9話 異変調査
「えっと…魔窟の森はイニジオの東部に位置する森林地帯で───」
ギルマスとの話し合いから数時間後。俺は受付嬢さんのオススメの下、ギルドの資料を貸してもらって魔窟の森について調べ物をしていた。
一応調査の依頼を受けた。受けはしたものの、そもそも俺とユアがキャンプ地としている『魔窟の森』のことを俺は何も知らないのだ。事前の状態があって、そこから発生し得ない異常事態があるから異変というのであって、それを知らない俺からすれば何が異変なのかも分からないのだ。
ほんっと、なんで俺に依頼を回しちゃったんだよギルマスさんッ!!
…まぁ、調査とは関係ないながらも俺にとって収穫はあった。
そう、「資料」を使って「調べ物」ができる。
(このテンプレはありがたい方だな…)
手持ち無沙汰の片手をクルクルと髪に引っ掛けて遊びつつ思った。
全く知らない文字だって認識できてるのに読めちゃうの、便利だけど違和感スゴ。
「ユア〜、ねぇユア〜?早く行きましょー?さっさと終わらせて一緒にもうこの街出てっちゃいましょ〜?……もう、えいっ」
「ひょわぁ!?急にほっぺた突っつくなよ、びっくりしちゃうだろ!」
「ウッソ、何この頬の感触。スベスベもちもちなのに包容力の具現化のように私を受け入れてくれる…ああ!天国はここにあったのね!?」
どうしよう、ユアが壊れた…
ここ普通に受付の隣のカウンターだからな!初めてギルドに入ってきたときに色んな人が居たとこっ!
こんな騒いだら周りに迷惑かかっちゃうじゃんか!
あーもう、分かった分かった!わかったよぅ!
「んじゃあ行くか!パパッと依頼終わらせちゃおう!」
椅子からパッと飛び降りて出口に向かう。この体、地味に椅子に座ると地面に足が付かないんだよ。圧倒的身長足りない問題。
「レッツゴー!」
「えぇ、れっつごー!ね。……ふふ、やっとディーがこっちに向いてくれたわぁ。5分も顔を合わせられなくて気が狂っちゃいそうだったもの…」
意外とノリがいいなユア。まぁその後なんか呟いてたし、やっぱりちょっと恥ずかしかったり?
俺は言ってから恥ずかしくなっちゃった…!
▼▼▼
「意気込んだのはいいけどなー、どこが異変なのか分かんないンだなーこれが。」
キャンプ地を抜けて俺が初めて召喚された辺りまで足を進めてみたものの、あんまりあのときから変わってないような気がする。
「ユアは何か分かるか?」
「うーん、特にそんなもの感じないんだけど……」
拠点と言っても魔物が出る森に行くからな。ユアには鎧姿て来てもらった。
というかそもそも、俺は転生させられたばっかで、ユアは俺に召喚されたばっか。2人で調査とかしていいのか?
「そもそも調査って他所から来た新米にやらせていいもんか?」
すっごくクヨクヨしちゃう。いや決めたことなんだから今更やめるー!なんてことはしないけどね。
「理由を付けるならば、余所者だからこそ捨て駒として使いやすい……ですとか?その場合一も二もなくあの町には消えてもらいますが。」
「笑顔で言わないでーユア。すぅっごく怖いよ」
「ああディーごめんなさい。ディーに言った訳では無いとはいえディーは優しいからこんな話聞きたくなかったのね。でもでもだってあの町は許せないじゃない?今回の件だけでなく他にも…」
でも俺の考えなかった視点からの言葉は感心しちゃうよな。こうやって話せる友達が俺は欲しかった…!もう最高…!!
と、こんな思考をしてる場合じゃないな。ここらへんまで来ても森の様子が変わってる訳では無いんだ。強いて前の森と違うことを挙げるならユアが召喚直後に放った技?魔法?によって抉られた地面がある事位で───
「ん?」
あの時は混乱諸々あって「わーキレイな道ができてるーハハ」ぐらいにしか思ってなかったんだけど。
この地平線の先まで続いてる道の途中、ちょっと山見えない?
真ん中から少し右にズレてる感じの位置。どデカくぶち抜いてない?
「ユア、覚えてるか分かんないけど、俺が召喚したとき。ゴブリンに向けて攻撃したじゃん?あれの詳細、知りたいなーって。」
俺の声震えてないかな。相変わらず声高いなー、なんて。
「ああ、あれ?えっと…全力で撃ったからココはあまり力が伝わりきってなかったわね。もう少し先の方で本調子の威力のはず…」
うんうん、つまり始点である直径10mありそうなコレは先の方で威力が更に上がっていたんだなぁ。知りたくなかったー!!
いいい一度落ち着くんだ俺。そうそう、こうやって出発する前に受付嬢さんにどんなことから異変が起こってるのか調査することになったのか、それを教えて貰ったじゃないか。
「確か…本来もっと森の深部にいるはずのモンスターが出てきたり、山岳に生息しているとされるハズのモンスターの目撃情報があったり、急に現れた巨大な攻撃の跡……」
今までの考えが逆転するんだけど。
ぎゃ、逆に?不幸中の幸いだよな。俺たちに異変調査が任されて?自分の尻拭いを他人にさせるなんてこと、しなくていい訳だし???
「ディー?どうかしたの?急に服の裾を握って」
「ゆ、ユア…落ち着いて聞いてくれ。この森に起こる変わったことって、俺とユアがやっちゃったこと、らしい…」
わー、ユアが両手で口元抑えてる可愛らしい。鎧姿だからなんかチグハグな印象を受けるな!
「え、ええー!?」
俺もそんな感じで叫びたい。
「はァ…まぁ暫定だけど、ほぼ確実じゃんかー!」
こういうときって髪の毛ワシワシしたいよね!ま、こんな機会初めてなんですけど!!
……軽く周囲を歩きながら考えをまとめる。
もう、仕方ないっちゃ仕方ない。複雑な心境だけど切り替えるっきゃない。とりあえず、さしあたっての問題は。
「「じゃあこれ、どうやって依頼終わらせるの?」」
おっ、揃った。
嬉しいからちょっとルンルン気分で歩いちゃうもんねー……とォ!?
「ひゃッ…〜〜〜ッ!!!」
ワテクシ驚くと声にならない悲鳴がでますの!!
なんか地面が急に抜けた……って落とし穴かコレ!?
「でぃ、ディー!?!?」
や、違ぇ!?なんか、滑って───
う、お、わぁあああ〜〜〜!!!?!?
直径2mぐらいありそうな地下通路?みたいなものを滑った先で、俺は放り出された。
「な、んだここ…!?」
地下にある空間。馬鹿デカいそこは町が一つ呑み込まれてもおかしくない程に大きい。そんで、周囲の岩に紛れてる結晶が青く、淡く輝いてて、俺の足りない語彙力で簡潔に言えば神秘的で綺麗な場所だ。
……ああ普段の俺なら発見して数分は見惚れてただろうが今はそんな余裕が無い。そう、俺は放り出されたんだから。
怖いが、顔を下に向けてみる。体全体に大量の空気が当たってるスカイダイビング的な状態って言えば、高度と俺のことは表せるだろうか。まぁ、スカイダイビングみたいな何千、とかの高さはないけど。
まぁ!こんな悠長に考えれる時間はあるぐらいの高さだよ、うん!!
「ディィイイイ!!!!!」
「ユア!」
現実逃避気味に思考を脱線させてたところ。
上から声が聴こえて、体を反転させれば俺に向かって飛び込んでくる、頼れる友達。シスター姿のユアが───
「って、ちょっと、まっ───」
「捕まえたァ!《エアコントロール》ゥ!!」
ユア、そんな強く抱きつかれたら、胸、ユアの豊満なバストが…!
「……ッ、ハァ…ハァ…!!よ、良かったぁー」
一瞬ソファを足で踏んづけたときみたいな浮遊感がしたら、固い石の地面に到着。土の時と感触が違うから見えなくても分かるよな。
「ディー。ディー、ディ…ディー。貴女が居なくなったら私はもうこの世にいる意味が無くなってしまうゥ…!無事で、良かったぁ、ほんと良がっだ〜……」
「………」
ああユアが泣き出してしまった。こんなことになるなら、友達を泣かせることになるならあんな浮かれた気分でいなかったのに。ごめんなさい、と心の中で何度も念じるがユアには聴こえていないだろう。ずっと俺の頭と体を痛いくらい手で抱いて泣いてしまっている。
ポンポン、と背中を叩いてあげる。残念ながら声を出せないけど、ごめんね。大丈夫。ありがとう。ユアが居てくれて良かった。その他諸々の気持ちを込める。
「…ああ!ディー、どこか怪我をしていませんか?」
思い出した様に体を話してこちらを心配そうに見てくれてる、であろうユア。落ち着いてくれたみたいで良かった。じゃぁ…
「さ、んそ。足りな…」
諸事情で酸欠気味になっちゃった俺だけど、ちっちゃい四肢に元気を出して探索に行くぞー!…ぉ?体がふらつくぅ…
「ディー!?!?」
苦労を掛けるね……ユア……
▼▼▼
俺ことディー!復活!!
酸素は十分、滑落してた時の擦り傷は血眼のユアによって回復しましたっ!
ほんとに苦労かけっぱなしィ……
人に助けられて「貸ひとつだな……」なんて苦々しく呟くクール系には腐ってもなれないなぁ。俺貸し何個あるよ?
と、そんなことを気にしている考えてる場合じゃない。正直、地上に戻るだけなら簡単だし、直ぐにギルマスに報告すればこっちはおさらばできるところだが。
(この町一つが丸々納まりそうな地下は、異常事態なのか…?)
俺とユアは、どうしようもなく──この世界とまで広く言うつもりはないが──イニジオの部外者だった。
「…ふー。よっし、行こうぜ、ユア!」
せめて、せめて20話に達する前に新キャラを出さねば…(使命感)
ディーちゃんの能力持ち腐れ過ぎやって