表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風吹く時  作者: ゆらゆらゆらり
7/9

7~ばあちゃん

 今、ボクの目に映る車も、間から見える公園もいつもより歪んでぼやけている。頭の後ろを足音が通り過ぎていく。人々が何やらしゃべっている。なんだか街が騒がしい。でも、騒がしかった周りもすぐに静かになった。


 いや、違うかな……ただボクの耳に届かなくなったのかな。


 目の前は真っ暗になり、静寂に包まれた。



 ★  ★   ★


 ボクは暗闇の中でひとり倒れていた。静寂の中に風が吹いた。柔らかな風は頬をそっと撫で、耳に心地よいメロディーを運んできた。

 突然、劇場で幕が開いたように目の前が明るくなり、ライトに照らし出されたようにマコの姿が浮かびあがってきた。

 笑顔のマコは両腕をいっぱいに広げている。


「迎えにきてくれたんだね」

 ボクは立ち上がろうとした。しかし、体が動かない。必死に力を込めても、まるで動かない。目の前ではマコが待っているのに。

 目の前が暗くなっていく。

 マコの姿が見えなくなっていく。

 笑顔が消えていく。


「マコ!」

 叫んだ。何度も何度も叫んだ。

 でも、声は届かない。

 目の前はどこまでも続く暗闇となり、ただ静かにメロディーだけが流れている。


 ボクはうずくまり、小さな子供のように泣いた。やがて、泣き続けていると背中に懐かしい温もりを感じ、顔をあげた。

 周りがほのかに明るくなっている。そこにはばあちゃんがいた。ボクの横で元気だった頃のように微笑みながら、優しく背中をさすってくれていた。

 懐かしい感覚が体を包み込む。


 一筋の道が照らし出されている。

 ばあちゃんはボクの頭を優しく撫でると立ち上がり、照らされた道を歩きだした。その道はマコの姿が消えたのとは反対の方向にまっすぐと延びている。


 ボクはすぐに立ちあがろうと全身に力を込めた。今度はすんなり立ちあがれた。

 それで全てを悟った。

 ボクは振り返り、暗闇に目を向けた。そして、ひとつの願いを込めて、「サヨナラ」と告げた。


 照らし出された道で、ばあちゃんが立ち止っている。

 ボクが駆け寄るとニッコリ微笑みなが歩き出した。あの頃のように並んで歩いた。オルゴールの静かな、心地いいメロディーが鳴っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ