幼なじみを追いかけて
王子と令嬢。ミニマムな、幼馴染の世界。@短編その36
やり過ぎたかも知れない。
私は今更そう思った。
この国の王子、ラルティーグ、あだ名はラル、彼を怒らせてしまったのだ。
剣聖持ちの私だから、剣には自信がある。
で、王子をコテンパンに倒してしまったのだ。
いくら幼馴染でも、王子で男だ。プライドバキバキにしてしまい、
「お前なんか、もう見たくもない!!」
って、怒って行っちゃった・・・
私とラル、16歳の春の事・・・
この国の王子様が幼馴染で、歩けるようになる頃には一緒に遊んでたと思う。
母親同士が親友で、いつも私を連れてお城に遊びに行ってたから。
で、母親達がお茶をしてる時は、侍女が側について私達は積み木遊びをしたり、本と読んでもらったり、お昼寝も一緒にしたり、もう双子か兄弟か、そう思われていた。
双子はいいんです。兄弟って。私は女だよ。どっちが兄かな?というのはいいとして。
私は小さい頃から活発で、叔父上が騎士団の団長をしていたせいか、剣を4歳には持たせてもらった。
叔父上には子供がいなかったから、自分の子供みたく剣を教えてくれて。
教え方がよかったのか、才能なのか、めきめき腕が上がっちゃったのだ。
そして王子も遅ればせながら剣を稽古し始めて、ちょうど背格好も合うから私が相手になって。
で。私が勝つのだ。そりゃ経験が二年違えば、ね?
しかし彼は男だった。身長もいつの間にか追い越された。
15歳には彼の方が強くなった。
ちょっとは悔しいな、そう思った。でもダンベルを私が85キロ持ち上げたけど、王子は110キロ上げた。
ああ、もう敵わんわ。
と思ったが・・・
16歳の時、私に『剣聖』が付いた。焦った。
また私が勝つようになってしまった。
力はダンベル85キロのまんまだが、剣の技、というのか・・・
自分でもヤベェ、そう思った。王子とそれ以来会ってない。
ここまで腕が上がったのだ、自分の道は剣だ。そう決めた。騎士になろうと決心した。
だから長い髪も切り、男っぽい服を着て、17歳で騎士団に入団した。
そして若手1番の出世頭になった。
私を男と間違えて、婚約を申し込む女性がいるほど、男っぽい姿になっていた。
身長は178センチ、胸は・・・まあぼちぼち。でも腹が割れてる。
もう誰も私を『女だてら』と言えないほどの剣技を身に付けてしまった。
こうなると泣くのは母親である。
あなたは綺麗な子なのに、美しい髪を切っちゃって、男みたいだ、とか言われっぱなしですよ。
「孫の顔が見れないかも」
と言い出す始末ですよ。兄上にそれを言ってください。兄上も独身、婚約者無しですよ。
・・・と言ってみましたら、睨まれました。
「貴方とラルティーグ王子が結婚したら、私達本当の親戚になれる、って楽しみだったのに!!」
王子と結婚したら、我が母と王子の母が親戚になる、と。夢だった、と。
ちょっと・・そういう結婚押し付けるのやめてよね・・・
王子とはもう何年も会ってないわよ。確か外国に留学してるんだっけ?
最後にあったのは、私が剣聖だとばれた時だった。
たまには実家に帰るかと思ったら、結婚の話ばかりで頭痛くなった。しばらく帰らないぞ。
「よう、帰ったか。楽しかったか?実家は」
「もう当分帰らん」
「なんだ、また結婚しろとか言われたか」
「言われたわよ。面倒だーーあーー面倒だーーー、兄上が早く結婚するように呪いをかける」
「まあ、女で19なら適齢期だからな。言われるのは、まあ諦めろ」
「あんただって、婚約してるんでしょ?」
「いや?してないぞ」
「へー。まあ、あんたなら選り取り見取りかー」
「そうなんだよなぁ、俺に付き纏うんだよなぁ。俺ってイケメンだから」
「言うじゃん」
今気さくに話しているのは、同期の騎士でアンリ。
背が高いから人混みでも逸れない。191センチだとか。剣もなかなかに強い。
ま!剣聖の私の方が強いですけどね!!
しばらくして、母上から手紙が届く。内容見て呆然とした。
「ラルティーグ王子と婚約したわよ」
え。
まあ、私、これでも公爵令嬢なわけで?
身分差は無いですけどね?
いくら幼馴染でも、もう何年も会っていないよ?
私は本人に聞きたい。
剣聖の女と結婚したいのか、と。だって剣聖って分かって以来、会ってないじゃん。
「ちゃんと本人はいいって言ったの?」
母上に手紙を送ると、早急に返事が来た。
「当然です」
そうか・・・ラル、いいのか?剣で負けっぱなしだったから、嫌だと思ったんだけどなぁ・・
貴族の婚姻相手としては、王族で嫡男だから我が家にとっても良き相手ではある。
お妃教育をしなくても、私は公爵令嬢だからその辺の作法はばっちしですよ。
ただ最近やってないだけで。
と言う事で、お妃教育を受けることになってしまった。おさらいですよ、おさらい。
城へ愛馬でカッポカッポと週1回。母も来ていて、総チェックですよ。
お妃様と母が二人がかりでああだこうだと言ってきます。
「歩き方!!足が開いてるじゃ無いの!!」
「どーせドレスでわからんでしょ」
「言葉使い!!」
「日頃丁寧な言葉は使いませんので、申し訳なく思っております」
「ドレス、着てみなさい。コルセットはどうなの」
「腹が割れてるじゃ無いの!!こんな体、殿方が見たら卒倒するわ!!」
「それくらいで卒倒しますか?ラルは」
「・・・しないわ。だって剣聖って知ってるものね」
久しぶりにドレスを着て、サイズを正しく測り直し、ついでに歩き方やダンスのステップをチェックされた。
んもう〜〜、結婚するのやだーーー!!
「今からでも遅くないので、ラルには妙齢の令嬢を充てがってください。こんなゴツい女は嫌でしょう?」
「貴方ったら!!母に孝行しようとは思わないの?!!やっと親戚になれると、ぐすっ」
「ああ、すみません母上!!泣かないでください!!」
私は母の涙には弱い・・・
こうして王子の婚約者となり、半年が過ぎた。
まだ王子とは会ってない。いつ帰ってくるんだって話だ。是非、私の腹のシックスパックを見て、この結婚を解消して頂きたい。
王子が帰国すると連絡があったので、護衛も兼ねて国境まで出迎えとなった。
私とアンリを入れて10名ほどで向かった。
久しぶりだなぁ・・婚約の事、どう思っているかなぁ・・
なんて思っているうちに時間が過ぎ、馬車がこちらに向かってやってくるのを確認した。
私達の側まで来て、馬車が止まった。おお、ひさびさラルに会えるわけか。
だけど出てこずに、国境での手続きを終わらせて、馬車は再び走り出した。
あーー・・
もしかしたら嫌われてるのかもなーー。
そんな気がした。
「どうした?」
アンリが私の馬と並走するように寄ってきた。
「王子、出てこなかったなーってね。私と顔を合わせたく無いんだろうなーってね」
「おや珍しい。奥ゆかしいな、おい」
「最後にあった時、いい別れ方してないから」
「ふーーん」
「まあ、そのうち会うことになるんだろうけどね」
「婚約者だしな」
「こんな調子で結婚していいのかなぁ・・」
「悩むとか」
「悩みますよ。一生の事だし」
「お前にしては弱気だな」
「弱気とか。言うじゃん、アンリ。あんただって婚約とか話が出れば惑うわ」
「好きなんだろ?王子」
「幼馴染だからねー。嫌いでは無いんだけど、全然会ってないから」
「会わないとダメタイプか」
「どうなんだろうねー。って、あんたは女子か」
「ははは。悩める同僚の話し相手になっているだけです」
「ああ、そうですか。ありがたや」
「ありがたがってないだろが」
アンリとくだらない話をしているうちに、なんか吹っ切れた。
婚約、解消しよう。してもらおう。母には悪いが、私の一生がかかっているんだから。
城まで馬車を送り、さあ帰ろうとすると、呼び止められた。
今から会うのか。
そう思いつつ部屋に通されて、しばし待っていると王妃様が来て。
「ちょうどいいからドレスを着なさい」
抵抗しても仕方がないので、素直に着替える。
着るのに20分近く掛かるから、心を落ち着けるのにもいいかな。
いざ!
私はドアを開け、中に入る。
「あれ、アンリ?」
「やあ」
・・・・・・・。
「あんた、ラルだったの?」
アンリが『変化』の魔法を解いたら、見覚えのある顔と髪になった。
「気がつかないんでやんの、ぷぷー」
「あの馬車はなんだったの!!」
「偽装、一応留学してるって事にしてたから」
「背!!いつ伸びた!!」
「17になったら伸びた」
「そですか」
「婚約解消する?」
「する?」
「俺はしたくないな。お前、そんなに俺が嫌か?」
「・・・怒らせちゃったし」
「いつまでも怒ってなんかいねーぞ、俺は。そんなちっちゃい男じゃねーし。191だし」
「すっかり平民言葉になっちゃったねぇ」
「騎士団語と言え。で、どうする?結婚」
アンリは17からずっと一緒の同僚。
気さくで、いつもくっちゃべってて、気心も知れている。
と、思ってたんだけど、ラルだったのねー。
「お前、もしかして俺の仮の姿、アンリが好きになってたのか?」
「アンリは同僚って感じだからなーー。友人としか思ってなかった!恋心一切なし!!」
「なんだとぉ?お前はぁ・・・」
急にぐい、と肩を掴まれてラルの方に向かされた。
「お前をもらってやれるのは、俺だけだぞ。身分差もない、剣も使える、お前の身長でも大丈夫な191センチ、どこが不満だ、言ってみろ」
「アンリがラルなんてぇ〜〜!いい友人、同僚と思ってたのにーーー」
「お前友達いないもんな」
「しかたないじゃん!女らしくないし、話し合わないし、男も私の身長でまず及び腰になるし、腹見せたらびゅん、って駆け去るし」
「俺以外に見せてるんじゃない・・な?俺くらいしかいないじゃん、結婚相手」
「ううううう」
確かに!!本当、ラルしかいない!!
ラルが片膝ついて、私の手を取って、手に唇を落として、にっこりと微笑んだ。
「ファダール公爵家、ノイエ嬢。私、ラルティーグの妻になって頂けませんか」
「ラル、あたしでいいの?私、腹割れてるよ?」
「何度も見てるわい。お前の腹より俺の方が凄いから」
「腹で大根おろしーってね」
「やめろ、どこぞの筋肉応援みたいに言うな」
「背中にタカアシガニーーー」
「後で見せてやるからな」
「ひえええ、冗談」
「母上!婚約してくれるそうですよ!」
「やったわあ!」
「うれしい!!」
母と王妃様が抱き合って喜んでいます。本当、仲良いな。
こうして恙無く?目出度く?婚約の運びとなりました。
騎士団長はラルが王子だって知っていた。
そりゃそうだね。
ラルに、なぜ騎士団に入団したかを聞いたところ・・
あたしと喧嘩した後、ラルはなんか反省したらしく、騎士団に入った私を追って、変化の術で変装して入団したと。
そしたら城では猫かぶっていた私の本性を見て、なぜかこの真の私を気に入ってくれたそうで。
そういえば、二人で腹の見せやっこしてたわ、ははは。
しかも、結構ボディタッチしてたよね?ハグとかもしてたし?うわーーーーー!!!
じろ、と隣で剣の手入れをする婚約者を睨んでいると、奴は気がついた。
「どうした?」
「・・・・なんてハンサムなのかなーーーって!」
「はは、そりゃどうも」
さて、私たちは婚約はしたけど、まだラルの正体は明かさず騎士団で勤務しています。
来年二人で退団し、国政に携わっていく事になっています。
休みは城でお勉強の真っ最中。
ちっちゃい頃から一緒なまま、ラルと結婚です。
恋愛ではないけど、これもいいかなーとか思っています。
いや、ちょっとは恋愛、なのかな?
だって、ラルは私を追いかけて来てくれたのだから。
・・・そう言う事にしよう、うん。
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。連載もあるよ!
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191