51話 隠れ民家
「レオナ様ぁ・・・私たちどうなっちゃうんでしょうか・・・。」
室内に情けない声が響く。巻き込んでしまったのは申し訳ないがそのような声を出されても現状は何も変わらない。だからこそ、余計な体力を使わずに待つしかない。
「女ばっか集めて売り飛ばす先なんて、どこだろうとヤバい奴らしかいないでしょ。奴隷として生きていられるならまだマシよ・・・。下手な貴族に買われたらすぐに死んでしまうでしょうね。」
「やだぁ・・・私まだ死にたくないよぉ・・・。」
二人が捕まったのは私のせいだ。私がもっと早くに敵に気が付くことが出来ればこうはならなかった。だがそれも、彼女の鼻と耳ですら感知できないような相手を見つけることなど叶うはずもなく、私たちは捕まってしまった。
閉じ込められた狭い檻は鋼鉄でてきているから力づくでの突破は不可能。ご丁寧に魔力封じの首輪に、腕輪に、足枷まで付けられているため魔法など何も使えなくなってしまった。
「それでも・・・大丈夫。希望はまだある。私の気配に気が付いた人が近くにまで来ている・・・。」
「見つけられる訳ないですよ・・・。アルルの耳も鼻も、何にも感知できなかったんですよ。レオナ様の気配を追ったところで、近づくのが関の山。結局どっかいっちゃいますって。」
暗くて表情は見えないが、涙を流して項垂れているであろうアルルと、諦めて項垂れているであろうセインに向けて励ましの言葉を送り続ける。
捕まってから三日。飲まず食わずで放置されてしまっていては例えどこかに売り飛ばされずとも、いずれ飢えて死ぬだろう。
だからこそ、この近づいてくる気配の人に賭けるしかない。もしこの人たちが気が付かずどこかへ行ってしまったら、その時はこの命を贄とし、せめて彼女たちだけでも救おうと心に誓う。
「んー・・・とりあえず全員倒したはいいけど、これどうしようかしら?」
民家の中へ入っていき、とりあえずこちらへ敵意を持っていた者は全員倒して捕縛してある。領主に伝えて捕まえてもらおうと思ったところで、彼らが一体何者で何をしていたのかがわかっていなかった。
「これだけ念入りに隠していたのですから、違法なことをしていたと思いますが、証拠も何もないのに踏み込んだのは勇み足でしたかね。」
現状このままだと自分たちのしていることは強盗と何ら変わりがない。不思議な気配を追って不思議な民家に入り込んで、気のむくままに行動してしまったため、万が一この民家が何も問題なかった場合はこちらが罪人になるし、国が管理している施設だったら国際手配されてしまうかもしれない。
「と、とりあえず何かないか探してみましょ。ほら、この扉の奥から私たちが感じてた気配もするし。」
呆れ顔のリリムを後目に、厳重に鍵が掛けられた扉を破壊し中へ入っていく。
鍵だけ壊せばいいのではないかというリリムの言葉は聞こえないふりをした。
「なんか、屋敷の中が騒がしいよ?もしかして助けがきたのかな?」
アルルの耳が屋敷内の喧騒をとらえたらしい。よく耳を澄ませば確かにわずかだが物音が聞こえる。だが助けに来たからといって助かるかはまだわからない。
そもそも、例え隠密の魔法に長けた者たちとはいえ、私たちが成す術なく捕まったのだ。相当の実力者でもない限りここの奴らを相手にするのは難しいだろう。だがそれでも、期待せずにはいられない。両手を胸の前で組み祈る。
そして、この部屋を塞いでいた扉が吹っ飛ばされた。
「な!?何!?何が起きたの!?」
「扉が・・・吹っ飛んだ・・・?」
アルルもセインも現状に理解が追いついていない。そしてそれは私も同じだ。扉を破壊し現れたのは金髪の少女が二人。顔はまだよく見えないがスカートを履いていることと、胸に膨らみが見えることから女性であるとみていいだろう。そして、この二人が果たして味方なのか敵なのかはまだ判断が付かないため迂闊なことを言えない。・・・のだが、アルルが涙声で二人に声を掛けてしまった。
「うわああああん!助かったんだ!私たちを助けてええええ!」
「ほら!見なさいリリム!悪事の証拠があったわ!これで問題ないわ!」
自分たちが罪人にならずに済んだと姉が喜んでいるが、まだこの屋敷の住人が悪であると決まった訳ではない。世界にはしっかりとした法令整備の元奴隷の売買を行っている国もあると聞く。行き倒れ、死ぬしか選択肢がないような者を救う術として奴隷商売が黙認されている国や地域をいくつか知っている。この国がそうかは分からないが、結論を出すには少々早計ではないかと思う。
だが、この姉はこういった天運には恵まれているのか、捕まっている一人が泣きながら助けを求めてきた時点で、違法商売であると判断していいだろう。
ならばやるべきことは、この三人を解放し事情を聞くことだろう。必要であれば領主にも報告しなければならない。
「檻の天板から少し離れてください。今開けますので。」
「は?鋼鉄の檻をどうや・・・てぇ!?」
右手に魔力を乗せ左脇から居合斬りのように一閃する。さすがに鋼鉄に多少の魔力強化を行った程度の物に負けることなどなく、綺麗に切ることができた。
「向かいの部屋に私の姉が話し合いの場を整えています。もし、あなたたちが抵抗する意思がないのであればそちらへ向かってください。」
「て、抵抗しようとしたらどうなるの・・・?」
涙目で訴えてきた彼女は人の話を聞いていなかったのか、天板に頭がピタリとついてしまっている。しかたなく残りの一人の方から助け、最後に彼女の檻を縦に切り落として聞こえるように呟く。
「あなたの体は、この檻よりも切りやすそうですね。」
彼女は慌てて走り出し転び四つん這いになって地を這いながら向かいの部屋へ入っていった。
・・・少し脅かしすぎましたかね?




