10話 地下空洞~爛々たる瞳の見る先は~1
筆者自身、こんなに時間が空いてると思ってませんでした。時の流れは無常やなって。
ごめんなさい
ザンッ、と重い音と共に人間と同サイズの人形が叩き斬られた。
俺とユアは魔窟の森から落ちて地下。不自然極まりない大空洞を探索中である。その大きさたるや、町一つが軽く収まる程のものであった。
「こ、これで何体目だ…?」
「十と……!……これで七よ。ディー。」
不思議に光る青い鉱石が照明代わりのこの大空洞で歩くこと数分。度々俺とユアは人形に襲われていた。
顔はのっぺらぼうなんかじゃなく、見目麗しい美少女や美少年なんだが、表情がない。ハイライトの無い瞳+無表情は刺さる人には刺さるのかもしれないが、生憎それでも人体には決してできない動きで襲いかかられるので全員ユアの大剣に両断されている。
今も岩陰から飛びかかってきた首が背中を向いてる人形がユアに斬られたようだ。
ここに来た時はもしかしてイニジオはこの大空洞を知っていて、異常事態では無いのではないか。なんて思ってたんだけど…!
(ユア推定魔力で操られてる人形数十体が彷徨いてる町周知の場所ってなんだよ!?)
正直帰った方が正解だったという気持ちでいっぱいだった。
物に魔力が宿り、「魔具」と呼ばれるものに変化することがあるという。でもそれは高密度の魔力を長期的に当てられて変化するもの。「この人形達は魔具ですらない。大気中の魔力を取り込んで動くように作られている……?そんな機構、作り得るのか?」これはユアの思案中の言葉だけど。
こんなんさァ?
完全にヤバいやつです本当にありがとうございました。
他に比べて舗装されている石畳を歩いていた足を止めてユアに話しかける。
「なぁユア。これやっぱり帰ろうか……俺たちは全然ここに詳しく無いけど、こんなん異常事態以外の何でもないじゃん?だから一旦帰ってギルマスに報告しようぜ?それで俺たちの任務も終わりだし───」
「確かに自動で動く人形数十体が屯する地下都市なんかないもの。そうするのが正解でしょうね。」
「まぁ……これを切り抜けてからですが!!ディー、私の後ろへ!」
ふへ!?お、おう!
───ピコンッ
俺が訳もわからずユアの後ろへ回った瞬間、地面が微かに揺れ始めた。
おいおい、この下にもまだ何かあるのかよ!?
地面の揺れはどんどん激しくなってくる。パラパラ、なんて具合に天井から小石と砂埃が落ちてくる。何かが来ると明確に理解した瞬間───
遠くで、地面が食い破られた。
そう形容するしかないように、地面が吹き飛んで岩となったものが大音量と共に吹き飛び、落ちる。
轟音を伴って現れたソレは、機械でできた巨大な蛇。や、ワームとかってのが近いかなぁ?
俺たちの数百メートル先に出てきた15メートルを越えるだろう巨大ワームは歯の代わりの歯車をギャリギャリ鳴らしてこっちに鎌首をもたげる。
「KIiyaaAAA!!!」
甲高い音。それを合図にするかのように地面を削り体をくねらせながら猛然と迫ってくる巨大ワーム。
俺がマトモに喰らったらそれだけでお陀仏案件の突進。
突然の事態で頭パンクしそうだけどさぁ…!この状況の最適解くらいは分かるぞ俺は!
「ごめん、ユア!」
「《神の庭・球》!」
友達に頼る!うん、ごめん!
ユアの言葉と一緒に球状に魔法陣が展開される。
魔法によって作られた障壁は相手の攻撃を受けるだけでなく流す性質のもの。
巨大ワームは球状の障壁にぶち当たり、俺たちの上を通り過ぎていった。
振り返って見ると、巨大ワームは突進を再度仕掛ける様子も無く、その大きな体躯を持ち上げ俺たちをじっと見ているだけであった。一体どういうことだ……?
「あいつ、攻撃して来ない?」
困惑しながら巨大ワームを見つめていると―――
「なるほど、門番」
───門番?
ユアは納得したように頷いて展開していた魔法陣を消していた。
それでも、巨大ワームは襲ってくる気配が無い。
「あ!」
そうだ、あいつの背中、俺たちの来た道の先は現状分かっているただ一つの帰還道。つまりは───
「敷地に入れない為の門番じゃなく、侵入してきたものを逃がさない為の門番…!」
「Kisyyy……」
───俺たちの帰り道は無くなった訳である。
巨大ワームをよく見てみれば人で言う顔の上を覆うバイザーのようなものが着いている。顔の下──口元とかそこら辺──は無機質なもので、どっからあの怖ぇ声出してんの?て具合だが……ユア曰く、バイザーのようなものに時たま横切るように表示される文字のようなものは古い時代──何千年は経っているらしい──の文字で『番人』と書かれているそう。
(ありゃ番人ってより番蛇とかだろ。どこに人型の要素が??)
自分たちの状況は棚に上げて古代人達のワードセンスと技術力に驚愕していると、ユアがさっとジト目になった。
「スクラップの癖に何様だこいつ」
ひえぇ……怖い子がいたよぅ。
「ど、どうしたユア?」
「文字が変わって……『そこでアホ面晒してないでさっさと進め』だそうで」
『そこでアホ面晒してないでさっさと進め』
お、おお……急な毒舌を披露してこないで下さい。それはプログラムされて時間経過で表示される奴なんでしょうか。それとも古代文明の遺産?なのにアンドロイド的な意思を持った機械なんでしょうか。知的好奇心が刺激されるけどそういうのの専門家じゃないんでね。前は大学生成り立てだった訳だし。
「進めってのはやっぱり」
「「あの都市」」
巨大ワームが突っ込んで来た方向へちらっと振り返って見た先。地底にある一つの塔を中心とした都市。やっぱりそこのことを、バイザーの文字は指してるのだろうか。
「そうだディー。…もう少し堪能してたかったけど…スキルを切り替えておいてね。もし万が一ディーに危険なことがあったら直ぐに安全を確保できるように。」
「え、あ。う、うん。」
(スキルの事バレてたのかよ……)
まぁスキルの情報垂れ流しの板が消せなくてワタワタしてたの見られてたし別にいいけどね。ぱぱっとスキル画面を出して音声認識をONにしておく。あとスキル云々の前に言ってた小声は気にしない。上手く聞き取れなかったしどうせ心の声がでちゃっただけだろうからね。
「じゃあ仕方ないけど都市の方行こっかユア……ユア?」
───ディー、ちょっとディーから離れちゃうけど結界はしておくから、少し待っててくれない?
「お、おう?わかった…」
───神の庭
幼子に語るような口調だったから咄嗟に返事しちゃったけど一体何しに
あ、ユアが地を蹴って数歩で巨大ワームのとこまで行って
軽く手で叩いて巨大ワームの周辺にバリア貼られてるのを確認して
剣を腰だめに構え───え、ほんと何して
ギャッ……ガッアアァァァアアン!!!!!
「おどれ骨董品の鉄くずの癖に何イキっとるんやダボが!!挙句ディーの顔見てアホ面たァいい度胸だな死ね!!!!」
ユアの大剣の一撃で一瞬拮抗したバリアがぶち破られて巨大ワームは空中に打ち上げられることになった。
……ヤクザだぁ。
ユアさん今ファンタジー小説やゲームでいう「聖騎士」をそのまんま体現している見た目してんすよ?鎧の中はシスター服なんですよ?あと、僕と話してるときの優しい口調はいづこ……
「接続――臨界ィ――解・放!!」
……わあ大剣が光っててきれー
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よーしディー!あの都市に行ってみましょうか。……どこだ、塔のてっぺんか?ディーに暴言吐いたスクラップの飼い主は。どうせ真に価値あるものを理解できない性格も容姿も醜い救いようのない生きてることすらおぞましいレベルのモノですこの世から消えても、いや消えてくれた方が世界にとって有益では?」
俺よりも2回り以上背の高い聖騎士みたいな鎧が物騒なオーラを纏って俺の隣を歩いています!ストレスがすごいです!
(別に俺はどう思われてても問題ないんだが、これじゃユアが辛そうだ。怒るって疲れるし)
ユアを落ち着かせたいと思ってしまった。けど、普通に言ったんじゃ感情に収まりはつかないし、ユアはそんな事を俺に言わせてしまったことで負い目を感じるかもしれない。
ユアが負い目を感じないように工夫して落ち着かせる方法はあるにはあるが、俺がだいぶ恥ずかしいんだよな。……いや、自分の羞恥心なんかより友達の事が第一だ。
俺は自分のシミひとつない手のひらを見つめて、覚悟を決めた。
「ね、ねぇユア。」
声を少し上げるように意識する。
「ん?どうしたのディー?」
前に飛び跳ねるように移動しつつくるっとターン。
頬を膨らませる意識をして
「っもう。あんまり乱暴な言葉使っちゃ、っめ、だよ。」
「───」
フッ、決まったな。前世男の俺だからこそ分かる可愛い子にされたら更に可愛さが増してしまう行動50選の内の一つだ。ユアは随分俺の容姿を買ってくれてるからな。どうだいこれは効くだろう?う、うん。正直顔から火が出そうで恥ずか死したいくらいだ。無駄に長いこの銀髪を横から持ってきて顔を隠すのに有効活用させてもらう。とにかくインパクトの強さで怒る感情を吹っ飛ばせるといいのだが……
「あら、ごめんなさいねディー。気をつけるから許して?」
……スルーされた……だと。
口で言ってたより俺の容姿を可愛いって思ってなかったのか?
それともこんな行動を取るのは解釈違いってヤツなのかな。
「う、うん。全然ゆるす。よしいこっか!」
とりあえす泣きたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この時ユアはディーに対して微笑んだ様な声で喋りかけた訳だが。鎧で顔が見えないことをいい事に、真顔だった。
目が血走っている真顔だった。
思っていることを隠せないユアだが鎧の中、という声が篭もりやすい環境で小声且つ高速で喋ることにより体裁を整えたのだ。
(かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいたべたいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいゼッタイさそってるかわいいかわいいかわいい)
頭どピンクが必死に考えた策なのだが、今までの言動で残念系お姉さんの認識をしているディーからして、だいぶ無意味な行為かもしれない。
(別いいよねゴールしてもいいよね自分からさそってるあんなの据え膳食わねばなんとやら。私ユア!今からディーをお嫁さんにするの!)
……ディーにこの思考を知られた瞬間ユアが開き直り襲い出す未来は容易に有り得るので、ディーの貞操を守るという意味で大変ありがたい行動なのかも知れない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「え、門番君損傷してるんですが。えっ怖」