。


本日は3話公開予定。

次話は、13時頃に公開予定です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【引きこもり箱入令嬢の外箱】
公爵家のメイドは今すぐ職場に帰りたい
ラニカが主役のアクション系外伝です

巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~
本作、第一部の悪役令嬢ルツーラによる魔性式の日からやりなおし物語。
そして引きこもらなかった箱入令嬢の物語でもあります。


書籍版【箱入令嬢シリーズ】
講談社 Kラノベブックスf より発売中
【箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚】
2022/10/3発売です!٩( 'ω' )و
引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズ版【引きこもり箱入令嬢の結婚】コミックス
1~7巻発売中!٩( 'ω' )وこちらもよろしくお願いします!
コミカライズ引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズも連載中です!
毎週月曜日0時更新
講談社女性向けコミックアプリ palcy

毎週火曜日11時更新
ニコニコ漫画 水曜のシリウス

毎週水曜日12時更新
ピクシブコミック

毎週日曜日0時更新
マガジンポケット



他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~現代学園RPGのヒロインに転生しましたが主人公(HERO)とイチャラブしたくないのでルート回避したい。でも世界は滅んでほしくないので奮闘してたら未知のルートに突入しました~
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~
約束守りの図書館令嬢



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
[一言] なんか勝手に直方体だと思い込んでたけど、立方体だったか
[一言] 箱入り娘(引き篭り)、まさに読んで字の如く、箱入り娘・・・(´・ω・`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ