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不死議な姉妹の旅物語  作者: 黒い星
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69話 グラの悩み

「さて、それじゃ僕たちはアガレスに戻るとするよ。」


王都を発ち、キセ領まではフェロンの使い魔に乗せてもらい、そこから先は馬車を借りて進むことになった。この馬車はスーレ領への補償ということで、幾人かの人間の騎士と共にスーレ領へ移るそうだ。


ルル達はこの後南の方へ向かい、古くから生きている竜神へ会いに行く。少し寂しい気もするがここでお別れだと告げたところ、全員が一斉に驚いた様子だった。


「グラセナ・・・アガレスのためにもお前の将来のためにも、ルル達についていけ。婚約して味方に引きずり込めとまでは言わん。せめて彼女らから学べるだけ学び続けろ。もう正体を隠す必要もないだろうから私は一人でも問題ない。」


「グラっち一緒に行こうよ。霧の竜神の知識はグラっちにもいい影響与えると思うよ。」


「私としてはどちらでも構いませんが、共に来ると言うのであれば歓迎いたします。」


個人としてはもちろんついていきたいが、立場が立場だし国への報告も行わなければならない。だが、考えてみればノエル様がいるのだから報告は任せてもかまわないどころか、報告すべき相手が彼女なのだから必要すらないのかもしれない。


「地図を見る限りだと目的地は砂漠を超えた所にありそうだから、私たちは今日一日使って準備をするわ。一緒に来ると言うのなら手持ちを整えておいてね。」


そう言ってルルはキセ領の町中へ消えていった。






「・・・僕が集めた情報は以上です。尤も、フェロン殿が黒幕だと決めつけての情報収集だったので偏りがありますが・・・。」


領主亭の一室を借りて一先ず得た情報をノエル様へ全て渡す。国への報告という業務に関してはこれで完了とみなしていいだろう。報告の途中からフェロンの顔が引きつっていたのは気になるが、聞けば情報量の多さに引いているだけだと言う。


だが、問題はここからだ。ウアルへくる前にレゾンの町を襲った事件が気がかりだからそちらを調べたいのだが、竜神の知識というのも気になる。国の事と個人の興味を天秤にかけるのもおかしな話だが、シトリの件は兄上が直接調べに行くことも可能だろう。調査事が得意な人ではないが、確かな実力と立場を持っているのだから下手に裏から調べるより効率的な部分もあるかもしれない。




解の出ない問題に逡巡していると、暫く静かに見守っていたフェロンが口を開いた。


「これは確かな情報ではありません。あくまで噂程度の物だと思ってほしいのですが、ルルさんたちの目的地までは砂漠ではない・・・はずです。」


一瞬、彼女が何を言っているのか理解が出来なかった。神話の地図で確認しても間違いなく砂漠地帯が広がっていたし、王都で手に入れたウアルの地図をいくつか確認しても、同じように砂漠が広がっていた。


「私が直接調べたわけではないのですが、このレスト山脈というのは、世界的にも有名な雪山だったのです。といっても、300年ほど前でしょうか?かなり昔の話ですが・・・。」


砂漠の中心にある山脈を指さしそう説明する。だが世界的に有名と言われても今まで一度も聞いたことがないし、300年前程度ならルルたちも知っているのではないかと思う。


「レスト山脈はサンタナ領の一角でもありますから、一度サンタナ領内のどこかの町で情報を集めるといいかもしれません。それと、一般的にはですが、仮に砂漠を超えるのであれば、隠密や盗賊系の眼は必須だと言われています。」


砂漠内はとにかく暑く休息地も少ない上、天然の流砂もあれば魔物が似たような罠を貼っていることも少なくないと言う。安全な道順を見つけるためにも斥候などは必須だという。


だが、あの三人にそれが必要なのかは正直微妙なところだ。遺跡内ならともかく屋外であるのだから、空を飛べる彼女たちにとって流砂は罠にもならない。魔物も同じく問題にならないだろう。


「問題が生じるとするなら、幻惑の魔法がかかっていた場合だろうな。あれは見抜くことは出来ないだろうし、フェロン殿の情報も踏まえて考えるのならば、砂漠に幻術がかかって雪山に見えるのか、雪山に幻術がかかって砂漠に見えるのか・・・。いずれにせよ装備も対策も真逆の物になるな。」


確かに砂漠を超えるための装備で雪山に挑んだら大変なことになるのは明白だし、逆もまた然りだ。・・・だがどうにも、この二人もうまいこと僕がルル達についていくように誘導しているようにも感じる。


「あなたは年の割に落ち着いているというか、枯れてますねぇ・・・。女性関係で何か嫌な思い出でもあるのでしょうか?」


フェロンが溜息交じりに質問をしてくるが、特に何も答えたりはしない。というより、答えになるような思いでなど特になかった。せいぜいノエル様や母を見て育った身であるがために、強い女性という者はやっかいな性格の人が多いと感じ、面倒くさそうだなと感じている程度だ。


そして、表情に出てしまっていたか心を読まれたのか、ノエル様に頭を叩かれて解散となった。







「弱い自分が・・・本当に嫌になってくるな・・・。」


任務であるならば、優先事項の判断もつくし、やるべきこともすぐに判る。だがどうにも自分のこととなると、決断をするのが苦手な性格で、どちらを取っても必ず後悔してしまうだろう自身の心の弱さにまいっていた。


時刻は深夜、結局国へ戻るのかルル達についていくのかすら決めることが出来ず、宿で休むことも出来ずに町中を一人ふらついていた。


「いっそ事件でも起こってくれればなぁ・・・。」

「何物騒なこと言ってるのよ・・・。」


深夜の、人の通りも殆どいない町中で突然声を掛けられてしまい驚いて振り返れば、何かを買い込んだのか大きくなった袋を抱えたルルがいた。


「これ?これは食料よ。砂漠にまともな食料が落ちているかわからないから、とりあえず買えるだけ買っておいたのよ。まあこれを持ち歩くのはシール君になるんだけど。」


すっかり荷物持ちになってしまった竜神を思い苦笑が零れる。ずっと一人で悩んでいたからだろうか、どうにも表情が暗くなっていたようで、そんな僕を見たルルに、とりあえずついてきてと手を引かれ、町の外まで連れてこられてしまった。


「それで、何を悩んでいる・・・のかは大体想像がつくわね。」


どうせ、どっちに行こうか迷っているんでしょと当てられ、一人で悩むよりいっそ二人で悩んだ方がいいかもしれないと、隣に座り心情を吐き出した。


「なるほどね。気持ちはわからなくもないわね。昔、リリムが似たような子だったし、何かあるとすぐ私に判断を任せてきてたからね。」


思い返してみれば、確かにリリムもなんだかんだ言ってルルへ意見を求めることが多かった。それは単純に知識や思考力の差からの判断でもあったのだろうが、悩める時に相談する相手がいるというのは少しばかり羨ましい。


「なら、あなたも私を頼りにしたらいいんじゃないかしら?私は、当てにされるのは好きじゃないけれど頼られるのは嫌いじゃないわ。」


「だけど、これ以上迷惑を掛ける訳には・・・」

「だったら迷惑を掛けなくなるまで強くなればいいんじゃないかしら?」


リリムがそうしているように。と言われても、彼女が何百年と鍛錬を続けてなお、ルルの足元にも及ばないのだから僕など話にならないだろう。


「どうにもあなたは考え方が後ろ向きねぇ・・・。必要な時の行動力は素晴らしいのに・・・。」


幼いころからとんでもない人たちに囲まれていたせいか、どうにも自分に自信が持てず鬱屈とした性格になってしまったようだ。


そんな様子を見かねたのか、ルルが立ち上がりスカートについた土汚れを落としながらこちらへ体を向けた。


「私の人生観でいうとね、悩んでいるよりさっさと決断して、その選択が正しかったと言えるように頑張るほうが健全だと思うわ。不明慮な未来を考慮するより、思い描いた未来を現実にするのよ。あなたは聡明な人だから、きっとそれが出来るわ。・・・それと、その最初の一歩は・・・私があげるわ。」









そういってルルは、僕の頬に両手を添えて、唇を重ねてきた。ほのかに香るお酒の匂いは、先ほどまで彼女が飲んでいたのであろう葡萄の、甘美な味わいを与えてきた。

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