第八話 赤肌の巨人
『うむ。
ではアカリ君、やってくれたまえ』
「えぇ、分かりました」
私はグラットの言われるままに目の前の誰かに近付いた。
「それでは、あなたを治します。
暴れないでくださいね?」
『………』
私は相手に伝わらない事を知っていながらそう伝えて、頭に触れた。
今までヒトに近いが明らかにヒトではない特徴を持った者達に触れてヒールタッチがどれほどの効果があるのか確かめるという実験を続けている。
今触れている彼は、全身が赤い肌に筋肉隆々の男だ。
彼は両手足を何かで切断されたのか、欠損している。
その傷は過去のものらしく既に皮膚に覆われているようだ。
ただ、切られたと思われる腕の数がヒトに比べて二対多くある。
意識はあるようだが、声を出さない様子から喉も潰れているのかもしれない。
しかし、私の方をじっと見ている。
とはいえ、すぐにヒールタッチの効果が現れる訳ではなく、個人差は有るものの、だいたい数分から数十分ほどかかる事は分かっている。
ヒールタッチの効果は私に触れた者を癒す能力であった。
最初だけ、個人差で時間がかかるが、その次から触れれば、瞬く間に傷を癒す。
火傷、切り傷、打撲痕…あらゆる体の傷を癒せた。
しかし、心の傷を癒す事、死者を生き返らせる事、この二つはできなかった。
いや、骨を渡された時はなんだと思った。
また、今までヒールタッチをやっていない者を初めて発動すると魂のカケラが得られる。
どうやら、その魂のカケラとやらは私のレベルの経験値として扱われているらしい。
一人癒せばカケラが一つ手に入る。
つまり、百人癒せばレベルが上がるようだ。
なるほど、この世界での私は言うなればヒーラーなのだろう。
ゲームの中でも敵を倒して得る以外にも仲間を回復すると経験値を得られるシステムがあった。
レベルの上げ方は分かった。
どんどん癒せば良い。
レベルが上がれば何かが変わるだろう。
今から楽しみだ。
それから癒す度に魔力を得るがステータス画面で増えているのは弱点の数値だ。
もうすぐ物理弱点がカンストしそうだが、さて、どんな変化があるのだろうか。
癒す以外にもダメージを受けると増えているようなので物理弱点が一番早く数値が増えているのは納得だ。
転けるだけで数値が上がる。
しかし、この研究所では次から次へと様々な負傷者を準備できる事に疑問に思う。
それも、全てヒトでは無さそうな者ばかり。
ここは異種族でも研究しているのだろうか。
多種多様な種族を見れて私は満足だ。
流石は魔法の世界、前世では架空の存在に会える事は嬉しい。
敵意、丸出しなのが困りものだ。
ここで最初に癒した彼女のようにヒールタッチをしようと触れている間や完治した後に暴れる者も居る。
その度に弱い私はHPが全損して気絶している。
そう、HPを全て失うときっかり一時間、気絶してしまうのだ。
そして気絶する度にHPの最大値が増える。
とはいえ、HPが増えても弱点を抱える、か弱い私には雀の涙に等しい。
気絶した後はHPが全回復して最大値も増えるから、本当に少しづつ耐久性が高くなっている事だけが救いだ。
しかし、死ぬ事は無い。
これはグラットから教えてもらった事なのだが、私の身体には血が通っていない。
内臓も筋肉も骨もない。
なんなら、首を切り落とされた時もあったが今もこうして生きている。
…今の私を生物として扱って良いかは疑問だが。
確かに、脳や心臓がない相手をどうやって殺す事ができるだろうか。
傷や欠損さえも一瞬のうちに治るこの身体、研究したくなるのも理解できる。
一度、体の一部が欲しいとグラットに言われて、まぁ、切っても生える、と思って了承したが、私から切り離された私の一部は泡の如く消えてしまった。
何度か試しても泡の様に消えて、いつの間にかHPがなくなってしまったのか気絶してしまった。
気絶している時に道具を突き刺して調べた、とだけ後から言われた時はなんとも言えない複雑な感情を覚えた。
いや、可愛い乙女に謎の器具が刺さっている光景を想像してしまったが、ホラーゲームではよく見るシーンを自分が好き放題されている事になんとも言えなかった。
その代わりにこの世界の常識を教えてもらう約束を取り付けたので良いのだが。
《魂のカケラを入手しました》
《火属性の魔力を入手しました》
『………っ!』
おっと、ヒールタッチが発動したようだ。
相手が声なく震えている。
ヒールタッチが発動している時、痛みが発生している事も分かっている。
それは重度で有ればあるほど、痛みが増すようだ。
今回の彼は両手足を欠損している。
それ相応の痛みに襲われているだろう。
しかし、治る速度は速い。
すぐさまに完治したようで私は頭から手を放す。
彼は荒く息をしながら上半身を起こして自分の両手を見下ろしている。
その後、ゆっくりと立ち上がった。
『ありがとう』
私の方を見下ろしてぽつりと赤肌の男から言われた。
ここで感謝されたのは彼が初めてだ。
「どういたしまして」
私は可愛らしい笑顔を意識して彼の顔を見上げる。
足がなかった時でも私より大きかったが、足が完治した今では私の頭が彼の腰ほどの高さまでしかない。
…うん、大きいね、ナニがとは言わないけど。
彼はのっしのっしとグラット達の方に向かい短く何かを言い合って、彼は部屋から出て行った。
どうやら、彼は今までの者とは違う存在だったらしい。
他の者は出てきた時と同じように床に黒い穴が空いて降りていった。
そういえば、彼は拘束されていなかった。
手足がないから拘束もなかったと思っていたが、ここの研究対象では無かったようだ。
『ふむ、アカリ君、ご苦労であったな。
本日はこれで終了としよう』
「はい、分かりました」
おや?
いつもだったらまだ続くはずなのだが…
何か予定でも有るのだろうか?
そういえば、いつも居るはずのアレイスターも居なかった。
まぁ、早く終わって良いのだが。
私はこれからお勉強の時間だ。
この研究所内を制限はあれど自由に移動できる事も取り付けたし、自分の部屋まで移動するとしよう。
アカリ
Lv1(78/100)
HP25/54
【ヒールタッチ】
【物理弱点】(92/100)
【無属性弱点】(60/100)
【火属性弱点】(1/100)
【水属性弱点】(7/100)
【風属性弱点】(4/100)
【土属性弱点】(5/100)
【闇属性弱点】(1/100)