9~時は流れ
街の木々が赤や黄色の衣裳に変わり始めている。優しい風が街を吹きぬけていく。
住宅街にある一軒の家から楽しそうな笑い声が響いている。女性が小さなコイヌと遊んでいる。
ペットショップにいたそのコイヌは女性の遠い記憶を呼び起こし、その日から女性と一緒に暮らしている。
コイヌは女性の投げたピンクのボールを追いかけて、拾ってきては女性に渡していた。何故かボールで遊ぶのが大好きだった。
女性はコイヌが拾ってくると抱きしめ、その真っ白な体を愛おしそうに撫でていた。嬉しそうに微笑むその顔には白い八重歯が輝いていた。
温もりあふれる日差しが家の中へと差し込んでいる。女性は日差しに照らされた棚の上のモノを手にし、ソファーに腰を下ろした。そして、手にしたモノのふたを開けた。
メロディーが流れ始める。
今までボールとじゃれあっていた真っ白なコイヌが急に女性の足元にやってきて、ちょこんと座った。女性はいつものように、そっと抱き上げると自分の横に座らせ、目を閉じた。
ソファーに座り目を閉じる女性と、同じように目を閉じて座る真っ白なコイヌをオルゴールのメロディーが優しく包んでいる。