第六話 自由の取引
《復活まであと0:00:00》
《闇属性の魔力を入手しました》
「んぁ?」
あれ、私、寝てた?
なにかが口に入ってる。
取り出そうにも動けない。
えっと、変身能力を確かめる為にいろんなゲームのコスチュームに変わって…
…そうだ、全身を束縛された呪術師のコスチュームに変身してバランスを崩して倒れてしまったんだ。
デザインは好きだったが実際に束縛されると不自由極まりないな。
打ち所が悪くてそのまま気絶してしまったらしい。
身動きできないから今も変身したままのようだ。
全身が何かに締め付けられている。
特段なにも感じない私にはMの素質はないようだ。
首さえも動かせないし、目を開いても暗いままだ。
暗いまま?
待って、あの呪術師のコスチュームに目隠しは無かった。
それに口枷なんて付けたら呪言が唱えられない。
呪言を唱えて呪術を使う設定のキャラだから口枷があるのはおかしい。
だからあるはずがないモノだ。
つまり、これはコスチュームじゃない。
…え?
まず、現状確認だ。
私は手足はおろか指先さえ動かせず、目隠しと口枷が嵌められてる。
エロ案件か、警察を呼んで!
…冗談はさておき。
姿勢は手足が伸ばされた直立不動。
立っているかは分からないが。
これはグラットが言っていた検査が始まったのだろう。
後日って言ってたけど、すぐじゃないか。
変身の能力を確かめていたとはいえ、長くても一日は経っていないぞ。
どれだけ私の実験をしたいのか。
しかし、こうもガッチリと固定されては何もできないな。
上下左右の感覚も分からない。
もしかしたら逆さ吊りになっているかもしれない。
変身能力を使えば私を拘束している物が消えるだろうか。
あの口の中にあったドロドロの液体のように消えてしまうだろう。
コスチュームは何が良いかな?
人体実験の対象って囚人が良く使われるイメージがあるから脱獄ゲームの囚人コスチュームにしよう。
シロクロボーダーのミニスカワンピースに同じボーダーのキャップ。
胸の辺りに囚人番号の代わりに私の名前が書いてある。
靴は白と黒のヒールが高いショートブーツ。
変っ身っ!
視界が開けた。
そして崩れ落ちた。
…ハイヒールムッズ!
足首がガクって曲がったけど、大丈夫!?
痛みはないけどさ!?
『うむ?
拘束具が消えてしまったな。
アレイスター君、反応はどうかな?』
『ブフッ!?
ま、魔力反応は皆無…そんなバカな!
一体どうやって!?』
『ふむ、素晴らしいな。
治癒、再生、擬態、物質消去。
他にはどんな能力を持っているのか楽しみだ』
少し離れた所には案の定、紫の服を着たグラットとアレイスターが居た。
グラットは私をじっと見つめて顎髭を触っている。
アレイスターはゴチャゴチャした何かを急いで操作している。
魔力反応って言っていたが、あれは魔力の計測機か何かだろうか。
今居る部屋は私が気絶している時に別の場所に移動したようで、広い所だと思う。
壁、床、天井全てが真っ白で正確な広さは分かりづらいが、動き回れるぐらいには広い。
「おはようございます、グラットさん、アレイスターさん」
私は囚人コスチュームからいつもの服に変身して二人に挨拶をする。
少し歩いて近付くと、アレイスターが悲鳴をあげる。
失礼な、こんなに可愛い女の子が近付いて悲鳴をあげるなんて。
『アレイスター君、例のアレはあるかね?』
『きょ、教授!?
もしや昨日みたいにアレと会話するつもりですか!?
今のアレの力を見たでしょう!
魔導具を消す魔法以外の能力なんて危険です!
逃げましょう!』
私、危険視されてる。
私を拘束していた魔導具を消したって事を怖がっている様子だ。
確かに、前世の世界で物を消す存在が現れたら怖いかな。
なんでも消せるなら、ね。
私の場合は…今後色々と試さないと分からないかな。
消えて困るような大事な物を持って変身するのは止めておこう。
『アレイスター君、我らが逃げた所でアカリ君はこの研究所からきっと抜け出すだろう。
ヒトに対して敵対行為は示していないが、それがいつまで続くか分からん。
今の我らの技術で彼女を処分する手立ても思いつかん。
ならば、飼い慣らした方が有益だろう。
なに、会話ができるのならばいくらでも手はある』
処分する手立てがない、か。
私が気絶していた間に何を確認したのやら。
『ムフー、…確かに、危険な存在を帝国に放す訳には行きません。
どうぞ、グラット教授』
アレイスターは服から取り出した悲壮さ溢れる表情でグラットに翻訳仮面を手渡す。
グラットはそれを顔に付けて私をしっかりと見つめる。
『起きたようだね、アカリ君。
昨日は良く眠れたかな?』
「はい、大人しく拘束具を付けられるぐらいには」
皮肉で返してしまったが、決して怒ってはいない。
ただ、検査内容と結果を知りたい。
変な事をしてないだろうか。
エッチな事とか、スケベな事とか。
『アカリ君の能力は少々危険でね。
これが皇帝の耳に入れば君の始末を命令されるだろう。
しかし、我らに従うならばを少々の不自由を強いるが身の安全を保障しよう。
どうかね?』
やっぱり居たのか、皇帝。
始末されるのか。
しかし、処分する手立てが無いと言っていたのはグラットだ。
その言葉は私には通じていないと思っているかもしれないが、バッチリ聞こえたぞ。
私を殺す手段がないと分かってる上で首輪を嵌めてくるとは、驚きのタヌキっぷりだ。
肝が据わっている。
…グラットが知らないだけで秘密兵器とか出されて殺されるのは嫌だけど。
それに、私は変身能力と使い方の分からないスキルに弱点まであるだけで、身体能力は見た目通りだ。
さっきみたいに物理的に拘束されずとも、部屋に閉じ込められては敵わない。
うん、地下深くに生き埋めにされたら自力で出られそうもない。
下手な事をされるより、従った方が良さそうだ。
私も魔法をもっとみたいし。
「そうですね、私も危険視されて排除される事は望んでいません。
私のお願いを聞いてくださるなら、今後は貴方達の指示に従いましょう」
『ふむ、お願いか。
ではアカリ君、何を望んでいるのかね?』
「私が貴方達に望む事はただ一つ。
私に何かを行う場合、私の要望を叶える事。
これだけを守ってくださるなら、指示に従いましょう。
もちろん、私に対して行う事をきちんと説明してくだされば、私も求めるモノを事前に提案しましょう」
何かを得るなら、何かを渡す。
等価交換って奴だ。
これを守るなら私はあちらと良い関係を結べるだろう。
『ふむ、あい分かった。
では、それでいくとしよう』
グラットは迷う素振りも無く、私のお願いを聞き入れた。
さて、後は様子を見ながらどうするか決めよう。
逃げ出すのか、居残るのか。
アカリ
Lv1(1/100)
HP9/12
【ヒールタッチ】
【物理弱点】(4/100)
【水属性弱点】(1/100)
【闇属性弱点】(1/100)