8話 魔熊との闘い
「父ちゃん・・・!おじちゃん・・・!」
悲痛な子供の声、その視線の先には3メートル程の熊の魔物と、その爪に腹を貫かれている男が2人。
一人はまだ間に合う・・・!けれど、もう一人は・・・!
「リリム!熊の腕を切り落として!グラは子供を守って!」
姉の言葉に即座に反応する。魔力を右腕に乗せ、カマイタチの如く飛ばす。魔力の斬撃はあっさりと熊の右腕を切り落とし、激痛に苦しむ熊の悲鳴が洞窟内に木霊する。
落ちてくる腕を受け止め、腹から爪を引き抜き回復魔法を掛けるルル。リリムがそれを背中で感じ取り、熊に止めを刺そうとした時
切り落としたはずの右腕側から熊の斬撃がリリムに襲い掛かった。飛び跳ねて空中にいるリリムへの不意打ち。避けることなど出来なかった。
だが、避ける必要もなかった。
「驚きました。ただの魔物ではないようですね。魔力を練り上げて右腕を作り上げましたか。」
空中で"立ち止まっている"リリムは左手だけで熊の一撃を止めた。そして瞬く間に熊の頭上を覆うように魔法陣が展開されたかと思うと、轟音と共に光が降り注ぎ、光が途切れた時にはすでに熊の姿は跡形もなく消し飛んでいた。
これは・・・屋敷を消し飛ばした魔法と同じやつだろうか。あれほど強そうだった魔物が一瞬で・・・。
おそらくは多少傷をつけた程度では回復されるとふんでの攻撃だろうが、頭や心臓を狙うだけでもよかったのではないだろうか・・・?
だが、少なくともグラよりもリリムのほうが戦闘経験が豊富だろうし、リリムがそうする必要があると判断したのなら疑うところもないだろう。
そんなことを思っていると、リリムが瞬間移動でもしたかのように突然目の前に現れ声を掛けてきた。
「グラさん。子供をこちらへ。私も多少ですが回復魔法が使えます。その子の擦り傷程度なら治すことができるかと。」
「あ、あぁ・・・。」
あまりにも常識外れなことが多すぎてあやふやな返事しかできずにいたが、すぐに正気を取り戻した。
熊に襲われていた男性はどうなった?ルルの方へ振り向き訪ねようとしたが、それよりも早く、俯きながらルルが応えた。
「一人は一命は取りとめたわ・・・。失血が多いから暫くは目をさまさないだろうけど。もう一人は・・・助かるかはわからないわね・・・。」
襲われた時間差の問題だろうか、あるいは攻撃を受けた場所の違いか。回復魔法も掛け過ぎてしまうと中毒症状を起こすらしく、これ以上は魔法での治療は出来ないようだ。
「せめて襲われたのが一人だけだったか、あるいは彼らの血液型が同一だったならまだ手の施しようはあったのだけれど・・・」
腹を貫かれた時に落ちた血液を浄化し、無理やり体内に戻す方法もあったらしい。だがそれは、異なる血液型を持つ二人の血が混ざって落ちてしまっている今は不可能なようだ。
あるいは僕たちが同じ血液型でもどうにかなっただろう。輸血の技術はこの国では一般的ではないが、他の国では取り入れているところもある。彼女たちならばその程度はたやすいだろう。
輸血・・・確か王宮にいる医者が輸血用の血液がどうとか言っているのを聞いたことがある。特殊処理をして誰にでも適応できる血液もあるとも言っていた。
「僕が先行して王都まで行ってこよう。医者を連れてくれば魔法以外の治療方法も見つかるかもしれない。」
王都にいる医者ならば輸血用の血液も持っていることを伝え、王宮の医師ならば自分と顔なじみも何人かいるのでつれてくることも出来るだろうと二人に説明した。
そういって駆けだそうとしたところをルルに声で制止され、リリムに体を引っ張られ止められた。