プロローグ~非現実へとあがる、困惑の声~
多分これが初投稿です!拙作ですが生暖かい目で見守っていただけると嬉しいです!
それでは、どうぞ。
―――――――――街が、一つ燃えた。
そこそこ大きな規模の街を行き交う人々の姿はなく、その代わりとして大火に燃える街並みと、飛行する、地を這う、地中を崩す、暴れ狂う怪物達がソコに跋扈していた。どのモンスタも、この国で見られるものではない。いや、元となるモンスターの面影が少しある程度、或いは全くの新種といってもいいようなモノ達が全て憤怒に目を光らせながら街全てを崩壊し尽くさんと行動していた。
妙に人の悲鳴すらも聞こえなかったが、それでも世界地図とまでは言わなくともこの国の地図にはしっかりと名前を書かれ、簡素ながらも絵を描かれている街が1夜にして燃やし尽くされたのだ。とてつもない騒ぎになることは間違いないだろう。
そんな惨状を、街から離れた小高い丘の上から見下ろしている人影があった。子供と間違われても仕方ないと思えるような背丈に、腰までかかる少し癖のある白銀に輝く髪。見開かれている二つの双眸は、深海の様に深い青色をしていた。幼さが強いその顔はけれど将来必ず美人になると分かるほどには整っていた。
本当に怪物共に気づかれていれば逃げようが意味をなさないだろうが。普通の人間ならどのみち躊躇う余地もなく逃走を選択している状況である。だが、その少女は見開いていた目に涙を浮かべながら、苦虫を一ダース程かみ潰したかのような渋い表情をして、
「はぁ〜…なんっでこうなるかなァッ!!!」
怪物を気にすることなく声を上げた。
この世界の不条理へと怨嗟の声よ届け、いや寧ろ直接俺が殴ってやる!と言わんばかりの、怒声とも悲鳴とも取れる絶叫をあげた。
――――――――――――――――
話の始まりは、街一つが消えるとかいう異常事態が発生する、大分前まで遡る。
「のぅ、いい加減起きよ、起きんかっ、……起きろボケェ!」
「ひゃあいっ!」
俺は突然の怒鳴り声にすわ何事かと飛び上がった。慌てて周囲を確認すると当たりは一面、全く何も無い白色に侵食されたところで、よく見れば自分の立っている地面も白く、壁と床の距離、境界線があやふやな空間だった。
「へ、なにっ?うわ白い!なんだこれ!!って、うわぁ!?あんた誰だよ!?」
「よーうやく起きよったか、年寄りに手間かけさせよって。さすがにココへ来て49時間寝とったのはお前だけじゃわ。」
「ぇ、あ、すいません。ってか、その言い分だと、貴方は神様、なの?」
目の前には、なんだか貫禄がありますよオーラ全開の髭をめっちゃ伸ばしたおじいちゃんが立っていた。まだ混乱してる頭ではあまり状況の整理ができていなかったが、そこはそれ、こういう作品の主人公は大体転生、転移系好きだろ?ご多分に漏れず俺もなのでなんとなく状況は察した。けど、気になったことがあるので質問してみる。
「あの、ずっと寝てたのは申し訳ないんですけど、一つ聞きたいことがあって……」
「儂が神と人目で気づくとはなかなかキレるようじゃ……ん、おお、良いぞ、答えられる質問なら答えてやるとも。」
「神様に年齢ってあるんですか?」
「や、無いが?」
「無いんかいッ!じゃあなんで年寄り設定だした!?」
「じゃってその方が皆敬うし…なによりカッコイイじゃろ?」
そう言いつつ「こんなこともできるぞ?」と笑いながら少年、美人、好青年、はたまた猫や犬まで、様々なものに変化してみせる神様(暫定)にため息が自然と漏れでる。
神様に寿命あったら星の管理とかどうしてんだろとか思っての言葉だったのだが、ただ神様がムードにこだわるということが分かった。あと妙に全員顔整ってるの少しムカつくな。
「それで、俺は……僕はなんでここにいるんですか?」
「改めて畏まらんでよいぞ。タメ口程度で話したところで何の問題もないわい。今更だしのぅ。――――お前を呼んだ理由はお前自身が分かっとるはずじゃ。」
「死んだ、から……」
「その通りじゃの。…まぁ、呼んだのは儂の気まぐれに近い部分はあるが…」
そうだ、思い出した。俺は死んでいた。電車での大学への通学途中。電車の脱線事故による被害で、俺は……
「他の…人達は…?」
「気にするな、皆輪廻の輪に還っておる。次の人生の待機中じゃよ。お前が守った少女は救助され一命を取り留めたようじゃが、の。」
「そっか……良かったァ……」
思い返せば周りに人のいない人生だったと思う。両親は幼い頃に色々あって離婚し、着いて言った父親のところでも父は仕事で忙しく自分一人の時間は圧倒的に長かった。父自身も、俺を別れた妻と重ねて遠ざけていたし、そんな扱いをされたごく普通の子供が、保育園や学校で明るく振る舞える訳が無い。
そんなわけで、小、中、高、と過ぎて行き、人との関係がなく暇だが父親の負い目によりお小遣いを多めに貰っていた俺は、ライトノベルなどのサブカルチャーへハマっていくことになった。お陰でこういう状況に対応できてるのは、皮肉だとは思うけどね。
そうやって生きてて、これまでの自分を変えるため、大学は地元を離れて都会に行き、いざ友達という憧れの存在をゲットする大冒険の始まり……といったところで、事件が起きた。乗っていた電車の脱線事故。レア中のレアな事件だろう。設備の点検を作業員が怠った訳ではないだろう。ただ、惜しむらくは例年の異常気象により春先まで冬のような気温が続いたというのについ最近気温が一気に上がりだしたことが影響で"不測の事態"に陥ってしまったという所か。
事件当時はもう無我夢中で、扉側にいたまだ5.6歳程度の少女を何故か必死に抱き寄せ、俺が抱える様な姿勢で守ろうとしていたことは、今になってやっと整理できた。生きていたなら、これ程嬉しいことはないだろ。自分が一人の命を救ったのだから。
閑話休題。
「まぁ、ココに来た理由は分k…あれ、わかったっけ?ま、いいや。それで、お決まりのヤツ?」
「うむ、転生じゃな。お主に行ってもらうのはユースクラプト。地球でいうなら中世程度の建築様式、社会制度に剣と魔法。それから魔獣などといくつかのユースクラプト独自の要素がある世界じゃ。不満はあるか?あっても強制じゃがの、希望があれば言うがよい。そこはほれ、儂が大抵なんとかしてやろう。」
希望、と言われて俺は自分の姿や能力より先に、ずっと憧れていたものを即答してしまった。
「と、友達が欲しいです!!!!!!!」
「……珍しい内容じゃの。まァよいじゃろ。それで、他に要望はあるかの?」
突然の大声に神様は驚いてたみたいだ。うん、自分もまさかあそこまで友達を欲しい気持ちが強いとは思ってなかった。
あー、でも友達が、本当に俺に友達というものができるなら、あとは良いや。そんな浮かれきった頭で応えたことを、俺はこれから途轍もなく後悔することになるのだった。
「めんどいので、後はお任せで。」
「了解じゃ。それでは第二の人生、存分に楽しむと良いぞ。」
そう告げた神の言葉と共に、これから転生者となる彼の視界はどんどん眩しくなってゆく。
彼が誤ったことは二つ。
一つは、神と彼が呼んでいた存在が人というものへの十全な理解ができていなかったこと。悠久の時を生きるソレの視点からは、刹那的に生きる人間の思考が理解できるはずも無く、故に
(能力として頼むということは友達、といっても自身へ都合の良い存在がいいハズ、であれば配下、従者の形をとるか。
彼奴が望むものを生み出せるようにすれば良いか。
友達といっておったし、友達……友……友愛……愛!うむ、創造主への愛を根幹に組み込む様にしておくかの。完璧だな!)
という、大分捻れた考え方をしていた神に、ついぞ彼は気づくことはなかった。
二つ目は、自身の状態をしっかりと認識できていなかったこと。
転生という展開と、自身が死んでいるということに、完全に動揺が治まっていなかったのか。彼は死んでいるのだから既に器の形は無く、性格には彼でも彼女でもない魂の状態のため、性別の境界すらあやふやになっていたのだ。
この二つの誤ちは後に致命的なまでに世界の歯車を壊していくことになるということを、神すらも予想できなかった。
「しかし珍しいの。他にも転生させてきたものはおるが、皆最初の願いは『元の姿で転生させろ』というような内容じゃったのに……」
「は?神様、今なんて……」
―――――――――斯くして、ユースクラプトに一人の転生者が現れた。
一応明記しておくと、神様が思ってる愛は友愛・親愛の方で、性愛や愛情といったものを考えていた訳ではありません。