1~出会い
ボクはあてもなく歩いていた。
晩秋の冷たい風が吹き抜け、もの悲しさが胸の中に広がっていく。
ふと、甲高い笑い声が流れこんできた。
振り返れば、公園内を老夫婦が散歩をしている。賑やかな子供たちの声が何処から聞えてくる。
ばあちゃん……。
もう誰もいない。誰も……。
ボクは公園に背を向けると、目の前の大通りに視線を向けた。車がひっきりなしに前を通り過ぎていく。
目をつむった。
そして、車の流れの中へ身を沈めようと一歩前に――
冷たい空気の中、風がそっとボクの頬を撫でた。まるでばあちゃんが撫でているような心地いい風に包み込めれていく。冷たいのになんだか温かさを感じる風が優しく囁いてくる。
優しい音――元気だった頃のばあちゃんがよく口ずさんでいたあのメロディー。
ボクは公園の中へと走った。
メロディーは公園内の噴水広場からだった。少し前にはここも夏の日差しをいっぱいに浴びた子供たちが水遊びをし、笑顔と大きな声が広がる場所だった。
でも、噴水も止まっている今は閑散としている。
そんな中で、一人の少女が噴水前のベンチに座っている。オルゴールを膝の上に置き、目を閉じている。
ボクは黙って隣のベンチに座ると目を瞑り、音が心にしみてくるのを受け止めた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
いつのまにか、メロディーは遠ざかり、ボクは想い出の世界に浸っていた。
ふと、感じるものがある。目を開けて視線を横に向けると、そこにはボクを見つめる少女の姿があった。
視線が重なる。
少女の肩にかかる黒髪が揺れ、口もとが緩んでいく。そして、白い八重歯が輝いた。
それがボクたち二人の始まりだった。