第四話 能力の謎
「弱点?」
床、天井、壁さえも白一色という部屋をグルリと一周したが、どうにも出られない事が分かったので改めてステータス画面を意識した。
できない事よりできる事を優先する。
それが私のモットーだ。
今なら落ち着いて考えられそうだし。
ちなみに、今の服は見覚えがある薄いクリーム色の病院で着るような貫頭衣のみだ。
なんで、パニックホラーゲームのコスチュームを着ているのかは謎だった。
もしかしたら状況に合わせて服装が自動で変わるのかもしれない。
そう思って色々とコスチュームを想像すれば本当に変わったので便利な能力だなと思った。
まぁ、すぐにタンクトップにホットパンツといういつものスタイルに戻したが。
話をステータス画面に戻そう。
すぐに目に付いたのはヒールタッチの下に新しく加わったモノだ。
物理弱点と水属性弱点。
額面通りだとすれば物理と水属性に弱くなるデメリットでしかない魔法だ。
いや、魔法と言うよりスキルと言った方がしっくりくるな。
パッシブスキルとして考えるとしよう。
それでもダメージが大きくなるデメリットなパッシブスキルなんてなんで習得したんだ?
大体、メリットとデメリットがある強力なスキルならともかくデメリットのみのスキルとか地雷でしかない。
選んだ種族によって初めからある弱点なら分かるのだが。
アンデットは光や炎が、水系なら草や電気が弱点、みたいな王道パターンがある。
それにヒールタッチと違ってレベルと同じように右側に数値が書いてある。
よく見たらレベルの経験値とHPの最大値が増えてる。
なんで?
フランクリンに圧縮プレスされた時に聞こえたロボットみたいな声の言葉、なんだったかな。
えっと…タマシイの…カケラ。
それと…マリョク、そうだ、魔力を手に入れたって!
ついに魔法が使える!
でもステータス画面にはタマシイのカケラや魔力なんて言葉は反映されていない。
魔力を得たのにステータス画面に反映されてない。
…やっぱりこの世界では魔力は数値化できない代物なのか?
でも、脳内に声が響いたって事は私にとって重要なモノって事だと思うんだけど。
タマシイのカケラと魔力についてはもっと情報がないと分からないな。
よし、後回し後回しっと。
HPの増加については、一定量減ったら全回復すると最大値が上がる、とかかな?
そうなるとHPは時間経過で回復する事になる。
今回は残りHP1って事に気付いて圧縮プレスにダメージがあると気付いて…それから意識がない。
つまり、HPが一定量減ったら気絶するっていう状態異常にかかるって事かな。
それもステータス画面を確認できるぐらいには猶予があったから、ダメージを軽減できれば防げたのかもしれない。
あの時、とっさにヒールタッチを使っていれば意識を失わずに済んだ、かもしれない。
ヒールタッチがあの時に発動できたかは置いとくとして。
今もヒールタッチを意識しても発動しないし、声に出してみてもなにも起こらない。
せめてどんな効果なのか確認さえできればやり方も分かると思うのだけど。
疑問が増えてしまったか。
分からないモノが増えるとこんがらがってしまいそうだ。
パソコンやせめてノートが有れば疑問と考察、結果なんかをまとめる事ができるのに。
…コスチュームを学園モノに、いや確実にメモとペンを持った記者のコスチュームに変身。
よし、持ってる持ってる。
メモ帳に簡単な絵を描いて、一旦、元に戻ってまた記者のコスチュームに変身。
…ダメだ、メモ帳に描いた絵は消えてしまっている。
メモ帳を考察ノートにする事はできないようだ。
まぁ、考えるにしても情報が少ない。
やはり、戦いながら覚えていくのが一番。
早く魔物でもモンスターでも良いから敵を倒してレベルを上げたい。
今の私に戦闘力があるかどうかも、また置いといて。
今の私の身体能力はどれくらいだろうか。
ゲームによって超人だったり、平凡だったりしたからな。
流石に狭い部屋の中で暴れるのもダメだろうし、早く外に出たいな。
私の願いが届いたのか、マットレスの上で座って大人しく待っていたら正面の壁に床から天井まで黒い線が伸びて線を中心に壁が左右に動いた。
壁の割れ目から白髪と白髭が目立つ、腰が曲がっていてなお私よりも背が高い初老の男と初老の男を押し潰してしまいそうな程、恰幅が良いちょび髭の中年の男がが入って来た。
おいおい、乙女が居る部屋にノックもなしか。
でも、その壁の動きはまさに魔法だから見逃そう。
二人はアディとフランクリンと似たようなゆったりとして色違いの服と特徴的な帽子を着ていた。
色は紫だ。
初老の男は帽子を変えればいかにもな魔法使いの姿だ。
初老の男が私を見ながらフサフサに生えた髭を触りながら隣の恰幅の良い男に尋ねる。
『ふむ、どうやら目覚めたようだね。
アレイスター君、例のアレは?』
『ムフー、もちろんできております。
どうぞ、グラット教授。
ムフー、これで意思疎通には問題がないでしょう』
恰幅の良い男、アレイスターは鼻息が荒いらしく、何かを言う前に少し離れた私にまで聞こえるほどだ。
アレイスターは服から顔の半分を模したカラフルな仮面を取り出し、片方を初老の男、グラットに手渡した。
意思疎通に問題がないと言っているが、言葉を翻訳する魔法道具か?
いいな、翻訳機が仮面なんていかにも魔法の道具らしい。
『…よろしい。
君、言葉が分かるかね?
分かるなら手を大きく振りたまえ』
仮面を張り付けてグラットが私に向かって名前を聞いてくる。
分かるも何も、最初から日本語で聞こえている訳だが、結論的には伝わっているのだ。
指示通りに手を大きく左右に振った。
『うむ、では次だ。
君の名前は』
「私の名前はアカリよ」
『…ふむ、アカリかね?
…成功か。
ではアレイスター君、記録を頼む』
『ムフー、任せて下さい』
それから、質疑応答が続いた。
グラットが私に質問してそれに私が答える。
答えはグラットがアレイスターに伝え、丸い何かを両手でグニグニしていた。
中年の男が柔らかいボールで遊んでいるようにしか見えない。
謎の道具でどうやって情報を記録しているのか分からなかった。
翻訳仮面は翻訳するのに時間がかかるらしく、私が答えた後、数秒立って、グラットがアレイスターに伝えている。
質問には半分以上、答える事ができなかった。
知らない単語が多過ぎて質問には知らない、分からないと伝えた。
「すいません、こちらからも質問してもよろしいてすか?」
『…よかろう。
何を聞きたいのだね?』
「私をどうするつもりですか?」
どう答えるだろうか。
何もしないなら最初から手を出さないはず。
保護をした理由はなんだろうか。
私に何を見出したのか。
何かするつもりでも正直に答えるとは思わないけど、とりあえず聞いてみる。
『ふむ、どうするつもりときたか。
もちろん、帝国の礎になってもらおう。
アカリ君の力を解明し、再現できれば有益であろう』
後日、検査をするから待てとグラットは満足そうに、アレイスターはグラットの後に続いて部屋から出て行った。
…私、モルモットですか。
アカリ
Lv1(1/100)
HP11/11
【ヒールタッチ】
【物理弱点】(1/100)
【水属性弱点】(1/100)