50話 スーレ領の港町
「グラっちって本当に王族なんだねー・・・。」
「今まで何だと思ってたんだ・・・。」
ウアル連合国スーレ領の港へ船を停め、入国審査を受けた際に王族であることを示した所、残りの4人は名前を聞かれただけで入国することができた。さすがにノエルはそのままという訳にはいかず、ノルンと名乗っていたが。
「そうね。アガレスに入った時ですらもっと時間がかかったのに、名前だけで入国できるなんてすごいわね。」
こちらの目的が王都なので長居は出来ないが、だからといって他国の王族を1日ももてなすこともなく行かせては領主としても顔が立たないということで、やや強引にではあるが領主亭へと招かれた。
「なるほど、アガレス王国では今そんなことが・・・。確かに周辺貴族は多少の不満も言うでしょうが、事情を知って無理難題を言ってくるほど愚かではありませんから、心配なさらずともよいでしょう。」
スーレ領の領主は貿易と漁師の町だけあって、中々力強そうな印象を受けた。貴族ではあるが自ら漁にでることも多いらしく指先などは現場で働いている人特有の、固い肌になっていた。
現在はグラ・ノエル・シールの三人で領主亭にてもてなしを受け、ルルとリリムは情報収集という名の食べ歩きに出ている。シール曰く貴族用の食事はおいしいけど量が少ないのが二人にとって不満らしい。他国の人間が多く領主亭に入り込むこともあまりいいことではないので特に誰も反論せずに見送った。
そうして一夜を明かし翌日の出発を待つ。スーレ領からキセ領領主亭までに続く町村にはすでに通達を送っているため、王都への道中は特に問題なく進めるそうだ。また、他国とはいえ王族に対して強制的にあれこれする権利など持ち合わせていないため、急ぐのであればキセ領領主には軽い挨拶のみで通って平気なよう手配してくれた。
「キセ領領主は先代が病で亡くなってしまったがために世代交代をしたばかりですが、若くして中々良き領主です。それに美しい未婚の女性ですから一度立ち寄ってみることをお勧めしますよ。」
脇に立っているシールが一瞬反応したような気がしたが、若く見えてもさすがは何百年も生きている竜神なので己を律する術は持ち合わせているようで特に表情に出したりはしていなかった。領主を見せ物のような発言はどうかと思うが、事実領主目当てに訪れる者が多いらしく、不純な理由だが賑わっているらしい。
「そういえば第一王子の結婚に関してですが、領主の方々はご出席されないのでしょうか?」
ふと思いついた疑問をぶつけてみる。自国の王族の結婚となれば、アガレスなら各町村の長であったりが集まるのだが、ウアル連合国はどうなのだろうかと尋ねれば何かを思案するような表情になった。
「ふむ・・・。友好国であるアガレスの王族であることを信頼しお話しします。国秘というわけでもないので調べればわかることではあるのですが、ウアル連合国の結婚に関しては、他国からの方々を多数お招きしますので、領間であったり領内の治安維持に領軍や時間を割いているのです。他国の方々が帰国された後で王子様が各領へ赴き視察を兼ねた挨拶周りを行う慣習があるのです。」
そして、その挨拶周りの際が最も護衛が少ないらしく、他国からすれば唯一にして絶好のねらい目にもなってしまうためあまり他言しないようにしているらしい。
その後も話を続け、主に貿易の話や名産品の話だったが、夜もいい時間になるまで盛り上がった。ノエルとシールは早めに退出し休めるよう手配してもらい、ノエルは部屋で休み、シールは領主お抱えの召使たちを男女問わず虜にしていたらしい。見た目はかっこいい少年な上中身は竜神としての知識を持ち合わせているから人気が出るのもよくわかる。
「さてリリム。私がどこに向かうかわかるかしら?」
「もちろんわかっています。」
領主亭前でグラたちと別れた際、情報収集に向かうとだけ伝えた。おそらくグラとノエルは食べ歩きをしてくるんだなと思っていることだろう。事実食べ歩いてもいる訳だが、目的はそれだけじゃない。この漁師町に入ってからずっと感じている異質の気配。繁華街の外れから感じるその気配はこちらからも魔力反応を出してみると、さっきまでより強く感じるようになった。
「人目の少ない場所ですね。戦闘狂でもいるのでしょうか?」
わざと強者を誘い出し闘いを挑む者もいるにはいるが、今感じているのはそれとは違う感じがする。気配の漂わせ方が無差別であったし、なにより多少だが弱っているような印象を受ける。
「どちらかというと、強者が間違って奴隷商にでも捕まって助けを求めているような感じがするわね。」
「強者が奴隷商になど捕まるのでしょうか?あぁ、いえ、そうですね。有り得ますね。食い倒れて眠りこけてしまっていたりしたら。」
誰のことを言っているのか、半目になってこちらを見てくるリリムを無視して気配の出所を探る。そして、たどり着いた所は見た目はなんの変哲もない普通の民家のような場所だった。だが周りは木に囲まれ、家自体に姿隠しの魔法が掛けられている時点で明らかに異質であった。
「さて、潜入捜査は苦手なのだけれど、頑張りましょう。」
そういって姉妹は、民家へと入っていった。




