79話 明くる日の朝
「ここは・・・?なんだろう・・・体が動かない・・・?」
ものすごい倦怠感と共に目を覚ませば、恐らくベッドの上にいるのだろうとわかる程度にフカフカの感触を味わい、体を起こそうとしてみたがまったく動く様子がない。何かに押さえつけられている訳でもなく、筋肉が上手く動かせないかのように感じる。
「おはようグラ。・・・体調はあまり良くなさそうね・・・。」
ルルの声がしたのでそちらへ振り向くと、ベッドのすぐ近くで椅子に座りこちらの様子を伺っていたルルが、暗い表情をしていた。
少しずつ意識も覚醒してきたので、昨夜の記憶を思い出してみる。風呂に入っていた時にルルが乱入してきて、色々話したりからかったりして・・・手に残る柔らかな感触と、唇に残る温かな感触を思い出して何があったのか察する。
「あの後、あなたは倒れてしまったのよ。湯あたりと酸欠ってところかしら?そしてそこからくる体調不良・・・治癒魔法は掛けてあるから悪化することはないだろうけど・・・ゆっくり休んでね。」
おでこにあてられたルルの手がひんやりとしていて心地よい。昨日、ルルといい感じになってキスをして、呼吸を忘れて倒れるなんてそんな馬鹿な話はない。体調管理には幼い頃から気を付けており、初めて寝込んだ理由がこれなのは結構恥ずかしいが、それ以上にルルに申し訳ない。
「私は別に気にしてないわ。それよりお風呂でするのは危ないから今後は注意しましょう。一応、怪我がないかは確認したけど、どこか痛む場所とかあるかしら?」
いつもより少し体に力を入れてやっと動かすことが出来たので、ベッドの中で起き上がり手を握っては放しを繰り返したりして感覚を確認する。特に痛む場所もないし、倦怠感はだいぶ残っているがそれ以外の異常を感じる所もなかった。
むしろ今着ている服のほうが違和感がすさまじい。体の上から軽く羽織って腰元を帯びで抑えることではだけるのを防ぐこの服は、温泉街などでよく着られている浴衣のようだ。
僕が倒れた後、体を拭いて、ルルの手持ちの服からこの浴衣を取り出し、シールに少しだけ巨大化の魔法を掛けてもらうことで大きさを調整したらしい。自分でやらなかったのは魔法が使えないと言うわけではなく、混乱状態のままシールに手持ちの服を借りにいった時に、浴衣を羽織らせればいいんじゃないかと言われ、シールがついでに大きさの調整もしてくれたらしい。
「・・・ということは、僕が倒れた理由をシールに話したってこと!?」
「直接話してはいないわよ。でも・・・たぶんバレてる・・・。」
シールがにやにやしながら初夜は途中でお預けだねと伝えてきたらしく、細かな部分はともかくとして、なんとなく何があったのかは気づかれたようだ。
「まあ、暫くはからかわれそうだけど、仕方ないか・・・。それより、僕の体を拭いたってことは・・・その・・・。」
「え?あ、え、えぇ。その・・・立派なモノをお持ちのようで・・・そんなのが本当に入るのかしら?って不安になったわ。」
やはり見られていたか。あの時は相当我慢してゆっくりと事を進めようとしていたが、正直暴発寸前くらいまできていたし、むしろこの倦怠感は気を失っている間に暴発したせいなのではないかと思えてきた。
ただ、ルルが顔を赤らめて目を逸らしながらも、途中で暴発するようなことにはならなかったと、しっかりと否定してくれたおかげで、余計に恥ずかしくなり布団の中に潜り込む。
初めては上手くいかないことがよくあるなんて聞いていたが、ここまで酷い結果になるとは思ってもいなかった・・・。
「と、言うわけで姉様とグラさんは本日はお休みさせて頂きたいと連絡を受けました。」
失敗した・・・昨夜は思いのほか疲れが溜まっていたのか、あるいは用意されたベッドが思っていた以上に心地よかったせいか、すぐに眠りについてしまった。
二人がそんな面白・・・大変な状況になっていたのであれば是が非でも覗き・・・助けに行き力になりたかった。
幸いにして本番行為はまだのようですし、今後の参考のために今夜はグラさんの所にこっそり潜り込みましょう。そのためにも私も隠密魔法を習得せねば・・・。
「動機が引くほど不純だねぇ・・・。まあ僕も同じ理由で勉強するわけだけども。」
私の相手は、このままいけばシール君になるだろう。倫理観的に問題しかない見た目をしているが、行為自体はすでに出来る体のようなので、後はお互いの心持次第といったところでしょうか。
「まさかそんな理由で隠密魔法を習得したいって言ってくる人が現れるとは思わなかったわ!でもお姉さん協力しちゃう!だって面白そうだから!」
「世も末だな・・・。」
朝から妙にご機嫌なミスフィと、妙にぐったりしているガイムさんを交互に見比べながら何が起きたのか想像してみる。だが、想像が答えに辿り着く前にミスフィの口から解答が出てしまった。
「旦那の事は気にしなくていいわよ。昨日出し過ぎて疲れ果ててるだけだか・・・痛ぁ!?」
頭を思いっきり叩かれ地面に伏したミスフィを無視して、ひとまずはお互いの実力を知るために軽く模擬戦を行うことにした。同性同士で行うのが普通だろうと思い、ミスフィを引きずって少し離れようとしたところで、ミスフィがシール君と模擬戦がしたいと言ってきたため、仕方なく私がガイムさんの相手をすることになった。
「俺はそんなに強くはないからな。お手柔らかに頼むよ。」
そういって笑っている彼だが、その言葉を鵜呑みにすることなど出来る訳がない。ここへ飛ばされる直前に出会った魔物は、恐らく彼が作り出した物だろう。あれほどの魔物を作り上げることが出来る者が弱いはずがない。
「それでは参ります。私は光と闇を宿しています。」
手の内を晒したのは、私の方にも彼らの実力を測る目的があるため、闇魔法が使えることを知って竜神がどう対応してくるのかを知りたかった。そして、闇魔法が使えると伝えた途端に彼の表情も、ミスフィの表情も真剣な物に変わった。
一先ずは増力を使い身体強化を更に強め、地面を蹴り跳び左足に斬撃を乗せた攻撃を行う。魔法攻撃と物理攻撃の両方を与えるこの攻撃は、生半可な防御など容易く貫き首を刎ねる技だ。
だがやはり、予測通り土を練り上げ壁を作り出し攻撃を防がれる。勢いを殺された一撃は彼に避ける隙を与えてしまい空を切った。
「おいおい・・・この壁は鋼鉄以上の強度があるはずなんだけど・・・。」
破壊され飛び散った壁を見つめて呟いているが、私からすれば鋼鉄を蹴り破ることなど造作もない。この程度の壁を超える攻撃力すら出せなかったら、私はアモンの国で魔王に殺されていただろう。
「少しばかり本気を出させてもらうよ。」
そう宣言してガイムさんは何かの魔法陣を展開し始めた。ここが普通の戦場ならば、魔法陣を起動される隙など与えず攻撃をし続けるのだが、これは模擬戦だ。であるならば、竜神の本気とやらを堪能するためにもここは様子を見る。
どうやら起動したのは魔物生成の召喚魔法だったようで、目の前に現れたのは、髪の色が銀色の私だった。
「また、私自身との対決ですか・・・。」
「姿形は君だが、宿している力は俺の物だ。色々な魔物を生成して使役してみたが、一対一を行うのなら人の姿が最も力を出せることがわかってな。髪色だけ変えたのは見た目で区別するためだ。」
そう言って彼はまた魔法陣を展開し、"私"をどんどん生成していく。単純な強さなら本物の私の方が上だろうからこそ、数で攻めてくるということのようだ。
土魔法によって生成された魔物は水魔法に弱い。だが、当然ながらそんな常識が竜神相手に効くはずもないので、召喚が終わるまでの間にこちらも一つ魔法陣を組み立てておく。
「さて、こんなところかな?数は50体だ。突破にどれだけ時間がかかるかな?」
「数秒で十分です。」
捕縛結界を発動して中を纏めて消し飛ばす姉様のような方法もあるが、私は私らしく、一体一体丁寧に破壊していく。と言っても、その一体に掛けた時間は肉眼で捉えきれない程の速度で攻撃しているので、数えることすら出来ないだろう。
「光神化・・・光魔法の奥義か・・・そこに闇魔法の奥義である増力を重ねるとわね・・・。いやはやまいった。とてもじゃないが敵わないな。」
光神化は準備に少しばかり時間がかかる上に効果時間も短いので実践向きの技まで昇華できてはいないが、それでも、光の速度で動くことが出来るため、その速度をそのまま破壊力に転換することが出来る。
当然そんな速度で攻撃を行えば周りへの被害も大きくなるので、それを抑えるために攻撃対象の周囲に結界を張り、増力で強化することで被害を抑えている。その結界を自動で張るための魔法陣が事前に組み立てていた魔法陣で、これが出来ないのなら使用してはいけないと姉様にきつく言われている。
こうしてあっけなく負けを認めたガイムさんと握手を交わし、次はシール君とミスフィの番となる。シール君が戦うところを見るのは初めてなので少しばかり楽しみですね。




