52話 異種族三人娘
「とりあえず、あなたたちはこの屋敷に捕まっていた奴隷・・・ってことで間違いないかしら?」
一人ずつ順番に枷を外しながら確認していく。一応保険のため首輪だけは外さずに残しておき、問題ないと分かったら外すと伝え、紅茶と甘味菓子を差し出す。
「助けていただき感謝する。それに食料まで分けて頂けるとは・・・。私の名はレオナ。こっちの犬がアルルで、羽が生えているのがセインだ。」
そういって彼女の両脇に座る二人を指し示す。犬の異種族の子アルルは頭から耳が生えているし、セインという子は背中から白い羽が生えている。羽の色合いからして鶴とか鷺だろうか?だがそれにしてはしっかりとした力強い羽をしている。
「私はルル。遺跡の調査とかも少ししてる旅人よ。それと彼女はリリム。私の妹。よろしくね。」
「偉大なる魔導士ルル様と同じ名前だー!」
名前を伝えた途端突然立ち上がり興奮しだしたが、アルルお座り!とレオナに一喝されしゅんと椅子に座り直している。偉大なる魔導士とは一体なんのことだろうか?
「すまない、連れが失礼した。さて、何から話せばいいのやら・・・。」
「それなら今の、偉大なる魔導士っていう呼び名に関して教えてもらえるかしら?」
自分と同じ名前の人間は過去にも幾人か巡り合ったことがある。もしかしたらその中の一人を示しているのかもしれない。だが話を聞く限りではどうも私の事を指しているように聞こえてならない。
「彼女の名前、アルルというのは、その偉大なる魔導士から取った名前だそうだ。そして偉大なる魔導士とは700年前、英雄アガレスや剣聖ウォレウォルと共に魔竜を倒した当時の冒険者のことだ。英雄たちの仲間ではなく、戦いの後褒賞も受け取らずに旅立ったらしくてな。彼女の故郷であるウォレウォルの森では吟遊詩人によって色々な逸話が語り継がれているらしい。」
「あとね!あとね!そのルル様の隣には同じ髪色をした美しい"少年"がいて一緒に旅をしていたんだよ!」
アルルの無邪気な発言に思わず吹き出してしまった。700年前に魔竜を倒したルルというのは間違いなく私のことだろうし、であるならば、隣にいた少年とは・・・
「・・・当時はスカートではありませんでしたからね。姉様ほど女性的特徴がある訳でもないですし。」
小さな声でそう呟くリリムをチラっとだけ見ると、胸元に視線を落とし少しばかりどんよりとしていた。三人がこちらを不思議そうに見てくるのをなんとかごまかし、話を逸らす。
「そんなすごい魔導士がいたのね。ごめんなさいね、私は吟遊詩人の話はあまり聞かないものだから。」
歴史をこの目で見てきた私たちにとって、吟遊詩人の話はひどい歴史改善のように聞こえてしまい、吐き気がする。それでも民衆は英雄を望んでいるようで、まさか適当に攻撃してみたら一撃で倒せてしまったなんて話は聞きたくないだろうし信じたくないだろう。
アガレスとウォレウォルという名は当時も聞いたことがある気がする。やたらごつい戦士と双剣の剣士だったが、共に戦った記憶はなく、私たちの知らない所で歴史に名を残すほどの活躍をしたんだろうなと思っていたが、まさか歴史に名を残すことになった戦いが、アレを倒したことになっているからとは知らなかった。
「私もね!ルル様みたいなすっごい魔法使いになりますようにってこの名前を付けられたの!・・・でも私は魔法より剣のほうが適正があったみたいだからウォレウォル様みたいな双剣使いを目指しているの。」
誇らしげに、でも少しばかり残念そうに話すアルルの腰元には剣など1本もなかった。収納魔法にしまっている可能性もあるが、状況から察するに取り上げられたのだろう。
「あなたのことはわかったわ。問題なさそうだし首輪も外してあげるわ。」
ひとまず話を聞いて問題ないと感じたため首輪を外してあげる。それを見て自分のも外して欲しいからとセインが話だした。別に話さなければ外さないという訳でもないのだけれど、聞かせてもらえるなら静かに聞いてあげよう。
「改めまして、私はセインと申します。生まれは北方の名もなき寒獄の集落ですので寒さ以外に話すことがないですね・・・。名前の由来もわからないですし、レオナ様に拾ってもらえなければ私も死んでいたと思うので・・・。えっと・・・、私は戦いとかも苦手で、走るくらいしかできないです・・・。ごめんなさい・・・。」
言葉を紡ぐ度に声量が落ちていく。随分と暗い性格のようでアルルとは対照的な印象を受ける。だがそれでも、回復魔法は結構使えるとレオナに言ってもらえて少し表情が明るくなった。
「北方の・・・もしかしてあなたは天馬の種族でしょうか?」
リリムの発言に三人が目を見開く。種族に関しては意図的に隠そうとしたのだろうが、その翼と北方出身と言ってしまえばわかる人にはわかる話だ。
彼女の故郷に名がないのは、名を残すような風習のある種が誰もいない土地であるためだろう。四方を山や海に囲われ、常に吹雪いているような土地では作物も満足に育たない。そんな環境で生きていける種族は生きていく上で普通の食事を必要としない種族のみである。そして天馬という種は魔力を食料代わりに出来る種であるため、むしろ外敵も来ず、寒さにも高い耐性を持つ天馬たちの集落があるのを見たことがある。
「すごいな・・・今の話だけで見抜いたのもそうだが、それだけの知識を一体どこで手に入れたのだか・・・。彼女は確かに天馬の種族。それも純血種の方だ。まだ未熟故、翼まで隠しきれていないのだがな。何がどうしてそうなったのかは誰も知らないが、幼いころにかの地から連れ去られてしまったらしくてな。こちらには彼女の生命を支えるほどの魔力濃度がある場所は限られてしまう。成体すれば多少は普通の食事も出来るようになるらしいのだが、彼女はまだ飲み物を飲むくらいでな。」
確かに普通の土地で天馬を育てようとなったら、普通の人間にとって有害な毒となってしまうほどの魔力濃度が必要になるかもしれない。この辺で言うなら魔霧海域くらいだろうか?だがあそこは魔力濃度だけなら問題ないだろうが、さすがに生活できるような場所ではない。
そして、そんな彼女を救い命をつなぎ留め育ててきたというこのレオナという女性は最初に会った時に感じた印象通りやはり・・・
「最後はあなたね。当てていいかしら?あなたは精霊族。それも炎と氷の混霊種よね。生まれたのはいまからおよそ180年前ってところかしら?そしてセインさんが生きていられるのはあなたの魔力を糧にしているからね。」
ピタリと当たったらしく、今度はレオナが椅子を倒し勢いよく立ち上がった。そしてそれを見てアルルがレオナ様お座りと言って睨まれていた。ただの主従関係というだけでなく、三人は随分と仲がいいのだろう。
「ごほん・・・失礼した。だが何故・・・。」
「何故というほどのものでもないわ。あなたのご両親とはちょっとした知り合いでね。以前、子を成すことが出来たとか、レオナと名付けたとかって報告の度に人の家を燃やしたり氷漬けにしたりしてたあの馬鹿二人の面影があるものだから。」
親の悪口を言われ一瞬顔を歪ませたが、彼女にも心当たりがあるらしく特に反論もせず溜息をついた。
「随分と意地の悪い方に助けられたものだ。確かにあなたの言うとおりだ。セインは私の魔力を分け与えることで生きている。それと、両親の知り合いということはあなた方が私の両親が話していた二人なのだろう。確か遥か昔から生きているという・・・。アルル喜べ。偉大なる魔導士様本人だ。」
ぽかんとするアルルとセインをよそに、くつくつと笑いだしたレオナ。
妙な縁もあったものだ。遥か昔同じように捕まっていた二人を助け出し、今その二人の娘をまた助け出したのだから・・・。




