1話 選ばれたのはTSでした~神の不手際、能力の一端~
「うおぉ……眩しかったァ。てか、神様なんか言ってたか?元の体って、ん?んん???」
すっっごく眩しくて、若干痛いくらいだったんだけど無事(?)転生は出来たみたいだな!と一息着いてた頃だ。
―――生じる、違和感。
自然に話した。不自然に声が高い。自然に身じろぎした。不自然に体の動きに違和感がある。
あるハズの物、いやモノが感じ取れない。
ふと、手のひらを顔の前へ持ってきてみた。僅かに褐色が混じるゴツゴツしたと評する他ないような男らしい手、ではなく。雪のように白い細くちんまい手のひらが俺の視覚をぶん殴ってきた。
衝撃に顔を俯かせたとき、ふわっ、と白銀と形容する他ない陽の光に当たって僅かに輝いて見える髪が、目の前に垂れた。
嫌な予感が脳裏に過ぎる。そんな現実は認めない認めたくないと目をギュッと瞑って一縷の望みをかけて声をだす。
「あー、あー……!」
発表会で人前にたったときのような緊張に声が震え上擦ってしまった。だが、やはり分かってしまう。
これは紛れもない女の子の声だと。
閉じていた目を極限まで見開く。噤んでしまいそうな声をいっそ枯れてしまえと絞り出す!このまま内側にこの気持ちを抑えようと思えば決壊してしまうだろう。だから心の整理をつけるため、ふざけた事しでかしやがった神へ怒りをぶつけるため、今の俺の精一杯をこの一声にこめる!!
「TS転生とか誰得だこのヤロォォオオオ!!!!!!!」
大声を出したことで、少し冷静になることができた。
―――TS:トランスセクシャル
簡単に言うなら性別が入れ替わってしまうことだ。男なら女へ、女なら男へ。変わった自身の性別や趣向に四苦八苦しつつも、異性または同性との恋愛にドキドキしちゃうとか、元々の親友への恋慕とか。ある種ニッチなジャンルである。
一応俺も、ライトノベル等の俗に言うオタク文化を嗜むものとして知っていたし、どちらかと言えば好ましい展開でもある。だが(俺の見てきた作品に偏りがあるのかもしれないが)基本TSしてしまうのは元々中性的な顔立ちだったり女の子への願望を持っていたりという、ある意味"女の子"というものに対して理解がある方々ばかりである。前者であれば元々中性的な体格のため女子として見られることに慣れていたり、後者であれば女の子への憧れのため女子の振る舞いが分かっていたりするものだ。
だが俺は違う!!!
完全なる男子であり、人が自分のどこを見てるのか分かるとかいうある種チートじみたことはない!男ならコロッといっちゃう仕草とか知るか!できたらチートだろうが!?
俺の父親だった人は家を空けることが多かったので暇な時間は腐るほどあった。基本は趣味へ全力疾走であるが家事の真似事はしていたし、
気分が乗れば筋トレだってしてた。
つまり筋肉が着いてる訳では無いが引き締まっている身体ではあったのだ。そんな俺が!この展開に最も遠い俺が!何故に女の子になっていらっしゃるゥ!?!?
なんとはなしに目に付いた自分の二の腕を触ってみる。ほんとは八つ当たりで摘むぐらいしようと思ったのだが、この身体が自分のだとまだ脳が理解できないのか白い肌を傷つけないような優しい触り方になってしまった。
「うおぉ……肌きれー…ふにってしてるぅ…」
まじですごいなこのカラダ。皮膚はふにふにだしすべすべだ。摘むとぷにってなって弾力がある。体はまだまだ子供だが、将来絶対スタイル抜群になるな。胸は……つ、摘めるぐらいはあるだろ、うん。ほんっとに、これが自分じゃ無ければなぁ……
「へっくし」
くしゃみまで可愛いとか女の子だなぁ、と半ば現実逃避していたがいい加減直視すべきであるな。そう、俺は今服を着ていない。なんか寒いなぁとは思ってた。身体を触ってたときには「あれ?服ねぇや。」と気付きはした。転生ってもこの調子だと服が無い方が当たり前なのかな?
そんな風に神様への好感度が急転直下していたころだ。ピコンッ!という機械音のようなものが聴こえたと思えば、おれの全身を砂嵐のようなものが覆っていた。
「おわっ!?な、なんだってんだ!?……あ?なんだこれ?」
砂嵐みたいな変なのが消え去ると、俺の体はいつの間にか、白いワンピースを装着していた。ちゃんとパンティーもある。
そこまで確認し終えたところで、目の前に四角い直方体がヴォンッという音とともに表れた。今度はなんだ、と目線を向けるとどうやらメールみたいなものだった。差出人は神様らしい。
『衣服を転送してなかったのは儂のミスじゃ。それはすまなんだ。しかしの、儂が自分で選んだ魂をわざわざ何も持たせず能力を渡しただけでその辺に捨てるようなゲスだと思われるのは勘弁じゃぞ!と、そうではなかった。お主、気をつけい、前から来るぞ。
差出人 ●●● 』
ああ!ただ衣服を付けてなかっただけかぁ!勘違いしてしまった。けど、俺の心の声がなんで分かるんだ?まだ文章にも起こしてないのに。差出人が黒く塗りつぶされてるけど、口調からして神様だしな。
「GRRRGAaa!!!」
「ヒッ、も、モンスター?」
悠長なことを考えていたら、目の前から小鬼が飛び出してきた。
矮軀に緑色の肌。手と足の先は爪が鋭利に伸びており腰にはボロ切れのような布。顔面パラメータがあれば【醜さ】に全振りしたような醜悪な顔。RPGではお馴染みのゴブリンの風貌をしたモンスターが、片手の棍棒を振り上げながら絶叫をあげた。
「も、もしかして、お前が神様の言ってた友達だったりしない?」
「GBRAAA!!!!」
「そうですよね違いますよねこんちくしょー!!」
ワンチャン友達?と声を掛けて見たが返答が棍棒を振り回しながらこっちにダッシュは絶対友達じゃねぇ!神様の言ってたことはこれかよ!自己の保身の前に言いやがれ!!と心の中で悪態をつきながら、急いで後ろを振り向いて逃げようと駆け出した。のだが……
ドゴォッ!!
真後ろにあった木に頭をぶつける結果となった。ボヤける視界で周囲を見る。ああなるほど。俺が気づかなかっただけでここら一体は森林のようだ。だからってなんでこんなとこに木が、それより早く逃げないと、そんな混乱する思考の中進路を変えようと後ろを振り向いたとき
―――衝撃が、腹を抉った。
「カッ、ハ……!」
小鬼が棍棒で殴ったんだろう。理解できても、認識は出来ない。
「GGYAGYAGYAッ!!」
嘲笑うような目で、小鬼がこちらを見下ろしてくる。獲物をいたぶる様にゆっくり近づいてくる。殴られた時、踏ん張ることなんかできなくて真後ろにあった木に打ち付けられた。後ずさることすら、できない。
小鬼からは愉快だったことだろう。勝手に自分が倒れたのだ。逃す手は無い。じっくり苦痛と恐怖を味わわされるか、強い苦痛を延々と死ぬまで繰り返されるか。
「ぃや、だ……」
痛い、痛い、痛い痛いイタいいタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ、チクショウ、こんなので終わりか、涙で視界が滲む。せっかく転生したのに。これからだったのに。俺TUEEE展開だろ。あぁ、自分で適当にしてっていったのか。チクショウチクショウチクショウ……
――――――せっかく、友達ができると思ったのに。
「お願いだ。誰か…助けて…」
瞬間、地面に極大の魔法陣が描かれる。金色に光るソレは最上級の魔法を遥かに越す魔力量が含まれている。彼、いや彼女が神と定めたものから賜りし器。そこから発せられる世界への号令。故に、彼女が神と呼んだものの、彼女へと与えた能力は歪ながらも確かに起動する。
【称号【神の寵児】を持つものから要求が発せられました。
命令:内容不明瞭。よって自主判断により、神の寵児の守護、又敵生成物の排除とする
対象:基準不確定。特性不確定、代償不確定よって、選定を行う
適応体:『身を焦がす光』現世へ適応処置。成功。
進化:ライト→スター→ホーリー→ユアーズ→守護者→守護騎士→守護天使…失敗しました。
決定:守護騎士
特性:〘敬虔なる光〙〘守護騎士の誓い〙けって……介入されました。追加:〘惨憺たる闇〙
代償:〘感情抑制不可〙〘全てをあなたに〙
最終手順:対象へ刻印《マスターへの服従》……拒否されました。刻印を変更《マスターへの揺るぎなき愛》……可
行ってらっしゃい、そして我らがマスターへ幸福を】
契約が成された。瞬間、世界が鳴動した―――
「命令を受諾した、愛しのマスター。」
「……へ?」
ギュッとつぶっていた目を開けば、小鬼も、輝いていた魔法陣も消え去り。目の前には白い甲冑に大ぶりの両刃の剣を携えたいうなればそう、聖騎士。と、鬱蒼とした森林のなかで聖騎士の奥に続く直径10m以上の大地の抉れている痕跡が地平の果てまで続いていた。
「ははっ、ナニコレ」
先程までの恐怖は既に消し飛び、乾いた笑いしかでてこなかった。
称号の名称は、称号の性質、持つことになった経緯、受ける側の認識、の3つに依存しているため、本質がどうであれ称号の名称は受け手の影響を多少なり貰ってます。
ちょこっと修正しました。