5話 竜神の財宝
「私たちからも1つ、いいかしら?」
ルルの言葉に静かに頷くグラ。ここのところ、というか昨日、姉が散財をしたせいで懐が少しばかり心もとない。悪人を捕らえたのだから報奨金が出ないかと交渉して貰いたい。
私は、(力づく以外の)交渉事は苦手だからこういった場は完全に姉任せにしている。
「私たちの旅の目的は昨日話した通り、700年前の財宝を探しているの。特に何が必要って訳じゃないけど、まあ私たちの財宝だから人に取られるくらいなら自分たちの食費にしてしまおうと思っているの。」
彼女たちが知りたいのはおそらく財宝の在処だろう。
さらっと自分のものだと言うルルに少し驚愕したが、なるほど1000年以上生きているんだ。そういうものもあるだろうと半ば思考を放棄し納得する。
それにしても、700年前というと・・・
「700年前、この世界では魔王が暴れていたとか、当時の勇者が世界を救ったとか、曖昧なおとぎ話が残っているくらいだね・・・。そもそも本当にそんなことがあったのかすら僕たちは知りようがないんだ。」
「魔王というのは少し違うわね。倒されたのは"絶望の竜神"。この世界にはそれぞれの理を司る竜神がいる。おとぎ話などではなく実在するわ。そして700年前、人か、あるいは自分か世界か、理由は分からないけれども何かに絶望した竜神の1体が狂乱していたの。それを倒して、竜神の財宝を手に入れたのだけれど・・・。転移魔法に失敗しちゃって私もリリムも世界の彼方に飛んで行ってしまったの。」
自分が飛ばされたのはどこかの山の中に埋められてしまっていて1年くらい眠っていたのだがおなかが減ったから頑張って脱出したと、こともなげに笑いながら伝えるルル・・・
竜神や魔王より、彼女たちのほうがよっぽどおとぎ話のようだ。
「竜神は絶望し狂乱してもなお、己が理を操ります。本来ならばその竜神が使う魔法で、どの竜神か判明し場所もある程度特定できます。いえ、できるはずだったのですが・・・」
「私たちも竜神がどのくらい強いか分からなかったのよね。それで、リリムと一緒に適当に魔法を打ち込んでいたら倒しちゃって、どの竜神か分からずじまいだったのよね。」
先ほど、彼女たちは"永遠の時間を鍛錬に使えれば誰でも強くなる"的なことを言っていたが、そんな雑に竜神を倒すことができるようになるまで、一体どれだけ鍛錬が必要なのだろうか・・・。
「例えば、各龍神を探し出して足りない理を持つ竜神を推測するというのはどうだろうか?」
19年しか生きていない自分の案など、彼女たちが考え付かないはずもないが、何も提案しないのもどうかと思いとりあえず聞いてみる。
「そうね・・・。風と水でないことはわかるのだけど、それ以外は分からないのよね・・・。」
そもそも竜神がどのような仕組みで生まれるのか、何体いるのかも分からないという。300年ほど研究をし何も成果が出ず諦めたというのだからとんでもない話だ。
だが、気になる点はある。風と水が違うと何故わかるのか。
「風の竜神"シルフィード"とは知り合いなのです。水の竜神"エリアス"に関していえば深海にいることが殆どですし、私たちが戦ったのはどこかの洞窟だったので、まず違うかと。」
「シール君はかわいいのよ。誰かと違ってお姉ちゃんって呼んでくれるし。でも、リリムと結婚しようとしているのは少し許せないけど。」
「あねさ・・・お姉ちゃん・・・」
少し、というかかなり照れながらボソっと放った言葉は、屋敷を消し飛ばした魔法より強力だった。
グラもルルも鼻を抑えて俯いている。