7~ばあちゃん
今、ボクの目に映る車も、間から見える公園もいつもより歪んでぼやけている。頭の後ろを足音が通り過ぎていく。人々が何やらしゃべっている。なんだか街が騒がしい。でも、騒がしかった周りもすぐに静かになった。
いや、違うかな……ただボクの耳に届かなくなったのかな。
目の前は真っ暗になり、静寂に包まれた。
★ ★ ★
ボクは暗闇の中でひとり倒れていた。静寂の中に風が吹いた。柔らかな風は頬をそっと撫で、耳に心地よいメロディーを運んできた。
突然、劇場で幕が開いたように目の前が明るくなり、ライトに照らし出されたようにマコの姿が浮かびあがってきた。
笑顔のマコは両腕をいっぱいに広げている。
「迎えにきてくれたんだね」
ボクは立ち上がろうとした。しかし、体が動かない。必死に力を込めても、まるで動かない。目の前ではマコが待っているのに。
目の前が暗くなっていく。
マコの姿が見えなくなっていく。
笑顔が消えていく。
「マコ!」
叫んだ。何度も何度も叫んだ。
でも、声は届かない。
目の前はどこまでも続く暗闇となり、ただ静かにメロディーだけが流れている。
ボクはうずくまり、小さな子供のように泣いた。やがて、泣き続けていると背中に懐かしい温もりを感じ、顔をあげた。
周りがほのかに明るくなっている。そこにはばあちゃんがいた。ボクの横で元気だった頃のように微笑みながら、優しく背中をさすってくれていた。
懐かしい感覚が体を包み込む。
一筋の道が照らし出されている。
ばあちゃんはボクの頭を優しく撫でると立ち上がり、照らされた道を歩きだした。その道はマコの姿が消えたのとは反対の方向にまっすぐと延びている。
ボクはすぐに立ちあがろうと全身に力を込めた。今度はすんなり立ちあがれた。
それで全てを悟った。
ボクは振り返り、暗闇に目を向けた。そして、ひとつの願いを込めて、「サヨナラ」と告げた。
照らし出された道で、ばあちゃんが立ち止っている。
ボクが駆け寄るとニッコリ微笑みなが歩き出した。あの頃のように並んで歩いた。オルゴールの静かな、心地いいメロディーが鳴っている。