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(仮題)無自覚総受け誘い受け系TS娘の冒険  作者: 幻想大好きおじさん(仮名)
3/11

2話 現状整理~初めての友達?は、残念美人でした~

ようやく主人公の名前が出せる

「と、取り敢えず脅威は去ったようだし、現状の確認をしよう、うん。」


一旦深呼吸して心を落ち着かせよう。焦っていたって、なんにもならないもんな。そうやって気持ちを落ち着かせてたときに髪の毛が少し邪魔に感じたし、後でできれば切っておきたいな…

まぁそれは置いといて、今は目の前の人……人なのか…?混乱するけどこちらをマスターと呼んでたっぽいし、危害は加えられないかな…?


「あ、あのー…お話とかできます……?」


我ながら変な言い方と思うが、他のがおもいつかなかったんだ!友達いない歴=年齢だぞ話しかけ方とか知る訳ねぇだろ!!


「は?くっそ可愛いなんだこれほんとに人か人なんだよなどっかの精霊とかじゃないの。あ、精霊は私だったわ。つかほんと可愛いかよさっきまでの小動物っぽさも最っ高だったぁ…あの塵芥にはその点だけ感謝しよう、まぁどの道潰すけどてかてか天使かな?天使みたいな可愛さなのかな?創世の頃から世界見てましたけどここまで完璧な子他におりゅ?抱いて寝たい……」


「え?」


「あ…なんでもないです。どうぞご要件を、マスター。」


なんか聞いちゃいけない言葉がきこえてきた気がするが、うん…聞かなかったことにしよう。本人もなんでもないって言ってるし。それが一番良いはず。というか声からして女性なのか。ごつい甲冑だから分からなかった。


「あなたはどうして俺を助けてくれたんですか?」


「ふふ、おかしなことを。私はマスターの求めに応じてここへ現界しました。どうして、というなら貴女が望んだからですよ。可愛いマスター。」


おおぅ…意味がわからん。あれか?誰でもいいから助けてくれって思ったからか?だとしてもなんで俺にそんな能力あるんだよ。


「かわ、いい?」


「グハッ…それは反則じゃんもう死じゃんあ、これで死ねるならいっかぁ……」


「は!?え、ちょっ!?」


聖騎士さんからの返答がいまいち分からなかったのと、俺とは、いや元の俺とはほぼ縁のない言葉がでてきたから軽くこくん、と小首を傾げただけなのだがなにか不味ったのだろうか?

お互いワタワタしていると、先程も聞いたヴォンッという音とともに透過している長方形の板のようなものがでてきた。また神様からメールらしい。


『おお、生き残ったようじゃな!能力の方も、上手い具合に起動したようでなによりじゃ。お主は他の者と違ってステータスがどうたらと数値化するのがめんどいものを表示するよう頼まないでくれよったからステータス画面とやらは無いが、少々お主の能力は扱いずらいじゃろう。能力に関する説明だけいつでも可視化できるようにしておいたから。扱いが分からなければそちらを見よ。

急なアクシデントでこのように連絡をとる必要があったとはいえ儂は元々傍観者故な、これからはほぼ関わり合うことは無かろうが、いつもお主の人生の幸運を願っておるぞ。ま、何とかなるじゃろ。それではの。

差出人 ●●●』


読み終わったが文章が以外となげえな。あと最後大分適当だったし。けど心配してくれてたのは事実みたいだから、感謝はしとこう。

うん。文面から察するに俺の要求が歪んで叶えられたみたいだし確認は急務だな。どう考えれば友達が欲しい!!!からマスター呼びする聖騎士が現れるのか!これが分からない。

とにかく行動しなきゃやってらんないな。能力の確認の為にも、安全な場所かキャンプが出来そうなとこを探すしかないか。思い立ったが吉日。スグ行動しよう。


「あ、あの…!」


「ん?どうされました?」


「取り敢えず、安全な場所を確保したいので移動したいんですけど……」


―――それでもコミュ障は治らないみたいだがね!


「それくらい、ここら一帯を更地にすれば宜しいのでは」


「し、自然破壊はナシの方向で!」


初っ端から不安しかない!!






「さて、と。ようやく俺の歪められた願いを知ることができるな。」


あれから暫く森を探検していい感じに開けた場所を見つけたのでテントを張ってやっとこさまともに休息が取れるようになった。

転生してからの展開が怒涛過ぎてまだ1日目なのが信じられないくらいだ。

―――え?テントなんて持ってなかっただろって?聖騎士さんが手を出して何やら呟いたら金ピカの魔法陣がでてきて、気がついたときにはテントが張られてたんだよ。マジでどっから出てきたのか分かんなかった。あれが魔法ってやつなんだろうな。もう大興奮だよ、聖騎士さんのこと忘れてはしゃいでたから我に返ったとき死ぬほど恥ずかしかったんだけどね。

閑話休題(それはおいといて)


今は、これまたどこから来たのかわかんない木製の椅子に座りながら神様のメールにも書いてあった能力とやらを確認している所だ。前みたいに曖昧にうわ言を吐いただけで召喚されたらたまったもんじゃない。俺を害する奴が来ないとも限らない訳だし。


「んー…ここは定番のあれか……?ステータスオープン!」


チチチチ……ああ、鳥のさえずり以外聞こえないこの静けさ。平和だなぁ…。

じゃねぇよ!あっれ〜〜?ここらへんお決まりのパターンじゃないの?異世界に来たらこれするのはもう王道みたいなもんだろ!?物は投げたら落ちるのと同じぐらいのお決まりじゃないかなぁ!いや体力とか素早さとかがでるとは思ってなかったよ!メールに書いてあったし!めいどいらしいし!でもなぁ、ちょっとだけ楽しみにしてた部分はあるんだよ…俺だって男なんだ……。今は違うけど。ガワだけな。心はまだまだロマンを追い求めてる!


「はぁ……不幸だ。俺は能力を確認したいだけなのに…」


ロマンじゃなくて理不尽への怒りを追い求めようかと俺の心が暗黒面に陥りかけてるとき、毎度おなじみヴォンッという音と共に長方形の透けてる板が現れた。


「へ?あこれ?もしかして"能力"と"確認"でのパスワード制になってる感じ?」


どうやら、これが俺の手に入れた力らしい。


『称号【神の寵児】

神が創りし器へ、魂となるものの要望に応え携えた奇跡。召喚された従者は主への忠誠をその現世での生涯の間、忘れることはないだろう。器の魂となるものの願いに応え、従者たちの根底には主への愛が刻まれているという。

跪き、海より深き愛を。主が望み、我らの望み。


スキル:遍く愛よ、(ゴンドゥルクスヴァン)世界を覆え(ゴンギスググラフェ)

効果:スキル保有者の願いに応じた属性、概念を持つ存在をスキル保有者の力量に合わせて現世に適応。顕現させる。スキル保有者は顕現した存在を例外的に《自分より立場は下》と定義付けることにより、相手への命令が可能となる。

なお、召喚する際には能力を幾つでも付けることができるがそれに伴う世界が対等と認める代償も不随する。内容はそれぞれスキル保有者が決めるか選定(ランダム)かをスキル保有者自身が決定することができる。

スキル状態:スキル保有者の言動を随時モニターし、最適な召喚体を検索中。〘切り替え:可〙

……………――――――――この先は、閲覧可能Lvに達していないため、確認することができません。』


この、長いし小難しいし意味深だし人の要望をほぼ直角に捻じ曲げたような能力が、俺に宿ってるらしい。

や、なんで???

俺友達が欲しいって言っただけよ?友達だよ、友達。愛じゃないのよ友情が欲しいのよ。俺だってそりゃ想像したりとかはしたさ。空想の恋人とどう話そうかとか、ね?でもさ最初から友情すっ飛ばして愛とかいう未だかつてまともに経験したことのないものが来るとは思ってなかったなぁ……

とりあえず、すぐにスキル状態の所はオフにしといた。めんどいことになったら大変だからな。


「はぁ……曲解も良いとこだろこれ……」


ここからどうやって友達を作れと。ちら、といつの間にやら近くにいた聖騎士さんの方を見る。


「どうされました、マスター?」


このマスター呼び、友達なんて雰囲気完全にないし。仮に人里…街みたいなの見つけたとしてもこの人が俺の従者?らしいし?いつも俺のそばにいるのは確定だろうな。そうなると人が寄ってくる未来が全く想像できない。チクショウ、俺だけならガワが素晴らしいだけどうにかなりそうだったんだが。まァ助けてくれたんだし文句は言わないけどね。



―――それでも、友達は欲しい。


考えろ友達いない歴=年齢!俺の友情への執着はこの程度の障害で諦めきれるものなのか!?いいや違う!相手が異性だから、人じゃないから、見た目が怖いから、自分に従う立場だからと諦観することができるのか!?いいや、断じて違う!!!だれか人間じゃなくても友達にならないかなと、そう俺は思って居たはずだろう!例え悪魔だろうがなんだろうが、友となるならどうだっていいと本気で思ってた時期もあったじゃないか!頭を回転させろ!思考を燃やせ!!


……そう、相手はなんでか知らんが例外的に《俺より立場は下》なんだそうだ。俺の命令も受け入れてくれるらしい。聖騎士さんが本気を出せば俺なんか一瞬も持たず消されるだろう力はあると思う。正直ちょっと怖いが、もう一度死んでる身だ。腹はもう括った!


「あなたに命令したいんですけど。」


「ほう、返答は内容次第ですがね。」


今までの優しい雰囲気が霧散して、鋭い視線を向けられていると鎧越しでも分かる。それでも、俺ァ突っ走る!


「俺と、と、とも……」


「とも…?」




「――友達になってくだひゃい!!!!!!」


言った!噛んだ!!凄く顔があつぅい!!!

恥ずかしさと返答に対する期待、恐怖で目をギュッとつぶってしまったので反応は分からない。思いっきりワンピースの裾握ってるからシワになるだろうなぁ、と何処か客観的な自分がいた。


「「…………」」


うう、沈黙が辛い…!でも俺が話しかけるのも無理!!や、やっぱりこんなこと言うべきじゃなかったのか!?


「マジかよ……それは、もうチートでしょ、流石にさ。」


「へ?」


何やら愕然とした雰囲気が感じられるがそれはそれとして。俺は想像していなかった言葉にびっくりして目をあける。余程緊張してたっぽく、右の頬を何やら暖かいものが伝っているのが分かった。


「泣かせてしまった。罪悪感がヤバすぎだわこれ。……マスター、その命令しかと聞き届けました。友好の契りを交わしましょう。」


前半の部分は声が小さくて聞き取れなかったが、どうやら友達になってくれるらしい。すっごくホッとした。


「それでは、友として自己紹介をしましょうか。流石にお互いの名前を知らないと友達とは言えないものね。」


初めての俺の友達という存在に凄くソワソワしながら、そう言えばお互い名前すら知らなかったのかと思い至る。元の俺の名前を言う訳にはいかないので少し考えてこう応えた。


「でぃ、ディーと呼んでください。俺の名前は、ディー。これから宜しく……です。」


うぅ、やっぱまだ緊張しちゃってるか。敬語もあとから直していきたいな。ちなみにだが、名前に関して女っぽくないやつを俺のクソザコナメクジな語彙力で必死に考えた結果だ。こらそこ!アルファベットとか言わないの!発言した後に気づいたんだから!


「そう、よろしくディー。私は、そうね。種族命から取りましょうか…。……ユア。ユアとお呼びください。ディー。私達、友達だものね。」


友達になってとお願いしたからか、口調が随分柔らかくなった聖騎士さん。いや、ユアがそう言ってくれる。

友達として自己紹介するなら色々話しておきたいことがある。


「えっと、ユア。その鎧は外せないの?」


まずは容姿の確認。まぁリビングアーマーというRPGでは有名なモンスター(端的に言えば動く鎧)でも全く構わないけどな。


「ん、あぁ!勿論外せるわ。ずっと着っぱなしだったわね。

守護騎士の誓い(ガーディアンズハート)〙展開

第三章〘誓いの鎧(ガーディアンズメイル)〙限定解除

部分接続(パート)

断篇第三章〘擬似礼装(シミュラークローズ)〙」


何事か呟いたユアの体が輝いたと思ったら。いつの間にか目の前には凄く綺麗な美人さんが立っていた。


その身長は俺なんかと比べられない位には大きい。あんな鎧を纏っていたし当然ではあるが優に170は越えているんじゃなかろうか。だが体格が細い訳ではなく、しっかりと引き締まっているし出るところは出ているボンキュッボンスタイルだ。俺の体にも見習って欲しいものですね。


ンンッ、説明を続けよう。

ユアの髪はサラサラと流れるようで背中の中程まで伸びている。顔の両端にひと房ずつ垂れているのが特徴的だ。

肌は俺のように雪を思わせる病的な白さじゃなく健康的な色だ。この位の色の方が落ち着くんだよな。

顔のパーツパーツも凄く整っている。鼻梁は高く全体的に頼れるお姉ちゃん感をひしひしと感じる。目は少しつり上がっているが、観察してる俺を微笑を浮かべて見ている為怖さは感じられない。

衣服はなぜか聖騎士のときの純白に黄金の装飾があしらわれたような白を基調とするものではなく、協会のシスターさんが着ているような黒を基調としたものだった。幸い頭につけるカチューシャのようなものはないため髪の毛がどうなっているか分かったが全体的露出は少ない。


「ふわぁ……きれー…」


「私の心臓ッ持ちこたえるのよッ!いくら尊みがヤバくて語彙力が消し飛んだとしてもこんな事で現世から消えたらディーちゃんの可愛い顔を間近で眺められないどころか向こうの皆に笑われるわ!」


現実では一生会えないレベルの美女(ここも現実ではあるが)に少しトリップしていたらユアが鼻を抑えていた。どうしたんだろうか?


「ングッ……はぁっ良し耐えたわ!……所で、ディー?私も質問いいかしら。貴女はどこから来たの?」


うぐっ、なんだその質問。的確に俺の一番言いたくない所を……


「けど……友達なら当たり前、だよな。」


よく考えたら名前もどこから来たのかも分からないロリボディの銀髪娘が急に友達になっては不信感をもつに決まってる。ユアを俺が召喚したから一応折り合いがついてただけなんだ。これから友達になるんなら秘密は無い方がいい、よな。さ、流石に男ってことは隠すけど!


「まって友達だからなんでも話すとか嘘でしょこの子無防備すぎない?とっても依存させてドロドロに甘やかしたいわ。人間ってもっと悪知恵が働く生き物だと記憶していたのだけれど…。あ、この子人間じゃないのね。きっと可愛いを司る妖精さんだわ〜」


なんか呟いてらっしゃるがこのまま黙ってるのは不味い気がする。ええいままよ!


「えっと、ここじゃない地球ってとこから転生して来ました!」


ど、どうだ……?


「へぇ……とても珍しいけれど転生者なのね!確かにレアだけど事例がない訳ではないし、そこまで不安がらなくてもいいわよ。………後で調べてみる必要があるわね…」


そう言って微笑んでくるユアさん。これが大人の包容力。友達にバブみを求めてしまいそうだ……

ちなみに、彼女の笑みは微笑みというより枕詞に凄絶な、が当てはまるようなものだったということを俺はまだ知らない。





取り敢えずこの流れに乗ってお互いに自己紹介しあい、ユアが起こしてくれた焚き火を二人で囲んで話し込んでる内に時刻はいつの間にか夜になっていた。

どうやらユアは人間よりは精霊とかに近い存在らしい。どうりでどこか人間離れしているところがあった訳だ。時折でてくる変な言葉は彼女が現世に来るときに刻まれた代償だとか。感情を抑えられないとかめっちゃ怖いんだけど。ついでに本気を出せば少し位止められると言ってたユアさんにもちょっと恐怖を感じた。ここだけの話な。


「そろそろ寝ましょう。私はともかく、貴女の体は人間そのものだから休息が必要よ。」


ユアはそう言いながら俺をテントの中に連れていく。言われて気づいた。確かに瞼が凄く重いのを感じるし、ユアとの会話のときも呂律が回っていなかったようにも思う。迷惑をかけちゃったかな。とどんどん鈍くなる頭で思う。


「おや…すみ…。ごめn……スゥ…」


「寝顔も可愛い……と、感情を垂れ流してる場合じゃないわね。結界を張っているにせよ警戒を解いていい理由にはならないのだし。主……いえ、友達を守らないとね。」



そう決然とした表情でユアはテントを後にした。彼女であればもっと豪華な居住施設を一瞬の間すらなく作れるであろう。だがそれはしない。主が「安全な場所を確保したいので移動したいんですけど………」そう言葉を発したとき、やはりねじ曲がった考えでこの状況に適した宿泊設備が欲しいのだと考えたユアはそれに最適だったテントを創造した訳である。

閑話休題(いまはどうでもいいが)


そして外で焚き火の前に座り周囲を警戒しだしたユア。一方ディーの方はと言うと……


◇◇◇◇◇


どこだ、ここは……


GYAGYAGYA!!!!!


なんの、声だ……


GBRAAA!!!!


―――瞬間、腹を抉られたような衝撃が走る。

ヤツの持つ棍棒でなぐられたのだろう。理解はできても、認識はできない。





いや、理解すら、できるはずが無い


なんでなんでなんで!!??

死んだはずじゃ、消し飛んだはずじゃあなかったのか!?


彼女の周りは立体感すら不明瞭な黒一色で覆われていた。


ここはどこだよ、俺はさっきまで―――


ズブリという音が聴こえた。体が沈んだのかと錯覚する。

だが()()()()()()()()()()()()()()

この黒一色の世界のなかで新たな自分以外の色は、緑色だった。


この、手は、小鬼……の…



醜悪でするどく伸びた爪を持つ手が彼女の脚を掴む。

それに呼応するかのように地面、壁から追加で三本。紛れもない小鬼の腕。四肢を拘束された彼女は為す術もなく宙吊りにされる。


いやだ、やめろやめろやめろ…!やめてくれ!!


GuRuuUUU!!!!!


音が何十と膨れ空間を圧迫する。目の前に1匹の小鬼が生前の姿で表れる。認識できても、理解はできない。

手には、棍棒が―――

振り上げられたそれは、確実に


俺をとらえて――――――


◇◇◇◇◇


「ハァッ!!!」


自身がどうしようも汗だくなのを理解する。認識できる。暗くて見えないが、握っていた手は握りしめ過ぎて赤くなっていることだろう。外では焚き火がパチパチと燃える音がなっている。


ヒューッ……ヒューッ……


隙間風かと感じていたそれは俺自身が絞り出した声らしい。過呼吸だろうか。



少女は既に焦点も合わない目と触覚を用いてテントを抜け出す。ワンピースは体に張り付き、神はべったりと皮膚に密着している。物音に気づいたユアが振り向いた瞬間。その表情は警戒から驚愕に移り変わる。


「マスター!?一体どうしたのだ!精神にダメージを!?どこかに敵が―――」


「カヒュッ………ゆ、あ……ゅア、ユアぁ……!」


「ますた………でぃ、ディーちゃん?」


未だ呼び慣れない友としての呼び方に変更してディーの異様な様子をどうしたものか思案するユア。一瞬の内に魔法による診察は終えていたが精神へ干渉する類の魔法は検知されなかった。一先ず他人からの干渉はないと判断しディーがどうしてこのような状態に陥っているのか判断しようと考えた。


「おれ、こわい……夢み…て……アイツら、俺を捕まえ…たん…だ。そしたらアイツ……でてきて、俺を…棍棒で……!」


涙を昼の一件など比じゃないほどにボロボロと零しながら支離滅裂に言葉を発するディー。友達に縋りつこうとユアを必死にかき抱く。


「ひゃぁ、マスターの体がァ…!だ、大丈夫だよディー。それは夢だから。実際には何も起こらない。大丈夫だから。」


代償として刻まれた忌々しい刻印により感情が濁流を起こし外へ出ようとするがユアは自身の全力に近い力で無理やり抑えこむ。自分の体が持たない可能性すらあるが、ディーの精神を落ち着かせることが最優先事項と危機を捨ておく。彼女の体を伝う汗を丁寧に拭いていると、ディーがゆっくりと言葉を吐き出す


「ねぇ、ユアがいるから、大丈夫だろ?お前は守ってくれるだろ、友達、だろ…。」


元々震えていた声を更に震わせ恐怖に歪む貌を友達へと向ける。それはもう友の域すら越えたある種の依存に近い。だが、ここにいるのは普通の人間ではない。返答は勿論―――


「ああ、当たり前だよディー。私は貴女の友達だもの。」


「よか……た…ぁ」


気絶したかのように眠りに落ちるディー。実際。それまで命のやり取りなどとは無縁な地球から転生してすぐにあの出来事だ。本当ならすぐに恐慌状態になりそうな場面だったが、ユアの登場という更に常識を覆す出来事により脳が一時的に情報を保留していたに過ぎない。

それが眠りという情報整理の状態に突入することで一気に川の氾濫のごとく保留にしていた情報が流れ出たのだろう。


「……人の心というものを甘く分析していたみたいね……」


深くため息を着きながらディーを再びテントに戻した彼女が、再びそこを離れるため腰をあげようとしたとき。

グイッ、と彼女の手首程まである裾を何かが引っ張る。


「へ?」


見るとそれは細く雪のように白いディーの手だった。ずっと握りしめていたからだろう。少し手のひらが赤い。


「いっちゃ、やだぁ……いっしょ…に、ねる…のぉ」


涙で潤んだ瞳を開け、暗く見えないはずのユアを真っ直ぐ見つめるディー。


この時点でユアの血圧は過去最高を記録した。


「ひゃっ///わ、分かったわ。だから裾を摘むのをやめて…!」


このままだと比喩なしで死ぬと顔を赤く染めるユアだが、そんなのお構いなしとディーはグイッ、と自身の隣へ彼女を引っ張る。


「えへへ、一緒にねよ…ねぇ…」










この瞬間。少女の魅力に堕ちた最初の一人が誕生した。

後半のシーンを書きたくて書きたくて、気づいたら文字数がエグいことになっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ディーちゃんがべらぼうに可愛い…
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