8~くすみゆく屍
少年が倒れた原付バイクを起こした。
「痛っ」
腕でもぶつけたのだろうか。少年はバイクを起こすと、顔をしかめて腕をさすった。
「大丈夫か?」
白髪の男が声を掛けた。
心配して人々が集まってきていた。
「大丈夫、平気ですから」
少年は集まった人々に照れ笑いを浮かべながら、そう答えた。
特にケガもしていなそうな少年に安心すると、集まった人々は口ぐちに話しを始めた。
「まったく危ないったらありゃしない。急に道路に飛び出しやがって」
「なんか前に警官に噛みついたんだって」
「そうそう、ケガさせたらしいわよ」
「知ってるわよ。あの公園でしょ。恐いわね」
「それにしても、あんなふうに逃げたら……」
「素直に捕まってればいいのにねぇ」
「本当にいい迷惑よ。あんなふうになっても仕方がないでしょう」
ぶつぶつと文句を言いながら、人々が冷たい視線を向けたそこには――真っ白なイヌが転がっている。
口からあふれた血が頭の周りに血だまりを作っている。
縁石横に転がったイヌの側を、警察官の誘導で動き始めた車が何台も走り去っていく。排気ガスがイヌの顔や体に容赦なく吹きかかり、綺麗な白がくすんでいく。それでもイヌを抱き起こす人は誰も……誰もいない。