第二話 魔法の世界
「イタッ!?」
一瞬の浮遊感を感じ思わず目を閉じるとお尻に衝撃があった。
思わず声が出てしまったが、痛みは無い。
立ち上がろうと床に手を着いたはずなのだが、感触が平べったい木材の感覚ではなかった。
チクチクと柔らかい何かが手のひらに刺さる。
思わず目を開くと、周囲は人気の無いカフェではなく、一面が芝生だった。
「…え、どこだよ?」
さっきまでカフェ、死後の世界に居た。
魔法の存在する世界に行けると神様に言われて…
「ほ、本当に異世界に…
魔法が…ん、声が!」
声が高い。
まるで女の子、それも理想を詰め込んだ彼女の声だ。
とっさにノドを触ってみる。
大きく出っ張っていた喉仏が嘘のように消えていた。
触り心地がとても良い。
ツルツルでハリがある。
それから顔、肩、胸、お腹、お尻、足。
手の届く範囲を触って、見て、変化した姿を確認した。
全裸で無かった事はありがたい。
アカリの裸はそうならざるを得ないシチュエーション以外では考えていなかった事が功を奏したようだ。
これが常に裸をイメージしていたら服はなかったのだろうか。
一面芝生に裸の女、ただの裸族か。
おへそが見える程、丈の短いオレンジ色のタンクトップ。
大胆にスラリとした足を魅せる黒いホットパンツ。
動き易い赤いスニーカー。
体型は華奢でスレンダーという言葉がしっくりとくる。
慎ましい胸、細いお腹、小ぶりなお尻。
手足はスラリと長く、細い。
髪型は肩までストレートで色は綺麗な黒。
肌は雪のように白く柔らかく瑞々しい。
声だって鈴の音のようで凛として可憐だ。
アカリのイメージ通りの服装と体型だ。
まだ鏡を見ていないが顔もアカリになっているだろう。
猫を彷彿とさせる大きな黒いつり目。
小さく整った鼻。
ぷっくりと柔らかそうな唇。
僕の理想像だ、可愛くない訳がない。
長年思い続けた理想の姿に成れた。
これだけでも素晴らしい事だ。
現実、いや前世では整形や女装はできてもここまで完全に理想に近づけるだろうか。
さらにこの世界は魔法がある。
早く魔法を見てみたい。
圧倒的な火力の派手な魔法で敵の軍勢を蹴散らしたい。
この世界の魔法を確認する為に期待を胸に立ち上がると、頭の中で甲高い機械音に似た音が短く鳴ると脳内にゲームでよく見るステータス画面のような物が視えた。
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アカリ
Lv1(0/100)
HP10/10
【ヒールタッチ】
ーーーーーーーーーー
実に簡素に情報が書かれていた。
なるほど、この世界にはこんなシステムがあるのか。
消えろと思えば脳内から消えて、視たいと思えば現れる。
凄く便利だ。
今の名前はアカリ。
レベルが1で右側にあるカッコはレベルアップに必要な経験値ってところか。
HPとは体力かな。
ゼロになったら死ぬ、という事だろうか。
そして、最後に見知らぬ言葉がある。
【ヒールタッチ】
それは、やはりアレだろうか。
そういえば神様からプレゼントだと渡された物があったはず。
つまりこれは最初の…
「魔法だ」
でも、ステータス画面には魔法を使う為のエネルギーが見当たらない。
数値化されているモノはレベルと経験値、そして体力のみ。
…まさか体力を消費して発動するのがこの世界の魔法なのか!?
魔力とか魔素とかマナとかそんな魔法限定のエネルギーはないの!?
これは試すのは怖いな。
一回使って死亡なんて洒落にもならない。
でも神様からのプレゼントだし、そんな極悪なシステムがあり得るだろうか。
「…ヒールタッチ」
ボソッと小声で言ったが変化はない。
ステータス画面でもHPの数値が減ってはいなかった。
不発か?
次に脳内で【ヒールタッチ】と念じてみる。
しかし、何も起こらない。
脳内に【ヒールタッチ】の効果や消費魔力などを説明するなんて事もない。
使えない、のか?
なんで使えないのだろうか。
名前から考えると治癒系の魔法だと思う。
考えられるのは怪我をしていないから発動しない。
今は体力が全快だし、怪我の一つも負っていない為、発動しない
もしくは発動しているが怪我が無い為、変化が見られない。
前者なら【ヒールタッチ】は体力全快なのに回復する、なんて無駄撃ちは防がれる。
後者なら魔法は体力を消費して発動するモノではないと分かる。
問題は魔法の為のエネルギー、魔力が数値化できないのか、ステータス画面に反映されないのか。
『君、大丈夫かい?』
「はひ!?」
背後から男性の声が聞こえ驚いて振り向くとそこには二人組が居た。
二人組はゆったりとした深い緑色の服に特徴的な帽子を被っていた。
二人とも肌は顔の部分しか見えないが褐色。
一人は深い海のような青い目をしていて、にこやかに笑いながらこちらを見ている。
声をかけて来たのはこちらだろう。
もう一人は険しい顔つきでギラギラと光るような赤い目を細めてこちらを警戒しているようだ。
にこやかに笑う男の少し後ろに居る。
…え、日本語!?
今、日本語を言った!
異世界初の住人が日本語を使った?
原住民になんて答える?
異世界から来ました?
アウト、それはアウト!
大丈夫です?
なにが!?
『おい、何故黙っている!
さっさと答えよ!』
『アディ、相手は女の子だよ?
男二人に突然声をかけられてびっくりしてるんじゃないかな?
あはは、ごめんね。
ここではなんだから詰所で話を聞かせてくれないかな?』
すぐに答えない事を不審に思ったのか赤目の人が苛立ちを隠さない声音で怒鳴ってくる。
それを宥めてこっににも気を掛けてくれる青目の人。
詰所に連れて行かれてもどう答えるか…
いや、今はアカリだ。
ならアカリとして行動をしよう。
僕はアカリ、アカリは僕。
…よし!
まずは相手を観察する事!
二人は似たような服だから何かの組織の人って事は確実。
つまり人脈が広い可能性が高い。
今後の生活で相談ができる人が居た方がやり易い。
うーん…記憶喪失を装って色々聞いておく?
なにか問題があったら逃げれば良い。
それに魔法が見れるかもしれない。
「分かりました」
私は近付きながら一緒に向かうと同意を込めて伝える。
もちろん、笑顔も忘れない。
笑顔のカワイイ女の子、邪険に扱わないだろう。
『ん〜?
アディ、彼女が何て言ったか、分かる?』
『聞き覚え無い言語です!』
…えー、マジで?
こっちはそっちの話をちゃんと理解してるんですけど?
やっぱり別言語ってワケ?
それじゃ、こっちから色々と質問責めにするって計画がパーになるじゃん。
アカリ
Lv1(0/100)
HP10/10
【ヒールタッチ】