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風吹く時  作者: ゆらゆらゆらり
6/9

6~宙

「やっと、見つけたぞ」

 低く抑えた声が耳の中に響いた。

 視線がぶつかりあったまま時間が流れていく。圧しつぶされそうな重い空気が流れている。

 横を通る車は川の水のように次々と軽やかに通り過ぎていく。


 ボクは混乱し、動揺していた――でも、恐怖は消えている。

 心も落ち着いてきて、目の前で今にも飛び掛かろうと身構える警官を、なんだかおだやかな気持ちで見つめていた。


 警官の手首には包帯が見えるが、その手でしっかりと警棒を握っている。


 よかった。手首、大丈夫そうだ……本当にごめんなさい。


 今は、素直にそんな気持ちになっていた。 きっとマコに会えて、笑顔を見られたからだ。真っ暗な道に光をくれたから。


 ボクらの周りを遠巻きに人々が囲み始めている。自分には被害が及ばないように距離を置いて、好奇な視線を向けている。

 歩道に出来た人だかりに、横を軽やかに流れていた車の動きも変わってきている。運転をしている人も好奇の目を向けているのだろうか。横を通り過ぎる時はスピードが遅くなっているようだ。


 突然、若い警官の視線がボクから離れた。その視線はボクの後ろへと向かっている。

 つられるように後ろを振り返ると、そこにはあの中年警官の姿があった。道路の向かい側を走って、後ろに廻りこんだのだろうか。息は乱れ、肩で呼吸をしている。大きな口で酸素を求め、歯をむき出しにして喘いでいる。


 その中年警官は、大きく深呼吸すると若い警官に軽くうなずき、ジリジリと歩を進め始めた。向き直ったボクの目の前には、どこにも逃がすまいと目を見開いて身構える姿もある。

 前も後ろも逃げ道はない。警官の後ろには野次馬がいて、もし自分たちのほうに来たら捕まえてやろうかと身構えている人もいる。右側は植栽が大きな壁となっている。


 二人の警官がジリジリ近づいてきている。


 ボクは追い詰められているはずなのに気分は軽かった。恐れることも、悩むこともない。ただ一つの道を進めばいい。マコと一緒にその道を歩くためにするべきことはただ一つ。


 ボクは飛び込んだ。車の川の中へ。


 車の川を渡りながら、ばあちゃんが話してくれたことが、ふと、頭に浮かんできた。あれはいつ話してくれたのだろうか……。


『アフリカのヌーって動物は食糧を求めて大移動をするのよ。その途中には大きな川があって行く手を阻んだりするの。でも、生きるためにはその川を渡って、食べ物があるところに行かなくてはならない。だから激流であろうが彼らはその川に挑んでいくの。生きるために、目的のために命をかけるのよ』


 ボクも目的のために必死に進んで行く。

 突然、目の前に現れたボクに、車が悲鳴をあげながら止まる。激しくクラクションが鳴っている。何かを叫んでいる人がいる。警官がなにやら怒鳴っている。


 ボクは激流に飲み込まれないように、必死に泳ぎながら思い出した。


 そうか……テレビだ。ばあちゃんがテレビの映像を見ながら話していたんだ。ヌーのすごい数の群れが一斉に川を渡ってたんだ。それで――


 向こう岸がすぐ目の前まで迫っている。


 群れの最後尾の一頭が、もう少しで向こう岸に渡りきれるところで……そうだ、襲われたんだ。激しい川の流れに打ち勝っても、まだ敵がいたんだ。ワニが見えないところからヌーを狙っていたんだ。そう、見えないところから、突然に現れて――


 体が宙を舞っていた。車の流れが止まる中で、見えないところから現れた何かにボクは――クラクションが鳴り響いている。


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