7話 能力、再認識~こいつら、友達の距離じゃないよね~
(更新の)調子良くなったと思ったらまたこれだよ。チクショウメェ!!!!
街の通りのど真ん中で抱き合っていた俺とユア。だが、あまりこうしているべきじゃないだろう。他の歩いてる人の迷惑になるし。
「よーしよし、そろそろ離れよっか?」
「あと、あと少しだけッ…!せめて日が暮れるまではッ。」
抱き合ってるべきじゃ、ないんだけど…
「ああディーの柔肌がぁ…、この肌はなんなのかしら。透き通るような白さを持ち、それに見合うように雪のような優しい触り心地っ。それでいて押せば返ってくる弾力。これが人体であろうか、いやない!やはりディーは天使なんでしゅねぇ〜…」
こいつ離れねぇ…!?
さっきも感情が振り切れたか何かだったが、今は少し時間を置いて興奮が抑え気味になったからか余計にたちが悪くなってしまっている。
「ちょっと、宿のこととかあるんだってば!俺たちの寝泊まりする場所を決めないと。日が暮れてからじゃ遅いし日が暮れるまで何時間あると思ってんのさぁ!」
「うぇへへ…宿なんていいじゃないですかァ。森のキャンプしていたところへ戻ればいいのよ〜」
未だ俺の体から離れようとせず頬ずりまでしてくるユアはそんなことを言い出した。ええ…?ここから、森まで戻んのか?いやいや、それはユアに迷惑掛けすぎじゃないだろうか?朝に1回。クエストで1往復。いくらユアが強いって言っても、ずっと走りっぱなしだ。その上、また前のとこまで走って行ってもらうなんてとんでもない!
そんなことをユアに言った俺だが、返ってきた返答に耳を疑った。
「私のことを想ってくれてることはとてもとてもとても嬉しいけれど、別に走らないわよ?テレポートすればいいもの。」
「へ、テレポート…?それって瞬間移動とかの、あれ?」
それですそれです、と頷くユア。冗談は止してくれよ。アレだぞ?読者は伏線も貼られていない新しい能力は嫌うんだぞ?
はっはっは、今のは聞かなかったことにするから大人しく宿を取ろうじゃないか。
だからほら、街中で魔法陣輝かせるのはお止めになって?足元に広がってる魔法陣が回転しはじめてるなんて幻覚だよ。
「なぁユア。もうキャンプ場でもいいからさ。冗談はそこまでにして普通に帰ろうぜ?」
「どうしてそう逃避しようとするの?直ぐに帰れるんだからいいじゃない。」
そういう!ことじゃ!ないんだ…!!!
もし本当にテレポートとやらができるんなら。
「───俺の絶叫体験は何だったんだよッ──!!!」
叫ぶと同時に目の前が一瞬白くなり、目を開けて見ればそこは懐かしき森の中であった。あぁ、帰ってこれたなぁ……
「ねぇディー?もういいわよね?抱き着いていいわよね。」
「…あーはい良いよ。てかもう抱き着いてるしね。」
そう言った後、少しだけ抱きしめてくる力が強くなったのを感じた。…正直に言えば、俺めっちゃドキドキしている。
イヤだって!ユアさんですよ!?理想のスレンダーな体型の!ユアさんですよ!!手とかむ、胸とか。当たる感触がこう、女性っ!て感じがするんですよ。
……うぅ、友達相手になんて感情を抱いているのか。心なしか顔が熱くなってきた気がする。
「な、なんだか子供みたいだよおユア。」
平静を装えてる、はず。
「今この瞬間は、子供でもいいです…!」
感極まったみたいに言ってるユアに少しイラッとする。こっちはドキドキしてるのを必死に隠してるのになんてことを言ってくるのだろうか。
少しイタズラしてやる。
「よーしよし、ユアは甘えん坊でちゅね〜。」
「っ!!ディ、ディー、流石にそれは恥ずかし──」
「あらあら、甘えん坊なのに恥ずかしがり屋ちゃんなんですか?可愛いでちゅね〜ユアちゃんは。」
「〜〜〜っ!!」
ふ、ふっふっふ。やった!勝った!!ひゃっほーい!!
どうだ見たかユア。俺を怒らせると怖い目に……
「我が生涯、真素晴らしきかな……」
「ユア!?ユアーーー!!」
▼▼▼
「そ、それではディー、食料を確保してくるから待っててね。結界の外に出るのはダメだからね。」
そう言って鎧姿のユアは森の中を進んでいった。
きっとまだ鎧の中で顔が赤くなってるに違いない。だって俺がそうだし。あのあと、ユアはなぜか幸せそうな顔で鼻血を出して倒れた。うん、ユアも鼻血出るんだとか思ったのはナイショだ。
良く考えればあの行為ってほぼ俺の八つ当たりだし八つ当たりの理由も意味わからんしで10:0で俺が悪いんだよね。
そんなことをユアを介抱しながら思い直したんだよね。
待っていろ、とユアには言われたが。周りを軽く見渡す。木、木、木、茂み、木、木、あ、あそこは最初に転生したところに続いてる道かな?ちょっと石とかが他より多い。
「はぁ…」
言うなれば暇である。膨大な娯楽に溢れていた元現代っ子を舐めないで欲しい。何もしない時間というのは慣れていないものなのだ。いままでゴタゴタが沢山で休む暇もなかったから、尚更。
開けたところに適当に座る。まぁ、ほんとに何もしない訳では無いのだ。調べものがあるし。
…若干、いやかなり調べたくないものだが。
「能力、確認」
『称号【神の寵児】
神が創りし器へ、魂となるものの要望に応え携えた奇跡。召喚された従者は主への忠誠をその現世での生涯の間、忘れることはないだろう。器の魂となるものの願いに応え、従者たちの根底には主への愛が刻まれているという。
跪き、海より深き愛を。主が望み、我らの望み。
スキル:遍く愛よ、世界を覆え
効果:スキル保有者の願いに応じた属性、概念を持つ存在をスキル保有者の力量に合わせて現世に適応。顕現させる。スキル保有者は顕現した存在を例外的に《自分より立場は下》と定義付けることにより、相手への命令が可能となる。
なお、召喚する際には能力を幾つでも付けることができるがそれに伴う世界が対等と認める代償も不随する。内容はそれぞれスキル保有者が決めるか選定ランダムかをスキル保有者自身が決定することができる。
スキル状態:スキル所有者のスキル名詠唱により活性化。召喚体を検索。〘切り替え:可〙
……………――――――――この先は、閲覧可能Lvに達していないため、確認することができません。』
「はぁ…」
改めて見るけど、ほんっとない。マジでない。これのお陰で友達ができたのは限りなく感謝するところだが、それはそれとしてありえないのではないだろうか。
能力を改めて再確認してしっかり把握しようと思って表示したモニター。だが把握より先ず眉間に皺がよりため息が出てしまった。
再度言うことになるがディーの願いは友達が欲しい、この一言だ。これに尽きる、いやこれにしか尽きない。それが理論上では自身へ忠誠を誓うヤベェ奴らを無限に出し放題の能力だって?
正直荷が重い。俺が持っていいものなのか?てかもうユアという友達がいるし、このスキルはこれ以上使う必要あるんだろうか。
てかこの閲覧可能Lv云々ってなに。実は隠された代償がー、とかだったらキレてやる。
「ディー?戻ったわよー。」
おっと、考え込んでたらユアが帰ってきたみたいだ。出てきたウィンドウを消し…どうやって消すんだ?えっと、前見た時は…ユアと話してていつの間にか消えてたんだ。このウィンドウ自体は動かせるから俺の横あたりに置いといて、ユアにおかえりと一緒に感謝を伝えとく。だってユア自体はご飯は食べなくても問題ないらしいからな。俺のために探してもらったことを考えると申し訳ないとも思う。俺はユアを労いつつ料理をつくろうとした。
▼▼▼
───暫くして、俺はユアに魔法で出してもらった(ほんと申し訳ない)椅子に座りながらご飯を食べている。肉とか野菜とか、ここで取れるもので作ってもらったスープである。
なお、ユアが作った料理である。
……料理まで作ってもらってなにしてんの?とか言わないで欲しい。俺も思ってるから。せめて料理ぐらいはと思ったのだがユアに止められた。鎧脱いですんごい形相で止められた。「危ないですからッ!!」とどれだけ言っても止められたのだ。俺の友達が過保護すぎる件。
「ディー、美味しかったですか?」
「うん。とっても美味しかったよ。ユアはいいお嫁さんになるだろうね。」
飯を基本食わなくても大丈夫なのにめっちゃ上手なのは何なんですかねぇ。俺もそこそこ自信あったんだよ?料理する機会は結構あったし、あれ意外とやってるときは楽しいから続けてやってたから。
その自信が霞む程上手いのは一体どういうマジックなんです???
「お、お嫁さん…ふふ、ディーったら。そこはどっちかというとお婿さんの方じゃない?」
「え、なんでユア男になってんの?あれ?性別女性だよねユア。」
「ええ女性よ。人間で言うならね。そんな当たり前のこと聞いて、もしかしたら疲れてるんじゃない?今日随分と忙しかったから。」
まあ、大したことでもないからいいか。ユアの言う通り、少し疲れてるのかもしれない。
「少しお昼寝しましょうよ。えぇそれがいいわ。とてもいいわ。少しの疲れを放置してたら命取りになるわよ。」
めっちゃ寝るの迫るやん!?いやいいけどね!凄いグイグイ来るじゃあないですか!
ユアと一緒にテントに入り、俺は暫くお昼寝をした。
───ん〜、よく寝たぁ!
地球的に見ると今は1時?2時?そこらへんだろうか。グッーと伸びると体全体に太陽の光が当たってる感じがして気持ちいい。
「うぅ、ディーが起きるの早すぎます…」
何言ってるんだユアは。お昼寝は睡眠とは違うんだぞぅ。
そう説明するとユアは見てわかるくらいに驚いていた。
「そ、そんな…いやでも、陽光を浴びて輝く白銀の髪!これを見られただけで眼福でしょうか!」
落ち込んでもすぐに元気になったユアに少し安心する。なんか俺が悪いことをしてしまった気分になるので。
「それじゃ、またクエストを受けに行こっか?」
「え゛」
「んっ、流石ユアだなー!お昼寝したら本当に体が軽くなった。自分でも気が付かないうちに疲れてたんだろう。」
「あんなところに1分いや1秒たりともディーを置いておきたくは無いですし人の目にディーを触れさせるなんてそれこそ筆舌に尽くしがたい思いではあります。が!!ここでそれを言ってはディーのせっかくのいい気分が台無し。それはNO!断じてNO!!……よし、分かったわディー。行きましょうか。」
よし、次こそは役に立つぞー!
▼▼▼
「狼の討伐依頼受けます!」
「気をつけて下さいね!」
「や、薬草の採取に行きます!」
「頑張って下さい。」
「も、木材集めに……」
「あ、それ集団用クエストで…!」
「……猫探しを」
「あの、いくらハイペースで依頼をこなしているとはいえ、休まれては……」
何の役にも立てませんでしたァーーー!!!
ところ変わってここはキャンプ場。数時間で戻ってきちゃった。この間に受けた依頼の数は10とちょっと。普通ならとても経験値が豊富なのだろうと思える程には沢山の種類の依頼を受け、達成してきた。普通なら、であるが。
結論から言います。ユアのオーバースペックの前には役に立つという思考は端からへし折れます。
討伐依頼は言わずもがな、採取は俺が薬草と普通の草の違いすら分からず。木材はユアが木を幾本か切り倒す。猫探しなんてものは俺のスタミナの貧弱さがただただ再認識させられただけだった。
そしてユアが全ての依頼を片手間で片付けてくる。何も大事はないかのように討伐依頼の対象をバッサバサ斬る様子を見てみろ。否応なしに顔が引き攣るぞ。
けどそれは別にいいんだよ。その時はちょっと驚いたけど…やっぱりカッコイイが勝るからな。男として震えたね。
「…はぁ」
だからこそ、今キャンプ場で体育座りしてる自分にため息が出る。
腕を軽く上げる。
華奢、という言葉が似合うだろう細い、細すぎる手。二の腕を軽く摘んでみると柔らかで弾力のある肌の感触が返ってくる。全くもってカッコイイとは真逆ではなかろうか?
「お金が溜まったのはいい事だ。」
そう。今の俺たちは仮入国みたいなもので二週間以内に銀貨二枚を支払う必要があるのだ。その分のお金が溜まった。
冒険者というのは死と隣り合わせなだけあって稼ぎがいい。危険の対価に沢山のお金を貰えるのは、病みつきになる人も出るだろう。でも、一日で集めきるのは多分おかしいよな。だって二週間分だぜ。その国で旅人という信用され難い立場での期間だから普通よりは低めの金額設定だろうとは思う。けどそれを含めてもユアにとても頑張って貰ったのは事実である。……あ。
…俺役に立とうと依頼受けまくったけどこれ逆効果じゃね?
「…はあああ…」
「ディーどうしたの?そんなため息を着いて…。よかったら私に話してくれない?」
目の前の困り顔、というより泣き顔に近い顔をしたユアに大丈夫だと言っておく。そりゃ目の前でため息つかれたら誰だって困るわ。何してんだ俺。
「や、ちょっと疲れちゃったんだよ。沢山依頼受けたからさ。でも、大半をユアがしてくれたのに俺が疲れるなんて情けないや。」
「ああ、ディーそんなこと言わないで。
そうだわ。確かに依頼を沢山頑張ったからディーは少し気分が沈んでるのよ。ほら、もう夜だし寝ましょう?」
確かにディー言う通り、体の疲れに相対して心も疲れてるんだろう。全く俺らしくない。このちまっこい体も含めな。
明日はお金を払いに行くんだし、ちゃっちゃと寝ますか!夜更かしは体に毒だしな!
「ふぁあ、ほんと、色々ありがと、ユア。」
「いいのよディー。だって友達なんだから。」
へへ、嬉しいこと言ってくれるじゃんユアのやつ。
糖分足りてる?十分。話進んでる?全ッ然。