6話 出発の時
「姉様、そろそろ・・・」
帰りたいのか、この話だけでも終わらせたいのか、ルルによるリリムのかわいい話が際限なく続いている中、リリムが口を挟んできた。
「あら、そうね。私としたことがうっかりしていたわ。まあリリムの魅力を多少は伝えることができたでしょうし、今日のところはここで終わりにしましょう。」
気が付けば日も傾てきている時刻。当初の予定では今日の朝方にはこの町を出て、次を目指す予定だったが、今更1日2日のズレなど気にはしない。そもそも目的こそあれど、絶対的な旅でもなくのんびり生きている最中なのだから。
「そうだね。出発は明日になるかな?今晩の宿の手配はこちらでさせてもらいたい。感謝とお詫びもかねて、ね。」
昨日も飛び込みでなんとか宿を抑えることは出来たが、今日も泊まることができるとは限らない。その場合は野宿になるだろう。
「それはありがたいわグラ。でも、今から取れる宿なんてあるのかしら?」
「その点は心配ない。僕が泊まってる宿舎に空き部屋があるはずだからね。都合をつけてもらうよ。」
グラは表向き王国軍からの派兵、監査騎士としてここに来ているらしい。監査も終わり自分も明日帰るらしいので情報探しのついでについていくことにしよう。
何百年も引きこもっていた姉妹は、未だ訪れたことのない土地が多い。この旅は知らない土地を巡ることも目的に含めている。
国の中心となれば、おいしい食べ物も知らない情報もたくさんあるだろう。
グラとしても、私たち姉妹を味方に引き込めればこれほど大きな利益はないだろうし、断ることはないだろう。
その夜、宿舎内は様々な声が聞こえてきたが、おおよそ好意的な声だったので一安心だ。
リリムを嫁に欲しいという声には賛同しつつ威圧しておく。彼女は私の妹で、大切なパートナーだからね。
「さあ、行きましょうかグラ。私たちは首都の場所を知らないから、案内してね。」
「よろしくお願いいたします。」
「本当についてくるのかい・・・?」
翌朝、困惑するグラの背中をポンと押し、出発を促す。私たちがついてくることに、あまり好意的ではないようだ。これはちょっと予想外。というより、自意識過剰だったかしら?
「いや、君たちが来てくれること自体はありがたい。山脈には危険な魔物も多くいるらしく、遠回りでこの町まできたんだ。2人がいてくれればそこを突っ切ることができるだろうからね。ただ、なんというか・・・僕も一応年ごろの男だからね・・・。」
「なるほど、そういうことなら問題ないわ。手を出したくなったら出してもかまわないわよ?ただし、私にだけね。リリムに手を出したら消すわよ。」
「私は別にかまいませんが、姉様に手を出したら消し飛ばします。」
「詰んでる・・・。生き地獄だね・・・。」
溜息交じりに苦笑いをしつつ、3人は国の首都を目指す。
こうして始まった3人旅。長く生きている中で姉妹以外を含めて旅をしたのはこれが初めてで、これが最後だった。